98話 助けて!
-----(大島視点)-----
この広い空間へと入ってきた穴へと向かい歩き出した時、物凄い寒気に襲われた。
寒いのではなく、寒気。生まれて初めて味わった悪寒?
清みんが俺の背にガッチリと抱きついた。こんなに激しいガクブルってあるのかよっ!ってくらいガクガクしてる。
生まれたての子鹿の足のブルブルなんて可愛いく感じるくらいだ。
怖くて振り返れない。見たら腰が抜けるのが分かる。
「走れっ! 穴に向かって走れぇぇぇぇ!!!」
隊長の声が耳に届く、誰かが地面を蹴る音。全てがスローモーションだ。
ようやく俺の足も地面を蹴るが、何歩目かで宙を蹴った。蹴っても蹴っても地面が無い。
「うわあああああああああ」
清みんの叫び声が耳元で聞こえる。周りが暗くて見えないが、俺達、宙に浮いてないか?
大きな何かが俺のボックスを掴んでいるのが目に入った。
俺はボックスごと宙に持ち上げられたようだ。俺の背には清みんがしがみついている。
ガツンっ!
ガツンガツンガツン!
見えたのは巨大な牙。幾つもの牙が俺のボックスに食いついているのが見えた。
ある意味、暗くて助かった。見えまくってたら恐ろしすぎて失禁する。
たぶんだが、何かがボックスをガッツリ抱え込んで齧っている。大型の魔物か。
困った。箱の中は安全だが前衛が居ない。俺も清みんも攻撃スキルがない。飽きてくれるまで齧られているしかないが、俺と清みんの体力が保つだろうか。
ガジガジしている。
うわぁ、口の中丸見え。暗くても上空の明かりのおかげで薄ぼんやりとは見える。目が暗さに慣れてきたのか。
もしかして俺たち、久しぶりのご飯なのでは?
うわっ、ぬちゃっとした巨大なナメクジ、舌か?しゃぶっている。
「お、おおおお大島氏ししぃ、この箱、溶けないよね?溶けないよね? こいつ何っ! いや、知らなくていい。でも、俺、腕が疲れてきた……。どうしよ……」
「うおおおおお! 待て待て、頑張れ! 今落ちたら食われるぞっ!」
「もう少しまってくれええええ!」
下から隊長の怒鳴り声がした。
「今、武器を取りに行かせたっ! もう少し頑張ってくれっ!!」
下からの声に俺らを齧っている化け物が地団駄を踏んだのがわかった。大丈夫か?また地面が滑落したりしないか?
それ以前に、隊長が踏み潰されたりしてないか?
「下がって、下がってください! 俺達は大丈夫です!」
「俺……だいじょうぶじゃないぃぃぃ」
俺の背後から清みんの情けない声がする。隊長の声がしない、まさか潰されたのか?
くっそう、折角今日まで生き残ってこれたのに、ここで詰みかっ!
いや、負けたくない! 何か、何か方法はないか。
俺たちのスキル、武器、強み。俺のスキルは防御のみ。小さい魔物は潰せるが、こんなデカイのは無理だ。
清みんのスキル、仏間。呼び出せない。回復、つかえない。
あ。ポヨン氏!!!
「清みん、ポヨン氏はどこだ? 連れてきてただろ? 今持ってるか?」
「あ……ポヨンくん」
清みんが俺に抱きついたまま身動いだのがわかった。
「ポヨンくぅぅぅんっ!!! 助けて! 助けてポヨン君! お願いしまぁす!!」
何かが俺の背後から飛び出た。おそらくポヨン氏だ。
ポヨン氏はボックスに絡みついていた何かの上の飛びつくとスルスルとどこかに行ってしまった。
暗くてよく見えないが、この化け物の何処かに登っていったのか。
しかしポヨン氏の大きさとは比べ物にならないくらい大きそうな化け物だ。果たして……。
「清みん、俺にしっかり捕まっておけよ。もしポヨン氏がボックスに絡みついてるやつを剥がしたら、俺ら落下するからな」
「うえっ? うんうんうんうん。うやぁ。落下系苦手ぇ」
いや、俺も得意じゃないけどね、落下系アトラクション。食われるよりはいいっしょ。
「だいじょうぶかあああああ!」
下から遺跡隊長の声がした。良かった、潰されていなかったか。
「大丈夫ですー! 今のところ。ポヨン氏が頑張ってくれそうですー! 俺ら落ちると思いますんで離れてーいてくださーい」
こちらからも叫び返した。
「頑張って! ポヨン君! お願いぃぃぃ」
突然、ボックスが投げ出された。清みんが飛ばされないようにしっかりと腕を捕まえておく。が、その必要がないくらい清みんは足も俺の胴体に絡ませていた。
スキルの謎。これだけ勢いよく投げつけられても、中にはさほどの衝撃はなかった。せいぜい椅子から転げた程度。運(体勢)が悪いと骨折とかはするかもしれないがな。
と、そんな事はいまはいい。
「清みん、無事かっ! 走るぞ! 立てるか?」
「無理ぃ。立てない。これって腰抜けたのかな? ち、力が入んない」
仕方がない、背負うか。と思っていたところに遺跡隊長が走り寄って来た。大きなライトを持っている。
「大丈夫ですかっ! 大島君、清見君!」
ライトの眩しさに目が眩んだ。が、薄目で明るさに慣れさせる。隊長は清みんの身体をぱんぱんと触り怪我を確認している。
「清見君は大丈夫みたいですね、大島君は……」
俺にも確認をしようとしたのを手で止めた。
「俺も大丈夫です。皆さんは無事ですか?」
「はい。直ぐに隊員が知らせに行き、ライトと………その、それから味方?を連れてきました」
味方がクエスチョンっぽいイントネーションだったが、その謎はライトをあてた先で理解出来た。
隊員が持って来た大きなライトに照らし出された魔物。キングコングのような巨大な生物。
実物のキングコングなぞ見た事はないので、大きさの比喩は適当だが、人の10倍くらいありそうだ。
なるほど、アイツに掴まれて齧られていたのか。
もちろん、大きいだけの猿とはまるで違う。化け物とか魔物と呼ぶのに相応しい。身体の3分の1が顔なのか。そして大きな口、よくぞあの顎に噛まれて無事だった。
俺のスキル『完全防御』に礼を言いたい。
「ぽよん君! ぽよん君頑張れぇ、顔デカコング食っちまえぇぇぇ」
隣でぺたりと座り込んだまま叫んでいる清みん、顔デカコング……、あだ名付けたのか。まぁその通りだけどね。
隊長が照らしていたそのコングを見ると顔にスライムが張り付いている。ポヨン氏か、やるな。
あれ……?
他にもくっついてないか?
「ポヨン氏以外も連れて来たんだ?」
「ううん、一緒に来て貰ったのはポヨン君だけ。でもぷるん君とふるふるちゃんもいる! ぱみゅんちゃんもだ」
待って待って?
ママさん達のスライムはもっと別の名前だったよな?
もしかして、増えた?仲間増やしたのか?
てかもっと普通の名前、つけてやれよ。
もっもっもっもっもっもっもっも……
食っとる食っとる。
「残さずお食べ」
清みんが応援していた。
顔デカコングはとうに横倒しになって動かなくなっていた。




