03.ビクトリア、異変に気が付く
魔法陣を動かしたアリスが、テオドールと共に消えてしまった、ちょうどそのころ。
夕方の気配が漂う中庭を、ビクトリアが歩いていた。
「こんばんは、ビクトリア様」
「ひめさま! ばんわ!」
中庭にいた大人や子どもが、ビクトリアを見て笑顔で挨拶する。
にっこり笑って挨拶を返しながら、ビクトリアは思った。
今日も何事もなく終わって良かったわ、と。
そして、鍛冶小屋の方に歩いて行くと、ちょうどガンツが小屋に戻ってくるところだった。
どこか残念そうな顔をしている。
(どうしたのかしら)
声を掛けると、ガンツが振り向いた。
ニカッと笑顔になる。
「おう、姫さん。いい晩だな」
「ええ、本当に。ところでどうしたのですか、浮かない顔をして」
ガンツが頭を掻いた。
「それが、ちょっと魔ハンマーの調子が悪いんで、アリスに見てもらおうと思ったんだが、どこにもいなくてな」
「そうなのですね」
そう答えながら、ビクトリアは思った。
たぶん、地下の隠し部屋にいるのね、と。
(最近、ずっと籠っているという話ですものね)
その後、ビクトリアは裏庭に向かった。
裏庭では、オーウェンやフレッド、エマなどの騎士たちが剣の稽古をしている。
フレッドがビクトリアを見て、陽気に手を挙げた。
「こんばんは! ビクトリア様! どうしたんですか?」
「少し様子を見て回っているの」
すると、エマが尋ねた。
「ビクトリア様、テオを見ませんでしたか?」
模擬戦に誘おうと思ったのだが、どこを探してもいないのだという。
「部屋にもいなかったの?」
「はい」
エマの答えに、ビクトリアは黙り込んだ。
何となく嫌な予感がする。
彼女の様子を見て、オーウェンが口を開いた。
「探しますか」
「ええ、そうした方がいい気がするわ」
そこから、ビクトリア、オーウェン、フレッド、エマの4人は、アリスとテオドールを探し始めた。
部屋はもちろん、尖塔に登ったり、食堂を調べたりする。
食堂のリンダから
「今朝、調べ物があるとかいってお弁当を持っていったよ」
と聞いて、ビクトリアは隣にいるオーウェンを見上げた。
「やっぱり地下かしら」
「おそらく」
その後、ビクトリアは地下の隠し部屋に潜った。
大魔法陣の部屋から小部屋まで見て回るが、2人の姿はない。
その後、古城中を捜索するが、どこにもいない。
エマがボソッとつぶやいた。
「……もしかして、外の教会跡に行ったんじゃないかしら?」
エマによると、以前アリスに尋ねられたという。
「地下はないかって聞かれました。すごく興味を持っているようでした」
ビクトリアは黙り込んだ。
アリスは、魔法陣の分析に難航していると言っていた。
もしかして、手掛かり欲しさに、テオドールと一緒に外に探しに行ったのではないだろうか。
(まさかそんな……)
とは思うものの、アリスなら魔法陣のためにやりかねない、と思う。
そして、おそらくテオドールはアリスの頼みを断れない。
彼女は空を見上げた。
もう既に夜で、満月に近い月が顔を出している。
ドラゴンの活動が夜に活発になることを考えると、探しに出るには危険すぎる時間帯だ。
逡巡の末、彼女は口を開いた。
「明日朝までに2人が戻って来なかったら、捜索隊を派遣しましょう」
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