13.ビクトリアの事情
ビクトリアが躊躇うように黙った。
横に座ったオーウェンと視線を合わせると、決心したように口を開く。
「助けていただくのに隠し事をするのは失礼にあたりますので、ご迷惑にならない範囲で、我々の話をさせてください」
*
ビクトリアによると、ここにいる人々は、元々ガイゼン王国の王都で暮らしていたらしい。
「でも、8年前、ちょっとした政治的な事件が起きました」
その結果、彼らは急遽、魔の森の中にあるこの古城に来なければならなくなったという。
「”冒険者バッツが、ヴァルモア領の森の中で、療養に相応しい城を発見した。そこで1年間療養せよ”という命令が下ったのです」
この話を聞いて、アリスは思った。
なんだか自分の時と似ている気がする。
その後、ビクトリアは王都を離れてヴァルモア領に向かった。
城の運営に必要な料理人や使用人なども同行しており、全員でそのまま森の中に入ったという。
ビクトリアはため息をついた。
「森に入ってからは、思い出したくないほどの苦難の連続でした」
「逃げることはできなかったのですか?」
「ええ、ほとんどの者が人質を取られていましたから」
そして、もうダメだというギリギリの状態で、この古城を発見したという。
「とりあえず安全だと分かり、我々はここで生活を始めました。予定では、ここで何とか命令通り1年過ごして王都に戻ろうと思っていました」
しかし、いざ帰ろうとすると、問題が起こった。
ここに来るまでの行程があまりにも過酷だったため、森がトラウマになってしまった者が多くいたのだ。
また、ドラゴンの出没周期も分かっていなかったことから、旅に出るのが危険だと思われた。
「そして、気が付けば8年経っていた、という次第です」
ビクトリアが話終わり、部屋が静まり返った。
当時のことを思い出しているのか、オーウェンの表情もどこか険しい。
(……なるほど、そういうことだったのか)
思った以上に大変な過去に、アリスは驚くと同時に納得した。
魔の森の真ん中にある不思議な集落に、超一流の鍛冶師ガンツ。
素晴らしい腕前を持つ料理人に、魔剣を所持するやたら強い騎士っぽい人々。
ずっと不思議だと思っていたが、今の話を聞けば合点がいく。
テオドールも同じように思っているようで、納得したような顔をしている。
そんな2人に、ビクトリアが尋ねた。
「簡単ではありますが、私たちの事情はこんな感じです」
そして、彼女は遠慮がちに口を開いた。
「それで、差し支えなければ、お2人の事情もお話いただけないでしょうか」
手練れの鍛冶師ガンツが舌を巻く凄腕の魔法研究者アリスと、
おかしいほど強い魔剣持ちの騎士テオドール。
謎の組み合わせの2人が、なぜ魔の森にいるのか不思議だったらしい。
アリスはチラリとテオドールを見た。
軽くうなずかれて、しゃべっていいんだなと解釈する。
「ええっと、実は、魔法の開発をしたら、褒美にヴァルモア領をやるから治めろ、って放り出されたんです」
ビクトリアが目を瞬かせた。
「ということは、アリスさんはヴァルモア領の領主でいらっしゃるのですか?」
「はい」とアリスはうなずいた。
「一応そうみたいです。あと、テオドールは完全にもらい事故です」
「もらい事故……?」
ビクトリアとオーウェンが不思議そうな顔をする。
アリスの視界の端で、テオドールが苦笑いした。




