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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第1章 魔法研究者アリス、辺境に追いやられる

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3/17

02.アリスは、なぜ追放されるに至ったか(2/2)


本日3話目です

 

 テオドールを見送ると、彼女は思案に暮れた。


(……確かに、彼の言う通りかもしれない)


 脳裏に浮かぶのは、グレーの髪に丸眼鏡の中年男性、

 今は亡き、養父であり尊敬する研究者でもある、ビクターとの記憶だ。




 *




 アリスは、物心ついた時には孤児院にいた。

 幼い頃に1人でいたところを誰かに拾われて、連れて来られたらしい。


 彼女に魔力があることに気が付いたのは、奉仕活動で孤児院を訪れたビクターだった。

 彼は当時6歳だったアリスを引き取り、自分の家に連れ帰った。



「私は魔法研究者でね」



 そう言って案内してもらった物だらけの書斎には、魔法陣が描いてある紙がいっぱいあった。


 アリスはそれらに目を奪われた。

 丸い形や奇妙な文字や図形から目が離せなくなる。


 そんなアリスを見て、ビクターが魔法を発動してみせてくれた。

 魔力を魔法陣に流しながら、静かに詠唱する。



起動(カンターレ・)水球:魔法陣(アクア・スフェアラ)



 魔法陣が黄金色に輝き、頭上に小さな水球が浮かび上がる。


 アリスは目を丸くした。

 こんな不思議なことができる魔法陣に、一瞬で心を奪われる。



「わたし、魔法陣のこと、もっとしりたい!」



 それからアリスは勉強を始めた。


 彼女が特に興味を持ったのは、ビクターが専門にしているという「古代魔法陣」だ。

 今とは全く違う設計思想で作られたそれらに、アリスは夢中になった。



(わたしも、古代魔法陣の研究家になる!)



 その日から、彼女は研究道をひたすら邁進した。


 学園通学を試験で代替すると、最年少の12歳で王立魔法研究所に入った。

 大好きな古代魔法陣の研究を始める。


 このままでは、とんでもない世間知らずの魔法バカになっていたところだが、養父のビクターはきちんと教育してくれた。


 ある日、アリスが依頼された仕事を横に置いて、古代魔法書に没頭していると、ビクターは厳しい顔でこう言った。



「アリス、やると約束した仕事は、先にやってしまいなさい」

「……でも、今ちょうどいいところで……」



 アリスが渋ると、ビクターが珍しく険しい顔をした。



「君には、信頼される研究者になって欲しいと思っている。約束した仕事は、最後まで責任を持ってやるんだ」

「……はい」



 アリスは、すごすごと頼まれた仕事に着手した。

 面倒だなあと思いつつも、そういうものなのか、とも思う。


 アリスが、ただの『世間知らず魔法バカ』ではなく、

 『約束を守る魔法バカ』になったのは、間違いなくビクターのお陰だ。




 ――そして、研究所に来て3年後。 

 アリスは彼に『広範囲結界魔法』の研究に誘われた。



「実は私の故郷は、戦争で焼けてしまってね」



 人々が平和に暮らせる魔法を開発したいと色々考えた結果、御伽噺でよく出て来る『広範囲結界魔法』にいきついたという。



「これを実現させれば、その中で人々は平和に暮らせると思うんだ」



 御伽噺に出て来る魔法を実現させたいなんて、誰もが鼻で笑うような話だ。

 しかし、アリスは、これを面白いと思った。



(なんか、できそうな気がする)



 加えて、彼女はビクターに非常に感謝していた。

 孤児院から引き取ってくれて、育ててくれて、古代魔法陣に出会わせてくれた。

 ぜひこの恩を返したいし、喜ばせたい。



 ということで、彼女はビクターと共に研究を始めた。


 なにせ御伽噺の魔法なので、開発は難航した。

 試行錯誤が続く。


 そして、ようやく上手くいきかけたという矢先に、ビクターを不幸が襲った。


 研究所に入ってきた、ジャネット・ファーガソンという公爵家の令嬢の教育係に任命されてしまったのだ。


 ジャネットはかなり横暴な性格らしく、ビクターは彼女にしょっちゅう呼びつけられた。

 研究する時間がなくなり、アリスが1人で進める日々が続く。


 そして、そんな日々が2年ほど続き、ビクターが流行病にかかってしまった。

 寝込んだと思ったら、あっさり亡くなってしまう。



(そんな……)



 アリスは悲嘆に暮れた。

 何もする気がしないほど深く落ち込む。


 しかし、彼女はすぐに研究を再開した。

 ビクターの遺志を継ごうと決心したからだ。


 アリスは必死に努力を重ね、見事『広範囲結界魔法』の研究を完成させた。

 論文も1人で書き上げる。


 この状況であれば、普通は、この論文の作者はアリスになる。

 しかし、彼女はビクターを研究リーダー、自分を助手とした。


 この魔法の開発の発案者は彼だったし、彼には心から感謝していたからだ。



 ――その後、論文が大きな話題になり、受勲される流れになった、という次第だ。



 *



 アリスは、受勲式の招待状を手に取って見つめた。


 アリス自身は、自分への勲章(名誉)に興味はない。


 このまま研究所で、頼まれた仕事をこなしながら、好きな古代魔法陣の研究を続けていければ、それでいいと思っている。


 でも、テオドールが言う通り、勲章をもらったビクターが天国で喜んでくれるかもしれない。



(行くか……受勲式)



 そんな訳で、渋々ではあるものの、アリスは勲章を受け取ることに決めた。

 唯一持っている一張羅を着込んで、叙勲式へと出席する。




 ――しかし、どういう訳か。



「アリス・ブリック魔法研究員に、ヴァルモア領を与える! 領主として治めるように!」



 魔の森を有する未開の領地を褒美としてもらった上に、領主になれと命令されてしまった。という次第だ。








あと1話投稿します。

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