94話 遺跡で同居
-----(清見視点)-----
到着した看護師や医者は早速避難民の健康診断(?)を開始した。
遺跡のすり鉢のふち部分に設置された保育園の園庭の柵に避難民がすずなりになっている。女性に限らず男性も。
園児を見て泣き出す大人が多かった。あの日からはぐれてしまった自分の家族を思い出して安否に苛まれているのだろう。けど誰にもどうにも出来ないからな。
だってそこにいる幼児達も親と会えずにいるんだ。
この3か月は保育士達が大変だったそうだ。母親を求めて泣き叫ぶ子供達。夜泣きもずっと治らなかったらしい。
ようやくだ、ようやく最近、泣かなくなったそうだ。
あんな幼い子供らが、諦めを悟ったのか。
俺は両親を亡くしてまだ1年経っていない。
両親が居ない事をまだ自分の中で整理できない。だからなるべく考えないようにしている。考えてしまったら涙が止まらなくなり色々と後悔が押し寄せてくるからだ。
引きこもってないで親父ともっと話せばよかった。母さんのご飯をもっと味わって食べればよかった。ご飯美味しかったと伝えればよかった。しなかった事の後悔が山ほど押し寄せてくる。
大人なのに情けないな。
柵に群がる避難民達より少し後ろに居た俺に、園庭に出された裕理が気がついたようだ。
裕理はこの世界に来た時は9か月かそこらだったが、今はもう1歳を過ぎた。
あの頃ハイハイだった裕理くんも今は立ち上がりヨタヨタと歩く。今も俺を見つけてこちらへ両手を突き出してヨタヨタ歩いてくる。スマホでパシャリ。
そう、うちの仏間のコンセントではスマホは充電出来なかった。
しかしキッチンママさんとこの炊飯器が挿してあるコンセントを四つ口コンセントにする事でスマホの充電が出来たのだ!
びっくりだが有難い。
可愛い裕理くんの写真を撮っていると柵まで来た裕理くんが怒ったような声を出す。
「きーたん、きーたん、だっこ!」
柵に居たおっさん達が羨ましそうな顔をしながら場所を開けてくれた。俺は裕理くんを抱き上げながら言い訳をした。
「兄の子です。俺は未婚です」
いや、誰に対しての言い訳だよ。
遺跡の避難民はパッと見た感じ、サラリーマンが多い。女性はOLさんかな。おばちゃ…妙齢の社員さんだかパートさんだかなのか、ここに居る人は汚れてはいるがスーツっぽい服装が多いな。兄貴同様、通勤途中で被災した人達か。
学生や子供が少ないのは春休みの季節だったからだろうか?小さい子を連れていそうな人はほぼ見ない。
全員を見たわけでないからどこかにはいるのかもしれない。
空間スキルを知らずの建物の残骸を放置したと言っていたので、親子はいるはず。
あ、『空間スキルは子持ち』と決めつけてるな。
早速シャワーが開始された。
全員が使えるようにしばらくはグループごとの順番制らしい。トイレも大混雑していた。
入り口で自衛官が「マナーを守って綺麗にお使いください」と声かけをしていた。
トイレでも風呂でも喜びのあまり泣き出す人が続出だ。
うん、日本人には必須項目だよな。
トイレ風呂の混雑を横目にママさん達はまたおにぎりを作っていた。
これは避難民の中からも手伝いをお願いした。炊き上がったご飯を庭へ運び、そこで握っていく。
炊けるまでそれなりに時間がかかる。大釜なんて個人で持っているわけもなく、せいぜいが5合炊きだ。
キッチンママさんが食べ盛りの子供がいるわけでもないのに5合炊きの炊飯器を持っていたのは、ご主人がご飯(お米)大好き人間で三杯はおかわりをするかららしかった。それと余ったご飯は冷凍をしてママさんのお昼にしていたそうだ。
保育園の給食とおやつは、地域のセンターから毎日配達されていたので、簡単なキッチンはついていても、ここで作ってはいなかったそうだ。つまり、炊飯器はない。
子供の麦茶を沸かすヤカンやガス台、ちょっとした物を温める時の電子レンジがあるだけだ。
