02.アリスは、なぜ追放されるに至ったか(2/2)
本日3話目です
テオドールを見送ると、彼女は思案に暮れた。
(……確かに、所長は喜ぶかもね)
脳裏に浮かぶのは、グレーの髪に丸眼鏡の中年男性、
今は亡き、養父であり尊敬する研究者でもある、ビクターとの記憶だ。
*
アリスが物心ついた時には、すでに孤児院にいた。
幼い頃、ひとりでいたところを誰かに拾われ、連れてこられたらしい。
アリスに魔力があると気づいたのは、奉仕活動で孤児院を訪れたビクターだった。
彼は当時6歳だったアリスを引き取り、自分の家へ連れて帰った。
「私は魔法研究者でね」
案内された書斎は物であふれ、魔法陣が描かれた紙が山ほどあった。
アリスはそれらに目を奪われた。
丸い形や奇妙な文字、図形から目が離せない。
そんなアリスを見て、ビクターは魔法を発動してみせてくれた。
【起動・水球:魔法陣】
魔法陣が黄金色に輝き、頭上に小さな水球が浮かび上がる。
アリスは目を丸くした。
こんな不思議なことができる魔法陣に、一瞬で心を奪われる。
「わたし、魔法陣のこと、もっとしりたい!」
その日からアリスは勉強を始めた。
特に惹かれたのは、ビクターが専門とする「古代魔法陣」だ。
今とは全く違う設計思想で作られたそれらに、アリスは夢中になった。
(わたしも、古代魔法陣の研究家になる!)
そう決めてから、彼女は研究道をひたすら邁進した。
学園通学を試験で代替し、最年少の12歳で王立魔法研究所に入所。
大好きな古代魔法陣の研究に没頭する。
このままでは、とんでもない世間知らずの魔法バカになっていたところだが、養父のビクターはきちんと教育してくれた。
ある日、アリスが依頼された仕事を放り出し、古代魔法書に没頭していると、ビクターは厳しい顔で言った。
「アリス、やると約束した仕事は先にやってしまいなさい」
「……でも、今ちょうどいいところで……」
渋るアリスに、ビクターが珍しく険しい顔を向けた。
「君には信頼される研究者になって欲しい。約束した仕事は、最後まで責任を持ってやるんだ」
「……はい」
アリスは、しぶしぶ仕事に取りかかった。
面倒だと思いつつも、そういうものなのか、と思う。
他にも、ビクターは挨拶やお礼の仕方も厳しく教えてくれた。
アリスが、ただの『魔法バカ』ではなく、
『約束を守る魔法バカ』になったのは、間違いなくビクターのお陰だ。
――そして、研究所に来て3年後。
アリスは彼に『広範囲結界魔法』の研究に誘われた。
「実は私の故郷は、戦争で焼けてしまってね」
人々が平和に暮らせる魔法を開発したいと色々考えた結果、御伽噺でよく出て来る『広範囲結界魔法』にいきついたという。
「これを実現させれば、その中で人々は平和に暮らせると思うんだ」
御伽噺に出て来る魔法を実現させたいなんて、誰もが鼻で笑うような話だ。
しかし、アリスは、これを面白いと思った。
(なんか、できそうな気がする)
ということで、彼女はビクターと共に研究を始めた。
なにせ御伽噺の魔法なので、開発は難航した。
試行錯誤が続く。
そして、ようやく上手くいきかけたという矢先に、ビクターを不幸が襲った。
研究所に入ってきた、ジャネット・ファーガソンという公爵家の令嬢の教育係に任命されてしまったのだ。
ジャネットはかなり横暴な性格らしく、ビクターは彼女にしょっちゅう呼びつけられた。
研究する時間がなくなり、アリスが1人で進める日々が続く。
そして、そんな日々が2年ほど続き、ビクターが流行病にかかってしまった。
寝込んだと思ったら、あっさり亡くなってしまう。
(そんな……)
アリスは悲嘆に暮れた。
何もする気がしないほど深く落ち込む。
しかし、彼女はすぐに研究を再開した。
ビクターの遺志を継ごうと決心したからだ。
アリスは必死に努力を重ね、『広範囲結界魔法』の研究をようやく形にした。
論文も1人で書き上げる。
この状況であれば、普通は、この論文の著者はアリスになる。
しかし、彼女はビクターを研究リーダー、自分を助手とした。
この魔法の開発の発案者は彼だったし、彼には心から感謝していたからだ。
――その後、論文が大きな話題になり、受勲される流れになった、という次第だ。
*
アリスは、受勲式の招待状を手に取って見つめた。
アリス自身は、自分への勲章に興味はない。
このまま研究所で、頼まれた仕事をこなしながら、好きな古代魔法陣の研究を続けていければ、それでいいと思っている。
でも、テオドールが言う通り、勲章をもらったらビクターが天国で喜んでくれるかもしれない。
(行くか……受勲式)
そんな訳で、渋々ではあるものの、アリスは勲章を受け取ることに決めた。
唯一持っている一張羅を着込んで、叙勲式へと出席する。
――しかし、どういう訳か。
「アリス・ブリック魔法研究員に、ヴァルモア領を与える! 領主として治めるように!」
魔の森を有する未開の領地を褒美としてもらった上に、領主になれと命令されてしまった。という次第だ。
あと1話投稿します。




