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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第2章 謎の古城

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17.結界の魔法陣

 

 石の扉の先の光景を見て、アリスは思わず目を見開いた。


 そこにあったのは、金色の光を放つ、見たこともない巨大な魔法陣だった。

 直径は5メートル以上で、内部にはぎっしりと複雑な文字や記号が書き込まれている。



「しかも、これ古代魔法陣だ! す、すごい! すごすぎる……!」



 アリスは口を半開きにして立ち尽くした。

 自分が4年かけて開発した広範囲防御結界など、これに比べたら子どもの遊びだ。


 魔法陣の知識がないテオドールでさえ、その圧倒的な凄さを前に言葉を失っている。


 アリスは周囲に素早く目を走らせた。

 壁には壁画のような絵が一面に描かれており、所々に石がはめ込まれている。



(何の絵だろう)



 そう思いながら、彼女は魔法陣に歩み寄った。

 傍にしゃがみ込むと、魔法陣が描かれている板状の金属を軽くコンコンと叩く。



「……やっぱり。これ、ミスリルだ」

「この台座全部ミスリルってことですか?」

「うん。ミスリルの魔剣1本で王都の豪邸10軒買えるらしいから、この台座だけで王都が買い占められるね」



 アリスは注意深く光る魔法陣を見た。

 隅々までちゃんと魔力が流れており、滞っている様子はない



「……状態はいいと思う。どうやって動いてるのか分からないけど」

「分からないんですか」

「うん。だって、誰も動かしてないよね、これ」



 魔法陣を動かすためには、魔力を注入する必要がある。

 しかし、こんな場所にある魔法陣に、誰か魔力を注入しているとは思えない。



「この魔法陣自体、わたしの知識の遥か上をいってるから、知らない原理が働いているとは思うんだけど……」



 そうつぶやくように言いながら、アリスは食い入るように魔法陣を見つめた。

 これは分析しがいがある。



(早く分析したい!)



 目を輝かせる彼女を見て、テオドールが苦笑いした。



「アリスさん、とりあえず先に今後の方針を決めてしまいましょう」

「そ、そうだね」



 アリスは我に返った。

 目的を忘れるところだった。


 目に入ると吸い込まれそうになるため、アリスは魔法陣に背を向けた。

 テオドールとこれからについて話し合う。



「この場所については、ビクトリアさんにとりあえず報告ですね」

「そうだね。あまり広まらない方がいいかもしれない」



 誰か好奇心で入って魔法陣を触ったら、大変なことになる。

 これは秘密裏に分析した方がいい。



(まずは、ざっと内容を把握して、その次に詳細を分析して……あ、その前に魔力がどこからきているか探らないと)



 猛スピードで頭を動かして、今後のプランを立てる。

 これからの分析生活を思うと、わくわくが止まらない。



(楽しみだなあ)



 しかし、そんなアリスを前に、テオドールがとんでもないことを言い出した。



「では、明日ビクトリアさんに報告して、それから分析を始めましょう」

「ええええ!!」



 アリスは目を見開いた。



「明日から!? なんで!?」

「なんでって……、今何時だと思っているんですか」



 テオドールが呆れたように言う。

 アリスは必死に彼に詰め寄った。



「いや、時間なんて関係ないよ! 今ざっと分析して今後の方針を立てるべきだよ!」

「ダメです。寝てください」

「ええ! いいじゃん! 今日くらい!」

「そう言って野放しにしたら、すぐ3日徹夜くらいするでしょう。前に倒れたのを忘れたんですか?」



 アリスはツーッと目を逸らした。

 そういえば、研究所にいたころ、3日徹夜してテオドールの前でぶっ倒れて騒ぎになったことがあるなと思い出す。



(でも、こんなすごい魔法陣が目の前にあるのに寝るなんて……)



 諦めきれない表情をするアリスを見て、テオドールがため息をついた。



「わかりました。では、俺は別の部屋の様子を見てくるので、その間に見てください」

「……!」

「でも、絶対に徹夜はダメですよ」

「わかった!」



 口だけ良い返事をしながら、アリスは魔法陣に飛びついた。

 そんな彼女を見て苦笑いすると、テオドールがランプを持って部屋を出て行く。


 彼女は、ポケットから紙と鉛筆を取り出した。

 魔法陣の周囲を走り回り、夢中でメモをとりながら分析していく。

 未知の魔法陣を前に、楽しくて仕方がない。


 夢中になる彼女の横で、ランプの灯がユラユラと揺れる。




 そして――――




「アリスさん、アリスさん!」



 呼ばれてふと我に返ると、いつの間にか横にテオドールが立っていた。



「どうしたの、テオドール、なにかあった?」

「いえ、そろそろ戻ろうかと思いまして」

「ええ! まだ全然見れてないよ!」



 猛然と抗議するアリスに、テオドールが苦笑いした。



「……少しって、もう2時間くらい経ちましたよ」

「え、そんなに?」



 アリスが驚いて周囲を見回すと、ランプが目に入った。

 確かに油がものすごく減っている。


 テオドールが、水筒を差し出した。



「キリがないので、少し休んだら戻りましょう」

「そうだね……」



 アリスは渋々同意した。

 名残惜しいが、確かにこれは長期間かけないと分析は不可能だ。


 2人は壁際に座ると、光る魔法陣をながめながら水筒のお茶を飲んだ。


 アリスが尋ねた。



「テオドールは、何をしていたの?」

「俺は、ここに来る途中にある部屋を見てきました」



 通路に並んでいた扉をこじ開けたところ、全て同じような小部屋だったらしい。



「部屋の数は5つで、中は全て魔法陣でした」

「え、全部?」

「はい、この部屋にあるほど大きくはないですが、どれもかなりの大きさでした」



 アリスは考え込んだ。

 見たこともないほど大きな結界魔法陣に、魔法陣の入った5つの部屋。



(ここって、一体何なんだろう……?)




 その後、アリスは床に散らばったメモ用紙を拾い集めると、部屋を出た。


 ランプを掲げて通路を歩いていると、小部屋の入口が見えてきた。

 扉は開いている。

 アリスが覗き込むと、薄暗い部屋の中に魔法陣が見えた。



(あれもいつか分析しないと)



 そして、暗い通路を渡り切って階段を登ると、そこは見慣れたエントランスだった。

 2人が外に出ると、すぐに隠し扉が閉まり、何事もなかったような静寂が広がる。


 アリスがため息をついた。



「なんか、夢でも見てたみたいだね」

「……そうですね」



 テオドールがつぶやくように同意する。



 そして、2人が外に出ると、空の向こうが既に明るくなっていた。






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