だが、少し前に布団再生を知ったキッチンママが、炊飯器の蓋にほんのちょっと傷を入れて、コンセントを外しておいたら、翌朝炊飯器が増えていたそうだ。
知ったばかりなので、現在の炊飯器は5台だ。しかし、コンセントは4つ口しかないので、結局いっぺんに炊けるのは4台のみだ。
「ねぇこれ、ブレイカー落ちないかしら。アンペアとか何とかワットとかあるのよね? 前にレンジとドライヤーとIHコンロを同時に使ったら、落ちたのよ」
「どうだろね? てかここってどこの電力会社?」
「あー……、ねえ? 不思議ね」
俺たちは出せる物資は全て提供した。
隠して持っていて、何かの際にバレて問題になるのを避けるためだ。もちろん話し合いでそこら辺も決めた。
物資を差し出す代わりに俺たちも避難民として受け入れてもらう。つまり自衛隊の配下に落ち着くのだ。
複雑な顔をした者もいたが反対する者は出なかった。誰だって誰かに仕切ってもらえるのはなんか安心するものだ。
俺たちの中に仕切りたがりやリーダー気質がいなかったのも幸いした。
俺は兄貴があれ以上無理をするのも裕理との時間を取れなくなるのも嫌だった。
違う。俺が怖かったんだ。
兄貴に何かあったら裕理を守れるのが自分だけになる、それが怖かった。臆病者の引きニートだ。
そんなわけで少ない物資も自衛隊へと提出して、毎朝再生する物資も毎日渡す。それを避難民にどう分配するのかは自衛隊の偉い人任せだ。
一応毎日、布団や座布団、押し入れ内にあった謎の収納物をチコっと傷つけて増やす事を繰り返している。
避難民全員にはまだまだ布団は行き渡らないが、病院や保育園でもそういった作業を頑張っていた。
もちろん他のママさん達もだ。
誰だよ、花笠を増殖させてるやつ。
え?園児がかぶって踊るのを見て癒されてる?そう言われてふと見ると園庭の子供らが皆かぶってるな。
「きぃちゃあん!」
「きぃちゃんだ」
園庭からリコ(風呂ママんちの子)とまな(キチママんちの子)がこっちに手を振っていた。
俺も振り返した。
近寄ってきたマナの手には花笠が握られていて、それを俺に差し出した。
俺に被れと? 今ここで? いや、遠慮します。
「ん。あげる。ん、ん」
俺が受け取るまで俺の腿にぐいぐい押し付けてくる。花が潰れるぞ?
仕方ないので受け取った。じっと見つめるふたりに根負けして、被った俺。誰か褒めて。
「おっ、清みん、ダンスに参加するんか」
大島氏に見つかった。
「お、俺は既に花笠音頭は習得済みだ(幼稚園の時にだが)」
「そりゃ凄い」
「今日は? 外?中?」
大島氏はスキルの関係でほぼ自衛隊員のような位置付けになっている。
自衛隊員達は大島氏の完全防御のボックスでパワーレベリングを開始している。
俺にも声がかかったが断った。俺は由緒正しき引きニートだからな。働いたら負けなのだ。
「うーん。清みんの回復も上げてほしいって3佐が言ってるんだけどなー。付いてきて回復してくれるだけでいいってさ」
やり手営業マン(俺の中では)の大島氏は、いまや自衛隊になくてはならない存在だ。
そんな大島氏が戦っている最前線など、とんでもない。怖過ぎて行きたくない以前に行けない。それに戦闘で出た怪我人の回復とは程遠い位置の俺の回復スキル。
「消毒液と絆創膏持ってけよ。俺には無理無理無理。看護師長さんとこに行って貰ってきてやろうか?」
「あー。師長さんと気軽に話せる方が凄いけどな」
「ん? 世話焼きの良いおばちゃんだぞ? いつも飴くれる」
「まぁ、絆創膏はいいや。清みん、回復スキルは上げる気はないの?」
「あるよ? でも俺は地道にやる。押し入れの中でコツコツと、と言いたいところだが、仏間は満員だからなぁ。仕方ないから遺跡全体を俺の押し入れと思う事にした。遺跡の隅っこで安全を図りつつコツコツ回復する。だから俺は押し入れからは出ない(外には行かんよ)」




