85話 呪いと祝福
-----(清見視点)-----
「おにぎり作るから」
そう言ってママさん達は会議から離脱した。向こうへ報告に戻る時に持って行ってほしいそうだ。
実はこの3ヶ月、ただ過ごしていたわけではない。
俺たち空間スキル持ちで集まり、色々と試していたのだ。謎は謎のままだがある程度の結果が出ているので、一度報告の場を設けてもらおうかと話していたのだ。
今がいい機会か?
「あの、関係ないけどついでに報告……いいですか? 仏間のスキルですが、押入れに入っていた防災用の食料と水が毎朝再生されます」
「押入れの中で再生? それだけ? 布団とか他の物は?」
「布団とか雑貨は再生しないなぁ。今外で使ってるけどその分押入れはスペースが空いてる」
「水と防災食は押入れで再生するのか」
「押入れから出して外に置いておいても再生する。その場で。使い切った2リットルのペットボトルを地面に置いておいた、俺は見た。深夜0時を回った瞬間にペットボトルが満たされた」
「こ、怖いわね」
「怪奇現象……」
「じゃあそのペットボトルに再生の呪いが……」
「水以外は?」
「缶詰も、中身の無い空っぽの缶が0時に新品になった。パッカーンしたはずの蓋もしっかり閉まってた」
「場所は関係ないのね。あの日押入れにあった食材と水に呪いがかかってるのね」
「呪いってやめて。ありがたい現象なんだから。祝福とかにしてほしいです」
「あら、祝福っていいわね。うちの祝福はいまのところトイレットペーパーにかかってるわ。翌朝戻る。それとトイレ用洗剤も使った分戻ってた」
「あ、それ、うちも一緒。うちのバス洗剤も使っても使っても戻る祝福付き! 祝福良いわね。それとバスタブの蛇口とシャワーにも祝福がかかってる、こっちは0時関係なく常時祝福よ」
「常時祝福! 良いわねぇ」
「あ、シャンプーとコンディショナーとボディソープは深夜祝福ね」
「うちのキッチンは祝福に溢れてるわよぉ。水道、ガスは常時祝福。パントリーの食材は深夜祝福。ダイニングの食器棚の旦那のお酒とナッツ缶、キッチンの床下収納の洗剤とかも深夜祝福ね。あ、あと救急箱の中身も深夜祝福かな」
続々と報告が上がる。報告を始めたら炊飯器にこめをセットしたキチママさん達が戻ってきていたのだ。
「サンタの格好した富山の薬売りが毎晩深夜に薬を補充してるのかしら」
ママさんらはゲラゲラ笑いながら楽しそうだ。少し前まで旦那さんの話が出るたびに泣いていたのに、強いなぁ。俺も強くならねば。元が弱々だから伸び代がありすぎて助かるな。
「あ、それでね、清見くんが言ってたアレ試したの」
「あ、うちも」
「うんうん」
そう、俺がお願いしたのは、中身を取り出して別に保管した場合の『再生』量がどうなるのか、だ。
例えば、2リットルのペットボトルの水を500cc飲んだとする。
深夜補充されるのは500ccなのか。
もしも残りの1500ccの水を他に入れ物に入れておいた場合、それでも補充されるのは500ccか、それとも2000cc補充されて、代わりに他に移動した1500ccが消えてなくなるか?
この検証内容も空間持ちの間では情報を共有していたが、今回は皆に分かりやすいように始めから話す。
俺はまず自分が実験を行った。
500cc飲んで残りをバケツに入れて置いた。
朝見ると、ペットボトルは2リットルの満タンになっており、バケツの水1500ccも無くなっていなかった。
つまり、謎の再生物は、貯金出来るって事じゃないか?
実験は水で行った。水はキッチンママさんのところで無尽蔵に出せる。だがそれはいまのところ、だ。念のための貯水はしておきたい。飲料でなくても何かと水は使う。特に子供が居ると。
そしてその話をしてママさん達にも色々と試してもらった。
その結果が思った以上に祝福されていたのだ。
特にキッチンママさんのところ。
「お米はだいぶ貯まってきたわねぇ。まさか、米櫃を空っぽにする事で毎日お米も貰えるなんてね」
「問題は缶詰よねぇ。中身を出すって事は保存が効かないって事だから、早めの消化が必要ね。清見くんとこの防災食、ほら、水で戻すのは別保管できるけど鯖缶とか焼鳥缶は日持ちしないわねぇ」
「ええ、クラッカーとかは箱から出すだけで再生してくれるので助かります。包みまで開けなくていいんで」
「トイレットペーパーはシンさえ残しておけばいいから全部巻き取ってる。それと上の棚のは12ロールを出して外側のビニールを残しておくと、何と言う事でしょう。そこにまた12ロールが! ほほほ」
「服が再生しないのは悔しいわねぇ」
「あと、1番欲しかったのは紙オムツ。でもまぁ最近は布オムツも慣れてきたからいいけどさぁ。最初は戸惑ったわぁ。それと布の方がうちの子オムツかぶれをしないの」
何だかんだで、生きていくのに必要な最低限の物は深夜祝福でとても助かっている。
という訳で、俺たちはこの3ヶ月の間に、貯められる食材をなるべく貯めるようにしていた。
なので、今、ママさん達はその貯めた米を炊いておにぎりを作り、遺跡の避難民へと持たせようと考えたようだ。
きっと、おかずとか紙(畳んだトイレットペーパー)も持たされるんだろうな。
それにしても400人分である。
こちらから遺跡へ引っ越すにしてもその前に何度か行き来の必要があるだろう。
その時に多少ではあるが食料を渡す。
俺は自分が歩くのにも精一杯で、3佐に背負われたくらいだ。おにぎりを詰めたリュックを背負うのは自信がない。
「大丈夫です。今回の遺跡行きは我々で。ですが大島さんと加瀬さんお兄さんの方には同行をお願いしたい」
大島っちの目の焦点が合わないと言うか、遠くのどこかを見つめてる。
兄貴はフンスと鼻息荒く俺を振り返った。
「清見、裕理の事を頼むな」
遺跡へ向かうメンバーは、大島氏、兄貴、うちの隊長の3人になった。そこに3佐が入り、大島氏のボックスはいっぱいか。消防士も行きたがったが3佐と自衛官は荷物も背負うのでボックスがきついだろうと3人に決まった。
ところで、何で兄貴なの?兄貴のスキルは物理攻撃だから持ってる人多いよね?
近くにいた風呂ママさんに聞いてみた。
「ああ。橘さんは仏間チームの代表みたいなもんだから。大島君が荒地チームの代表、それから園長と看護師長もそれぞれ代表だけど、今回は参加を見送りね。それらを束ねたのが自衛官の隊長さん」
そうだったんだ。知らなかった。




