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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました  作者: 優木凛々
第1章 魔法研究者アリス、辺境に追いやられる

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08.魔の森へ


本日2話目です。

 

 村に到着した、翌日の午前中。


 丈夫そうな上着を着たアリスが、テオドールと共に村の入口に立っていた。

 背中には小さなリュックサックを背負っている。


 見送りに来た村長一家が、心配そうな顔をした。



「くれぐれも奥まで行かないようにしてください、本当に危険ですから」

「すぐに逃げるんだよ」



 ロッテが、緊張しながら小さな包みを差し出した。



「こ、これ、お弁当です! 持って行ってください!」

「ありがとうございます、いただきます」



 アリスが、丁寧にそれを受け取った。

 まだ温かくて美味しそうな匂いが漂っている。



(ここの人たちって優しいなあ)



 村長が口を開いた。



「森の入口に小屋があります。中には薪もありますので、どうぞ使ってください」



 アリスたちは改めてお礼を言うと、森に続く道を歩き始めた。


 ちなみに、アリスの小さなリュックサックには魔法インクや巻物状の魔法紙、羽ペンなどの魔法陣を描く道具が入っている。

 魔法を使う機会もあるだろうということで、持ってくることになったのだ。



 テオドールが歩きながら口を開いた。



「魔法で水を出せるのは、とてもありがたいです」

「そうなの?」

「はい、水は持ち運ぶと重いので」



 確かに、とアリスがうなずいた。



「わたしも、研究室まで水を運ぶのが面倒で、練習をしたんだよね」

「アリスさんらしい動機ですね」

「……それどういう意味?」



 アリスのジト目に、テオドールがいつもの感じで、いたずらっぽく笑う。

 



 しばらく歩くと、石造りのボロ小屋が見えてきた。

 その奥は深い森で、ギャッギャッやホウホウ、といった生き物の鳴き声が聞こえてくる。



(結構うるさいんだね)



 想像していた静かな森とは、だいぶイメージが違う。



「……森って騒がしいんだね」

「そんな感想、初めて聞きました」



 アリスから漏れた感想に、テオドールがおかしそうに笑う。


 その後、2人は森の入口付近をぐるりと歩いた。

 前を歩いていたテオドールが、注意深く中を伺う。



「確かに魔獣の気配はないですね」

「わかるの?」

「ある程度は」



 アリスも彼の真似をして森の中の様子をうかがった。

 気配の類は感じないが、魔力は感じる。



(この森の魔力、かなり濃いかも)



 いざ入るとなると、緊張するな、と思う。


 そんなアリスに、テオドールが「いきますよ」と声を掛けた。

 ゆっくり森の中に入っていく。



(よし、行こう)



 アリスは軽く深呼吸した。

 彼の後に付いて、森の中に足を踏み入れる。


 中に入ると、森は思った以上に暗かった。

 背の高い木々が並んでおり、空を見上げてもほとんど空が見えない。



「これ、夜になったら真っ暗だね」

「夜行性の魔獣が動き出しますし、暗くなる前に戻った方が良さそうですね」



 テオドールが周囲を警戒しながら言う。



 2人はゆっくり歩き始めた。


 アリスはキョロキョロと周囲を見回した。

 見たことのない草木や花を見て、ここはちょっと他とは生態系が違いそうだと思う。



(この森の中だけ、世界が違うみたい)




 しばらくして、2人は少し開けた場所に出た。

 真ん中に、見たことがないほど幹が太い巨木が立っている。


 アリスは驚きの目で上を見上げた。



「わたし、こんな大きな木、初めて見た」

「俺もです」



 テオドールも感心したように言う。

 ここで休憩しておこうということになり、2人は石の上に座った。



「せっかくだし、水の補充しよう」



 アリスは、リュックサックから巻物状になっている魔法紙とハサミを取り出した。

 チョキチョキと切ると、その上に魔法のインクを付けた羽ペンで魔法陣をサラサラと描いていく。


 そして、石の上に乗せると、魔力を流しながらつぶやいた。



起動(カンターレ)水球:魔法陣(アクア・スフェアラ)



 魔法陣が黄金色に輝いた。

 その上空に、小さな水の球が無数に浮かぶ。


 アリスは、テオドールの水筒を受け取った。

 いっぱいになるまで小さな水球を入れ、自分の水筒にも同じようにする。


 テオドールが感心したように言った。



「本当に便利ですね」



 そして、不思議そうに言った。



「でも、どうして毎回、魔法陣を描くのですか?」



 描いておけば良いのでは? という疑問だ。


 アリスは首を横に振った。



「魔法陣って、持ちが悪いんだよ。描いても2時間くらいで消えちゃうし、2,3回使ったら消えちゃう」



 消えないようにするには、純ミスリルに彫る必要がある。

 しかし、純ミスリルは超高価な上に彫るのにも時間がかかるため、紙の方が便利なのだ。



「魔法士なんかは、体に魔法陣の入れ墨しているけど、さすがにね」

「入れ墨は痛いですしね」



 そんな会話を交わしながら、2人は再び歩き始めた。


 奥に進むのは止めて、城を探すように横方向に歩き回る。

 しかし、いくら探しても、建造物など影も形もない。



(お城、一体どこにあるんだろう……?)



 そんなことを考えていると、前方を歩いていたテオドールが振り返った。



「水の音が聞こえます」



 耳を澄ますと、前方から水が流れるような音がする。



「川かな?」

「おそらく」



 アリスは、川に興味を持った。

 魔力を含む水が流れているかもしれない、と思う。



(触ってみたいな)



 そして、水が流れる音の方向に、足を踏み出そうとした――そのとき。



「……止まって下さい」



 前を歩いていたテオドールが足を止めて、片手をあげてアリスを制止した。

 注意深く周囲をうかがう。



「……どうしたの?」

「空気が変わりました。奥に来すぎたかもしれません」

「え、まだそんなに来てないよね?」



 驚くアリスに、テオドールが「しっ」と人差し指を口元に当ててみせた。

 警戒しながら後ろに下がる。



「急いで戻りましょう。先に行って下さい。俺がしんがりを務めます」

「うん」



 アリスは、バクバクする心臓を押さえながら踵を返した。

 転ばないように注意しながら、元来た道を戻り始める。


 しかし。



 ……ガルルルル



 突然、横から唸り声が聞こえてきた。

 あっという間もなく、横から何かが飛び出してきてアリスに襲い掛かる。



「……っ!!」



 アリスは思わず立ち尽くした。

 逃げなきゃと思うものの、体が固まって一歩も動けない。



(や、やられる!!)



 と、そのとき、アリスの後ろからテオドールが飛び出した。

 目にも止まらぬ速さで剣を抜くと、横なぎにする。



 ザシュッ



 という音と共に、飛び出してきた何かが断末魔を上げた。

 次の瞬間、ドサッという音とともに、真っ二つになった狼のような黒い獣が横に転がる。



「……っ!」



 アリスは目を見開いた。

 狼の断面がパキパキと凍っていくのを見て、テオドールの剣が真っ二つにしたということを理解する。



 テオドールが険しい顔で言った。



「アリスさん、ここから離れましょう」

「え?」

「たぶん、最後に仲間を呼んだと思います」

「え!」



 アリスが大きく目を見開いた。

 急いで走り出そうとする。


 そんな彼女を嘲笑うように、森のあちこちから唸り声が聞こえてきた。






あと1話、夜投稿します。

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