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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第1章 魔法研究者アリス、辺境に追いやられる

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2/18

01.アリスは、なぜ追放されるに至ったか(1/2)


本日2話目です

 

 時は遡って、叙勲式プロローグの約1カ月前。


 王宮の魔法研究所内にある、物があふれた研究室にて。

 アリスが、自分の胴体ほどもある古い魔法の本に熱中していると、



 コンコンコン



 ノックの音が聞こえてきた。



「……どうぞ」



 アリスは、我に返って声を掛ける。


 ドアがガチャリと開いて、役人の制服を着た男性が入ってきた。

 物だらけの室内を見て、ギョッとした顔で後ずさりする。



「なにか御用ですか?」



 なんか見たことない人だな、と思いながら声を掛けると、彼は気を取り直すように咳払いした。

 顎を上げながら偉そうに手紙を差し出す。



「王宮からの招待状です。ここに受け取りのサインを」



 アリスはサインをすると、手紙を受け取った。

 男性がそそくさと出て行く。


 彼女が封筒をビリビリと破ると、中から分厚いカードを引っ張り出した。



『魔法研究所所属のアリス・ブリック魔法研究員

 このたび、”広範囲結界魔法開発”の功績を称え、国王陛下より、功労勲章を与える』



 下には、叙勲式の日時や場所などが書いてあった。



「勲章……ねえ」



 アリスは興味なさそうにつぶやいた。


 ちなみに、叙勲されることはとても名誉なことだ。

 叙勲された者は、人々の尊敬の対象となる。


 しかし、興味の大半が魔法陣に集中している彼女にとって、勲章をもらうのは面倒なだけだった。



(面倒くさいな……断れないかな……)



 そんな人が聞いたらひっくり返りそうなことを考えていると、



 コンコンコン



 再びノックの音が聞こえてきた。



「はい」



 今日はやけに人が来るなと思いながら声を掛けると、扉が開いた。

 明るい雰囲気の青年騎士――テオドールが入ってくる。


 彼は、物だらけの研究室を見回すと、やれやれといった風に苦笑した。



「相変わらず、すごい部屋ですね」

「そうかな……? 割と片付いている方だと思うけど」



 アリスが真面目な顔で答えると、テオドールが思わずといった風に吹き出した。



「アリスさん、”片付いている”の基準が低すぎです」



 そう言いながら、床に散乱した物をひょいひょい避けながら歩いてくると、

 机の上に開いてある魔法書をのぞきこんだ。



「ずいぶんと古そうな本ですね」

「うん、3百年前の魔法書だね」



 アリスはパラパラとページをめくった。

 そこに書かれた精巧な魔法陣を自慢げに見せる。



「今、この魔法陣を解析してるんだけど、これが凄くてさ。一見魔力効率が悪く見えるんだけど、実は複数同時に使うことを前提にしているんだ。これは今にはない発想だよ」



 ちなみに、アリスは王立魔法研究所に所属する魔法研究者だ。


 研究テーマは、「古代魔法陣」。

 現代とは設計思想が大きく異なる古代の魔法陣を解析し、現代の技術に応用できないかを研究している。


 魔法陣の凄さについて熱く語るアリスに、テオドールが面白そうに口角を上げた。

 話が一区切りしたところで、腰の剣を外して、机の開いているところにそっと置く。



「今日は剣を見ていただきたくて来ました」

「うん、使ったの?」

「はい、昨日まで魔獣討伐に行っていました」



 アリスは、本をパタンと閉じると、剣をよいしょと持ち上げた。

 鞘からスラリと抜いて、刀身に彫ってある丸い形の魔法陣をジッと見つめる。



「……まだ大丈夫そうだけど、インクが少し減っているかな。一応、補充しとく?」

「はい、お願いします」

「じゃあ、今やっちゃうから、ちょっと待ってて」



 アリスは、引き出しから魔法インクが入った金色の瓶を取り出した。

 魔獣の羽でできたペンに、自身の魔力を通す。


 ぱあっと羽から黄金の光が発せられた。

 ペン先を魔法インクに付けると、インクも黄金色に輝く。


 彼女は、光るインクを、剣の魔法陣の溝に少しずつ入れ始めた。

 魔法陣が美しく光り始める。


 その神々しさに、テオドールが目を細めた。



「……何度見ても見事ですね」



 そうつぶやくと、彼女から視線を逸らした。

 手慣れた様子で本を拾い集め始める。


 ちなみに、この見目が整った金髪の青年は、騎士団に所属する上級騎士だ。

 伯爵家の三男で、年齢はアリスより少し下。

 2年前に魔剣を直したのを機に、ちょくちょくアリスを訪ねて来るようになった。


 アリスから見ると、研究費を稼がせてくれるお得意様であり、気楽に話ができる数少ない人物の1人だ。






 ――そして、作業をすること、約30分。


 作業を終えたアリスが顔を上げた。

 綺麗になった部屋に一瞬目を見張ると、棚の本を揃えているテオドールに声を掛ける。



「できたよ。試してみて」



 テオドールが剣を受け取った。

 柄を握ると、ゆっくりと魔力を流す。


 魔法陣がぼんやりと光った。

 剣から冷気が立ち上り、部屋の温度が少し下がるような感覚を覚える。



「うん、問題ないみたいだね」

「ありがとうございます。助かりました」



 テオドールがお礼を言うと、剣を鞘に仕舞った。

 ポケットから魔法剣のメンテナス発注書を取り出すと、サインして机の上に置く。


 そして、ふと思い出したようにアリスの顔を見た。



「そういえば、叙勲されると聞きました」

「そんな手紙が来た」



 断るかもしれないけど、と思いながらアリスがうなずくと、テオドールが微笑んだ。



「おめでとうございます。きっとビクター所長も天国で喜んでいらっしゃいますね」



 その言葉に、アリスはハッとなった。



「……そうかも、しれない」



 そして、テオドールに片付けのお礼を言って見送ると、彼女は思案に暮れた。



(……確かに、彼の言う通りかもしれない)



 脳裏に浮かぶのは、グレーの髪に丸眼鏡の中年男性、

 今は亡き、養父であり尊敬する研究者でもある、ビクターの記憶だ。




(2に続く)





あと2話投稿します

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