10.怪し過ぎるテオドール
狼の群れを全滅させてから、約10分後。
2人は森の出口付近まで戻ってきた。
アリスのすぐ前をゆっくり歩いていたテオドールが、前方を指さした。
「出口、見えましたよ」
「あ、本当だ――って、わっ!」
顔を上げた瞬間、アリスがつまずいて転びかけた。
テオドールが慌てて手を伸ばして支える。
「大丈夫ですか」
「う、うん、ありがとう」
テオドールに支えられて体制を立て直しながら、アリスは息をついた。
時間にしたら、1時間も森にいなかったと思うのだが、ものすごく疲れた。
魔獣が出たのもあるが、足場が悪くて、疲れるとすぐ転んでしまう。
(森ってこんなに歩きにくいんだね)
そして、何度もつまずきながら森の入口を出た、その瞬間。
ポツッ
アリスの額に大きな雨粒が落ちて来た。
「雨?」
雨粒はどんどん増え、あっという間に土砂降りになった。
2人は慌てて村長の言っていた小屋に転がり込んだ。
中に入ると、バリバリバリッ、とすぐ近くに雷が落ちる音がする。
「……すごい雷雨だね」
「そうですね。しばらく、ここにいた方が良さそうですね」
その後、2人は服を乾かすことにした。
アリスが魔法陣を描き、テオドールが暖炉に置いてあった薪を入れる。
描き終わると、アリスは魔法陣を床に置いて発動させた。
【起動・火球:魔法陣】
火球が魔法陣の上に浮かび、飛んで行って薪に火をつけた。
しばらくして、部屋が暖かくなる。
火を見つめながら、アリスがつぶやいた。
「……魔法って、便利だね」
研究室にばかり籠っていると、水や氷を作るくらいしか役に立たないが、こうやって外に出て見ると、また違った面が見えてくる。
テオドールがおかしそうに笑った。
「アリスさんがそれを言うって、面白いですね」
その後、雨が止む様子もなく。
夕方になったため、2人は今夜ここに泊ることになった。
「せっかくだし、もらったお弁当食べましょうか」
「うん、賛成」
2人は村でもらったお弁当――黒パンにチーズを挟んだものをありがたく食べ始めた。
今日1日の出来事について会話を交わす。
テオドールが、感心したように言った。
「本当に凄かったですよ。あんなすごい氷槍の魔法、見たことありません」
テオドールによると、アリスの放った魔法は相当な威力らしい。
「魔法士になろうとは思わなかったんですか?」
「全然思わなかった。魔法陣を使うより作る方に興味があったんだよね」
「なるほど、そういう人が研究者になるんですね」
テオドールが感心したように言う。
アリスがふと尋ねた。
「テオドールはどうして騎士になったの?」
「俺の場合は、祖父に憧れてですね。もう亡くなりましたが、祖父は上級騎士だったんです」
「そっか、じゃあ夢が叶ったんだね」
「……そうですね」
テオドールが軽く視線を伏せる。
そして、食事を終えると、2人はこれからについて話し合った。
テオドールが地図を出して、森の入口のあたりを指差した。
「今日探索したのは、このあたりだと思います」
アリスは地図をながめた。
たぶん、森の100分の1も探索していない。
「まだ全然だね」
「そうですね。想像以上に広いですね」
アリスは地図に目を落としながら思案に暮れた。
こんな危険を冒してまで城を探して行く意味などあるのだろうか。
(行かない方がいいんじゃないかな)
――しかし、事態はまたまた意外な方向に進む。
なぜか、テオドールがまた意味不明なことを言い出したのだ。
「今日はここに泊まった後、一旦村に戻りましょう。その後、俺1人で城を探します」
「は!?」
アリスは呆気にとられた。
「1人で探すって、なんでそうなるの?」
もう行かなくていいじゃん、と言うアリスに、
テオドールが目を逸らした。
「……やはり行っておいた方が良いのではないかと思いまして」
アリスはジッと彼を見た。
なんで彼はここまで行くと言い張るのだろうか。
確実に何かを隠している。
彼女は口を開いた。
「ねえ、テオドール。ずっと様子が変だけど、もしかして、何かあった?」
「……」
「なんか、わたしに黙ってること、あるよね?」
アリスがテオドールの顔を真っすぐ見た。
彼が静かに視線を伏せる。
外から激しい雨の音が聞こえてきた。
本日あと3話、キリが良いところまでいきます。




