81話 ふたつの依頼
-----(大島視点)-----
遺跡避難所、隊長からの願いはふたつあった。
ひとつは隊員のパワーレベリングを行い、スキルのレベルアップを希望。
それは異世界好きのオタクが『レベルカンストするぜぇ』とかでは無く、職業柄、必要に迫られてのレベルアップだ。
自分のためでなく、人のために国民のため。
こんなわけのわからない異世界に転移しても、まだ国民を守ろうとする人達。
守られる側としても手伝わないわけにはいかない。
くっそぅ。何か悔しい。
そしてもうひとつは、野戦病院の患者の受け入れ。
うちの産科病棟なら多少の怪我なら治療が出来るだろう。産科に高齢者の薬があるとは思えないが、この遺跡の地面に寝かせるより産科の空いている入院部屋のベッドが使えるといい。
数が足りないかも知れないが、そこは今俺が考える事ではない。
レベリングよりもこっちの件を急ごうと、隊長と話す。
今日はこの遺跡避難所で1泊する事になったので清みんを呼んでこなければと思ったが、すでに隊員が呼びに行ってくれていた。
清みん、あの穴で寝るってぐずらないといいけど。
今日は疲れた。歩き疲れではない。あの危険地帯でのスーパーパワーレベリング(の恐怖)だ。
自分は安全でも自衛官がいつはみ出ないかとドキドキしっぱなしだった。俺の防御ボックスを人に貸せるなら、貸したい。勝手にやって。
そして疲れた俺に追い打ちをかけたのが、魔物(虫)の解体だ。
わかってる。わかってるよ、こっちの食性慣れなければならないってさ。でも俺まだ地球人、いや日本人なんだよ。
回転寿司でバイトでもしておけばよかった。
最後にあの野戦病院でトドメを刺された。うんうんうん、わかってる。清みんの回復スキルでは到底治せない重症患者が多数。
産院でも厳しいかもしれない。せめて痛み止めを。
へこたれている俺を見た清みんがポヨンさんを貸してくれた。ポヨンさんを抱えて今日見たあれこれをサクっと話した。
俺が受けた衝撃を清みんが受けないように、軽く軽く。
けど清みんは何となくわかってしまったみたいだな。
「そっかぁ。…………そうだね。出来る事はやってあげたいね。まぁ俺の出来る事は少ないけどさ。あっちのみんなに相談だね」
「だなぁ。ふぅ、難しいな。自分達だけ楽しく生きていけないってさ、日本人って変な民族だよな。100人居て100あった食料で生きていけるのに、100の食料を500で分ける生き方」
「でもきっとその方が美味しいってわかってるんだよ。5人でひとつを分け合う方がきっと美味しいよ」
「そうなんだよなぁ。変な民族だな、日本人って」
俺と清みんは案内された部屋(穴)に、ゴロンと横になっている。隊長はまだ話し合いがあるそうだ。自衛隊の話、だろうか。
疲れたので直ぐに眠れると思ったが神経が冴えていて眠くならない。清みんはあの階段横の穴で昼寝をしたので眠くないそうだ。
「大島氏のボックスってさぁ、『完全防御(箱型)』じゃん? それレベル上がったら『完全防御(車方)』とかになって、下部に車輪が付いて自動運転とかになったらいいよねぇ」
「そうだな。座って移動出来たら最高だな。けどレベル上がるまで気の遠くなるくらいの経験値が必要なんだよなぁ…………」
ボックスは敵の侵入は完全に防ぐが、内側からは出放題、というか触れた感触さえも一切ない。
目にも見えない外からは鉄の壁、中からは空気さえも感じない謎空間なんだ。
踏んでいる地面もどうなってるんだか。底に板を置いても俺が移動すると板は置き去りだ。当たり前のようで、もの凄く謎。
「大島氏の防御スキル……と言うか空間スキルもだけどさ、意外と使う本人次第のとこあるよね?」
「ん? どう言う意味?」
「んとさ、ほら、保育園。あれ危険人物警戒したらなんかバリアの壁出来てたじゃん? 俺の仏間ではまだ成功してないんだけど、空間に入れていい人ダメな人を分けられるのかなぁ」
「ママさんら、成功したん?」
「いや、まだ誰も成功してない。俺ら出会ったの危険を感じない人ばっかだったからなぁ」
「確かにそうだな」
「飛行機とか保育園を移動させた時森の木バキバキ倒していたじゃん? 俺らが触っても弾かれないけど、森の木は弾かれたんだ。別に木自体は敵じゃないよね。何でだろう」
「確かに不思議だよなぁ。ただ外からの侵入を防ぐだけじゃないのか」
「大島氏の箱型も、中から外は触り放題はみ出放題だけど、大島氏が箱型に誰かを入れて移動している時ってさ、ぶつかった木とか足元の草を薙ぎ倒してるよ?」
「そうなん? 入ってるやつがはみ出ないように木にぶつからないように進んでいたつもりだったけど」
「いやいや、側で見てると箱型ブルドーザーよ」
清みんがケラケラと笑った。マジか、全然気が付かなかった。俺は気を使いながら森を進んでいた(つもりだった)のにな。
たまにデカイ獣は俺ら(箱)にぶつかると跳ね飛ばされる。獣のあまりの恐ろしさについそこに立ち止まってしまっていたが、もしかして跳ね飛ばして進んで行けるのか?
「え、じゃ何? 止まらずに森突っ走れる? プリウスンロケットが出来るのか」
「何ソレ、プリウスン? ロボット系の攻撃?」
「ちゃうちゃう。車種。よく他の車を跳ね飛ばしてる動画とか上がってた」
「何だそれw 怖いな、そんな車が居たんだ。平和な日本に?」
「そう。平和な日本に」
「待って待って、大島氏。これから何かを跳ね飛ばそうとか思っちゃってる?」
ふふふ。さぁね。
だが、いつまでも怖がってはいられない。自分の武器を最大限に使っていくさ。




