80話 スキルの進化
-----(大島視点)-----
俺のボックスチームは全員『物理攻撃』のスキル持ちだった。危険地帯、つまり魔物が多く棲息する森を通るのだが、それは早くに遺跡に到着するためではなかった。
パワーレベリング、俺の防御ボックス内で魔物同士の戦いにちょこっと手を出して漁夫の利を得る、つまり経験値をウマウマする計画だった。
参加希望者が多かったらしい中で勝ち取った数名が俺のボックス内で、武器を手に、死にかけた魔物に一撃を与えている。
「とにかく、出来るだけ一撃を与えておけば倒された時に経験値が入ります。トドメは必要ないです。魔物同士でやり合ってもらえばいい」
ただでさえ窮屈なスペース内で筋骨隆々な漢どもが鉄だの木だのの棒を振り回す。
俺は中央で首をすくめて大人しくしている。
いやぁ、この場所凄いな。上からボトボト落ちてくる。まさに降って湧く状態。
「はみ出ないでくださいねぇ。責任は取れませんよー」
一応、さっきから同じ注意を口にする。経験値が入るのが楽しいのか、我を忘れてない?この人達。
俺、もう、清みんとこに帰りたい。
俺と背中合わせに立っていた遺跡の隊長が叫んだ。
「よっし! よしよしよし! 来たぞレベルアップ!」
「隊長! まさか?」
「ふふ。そうだ。微9.9999から上がった」
「微10ですかっ」
「いや。弱1.0000だぁっ!」
ええと? 凄いような凄くないような、まさに微妙だな。
経験値が微9.9999の上は、微10.0000ではなく、『微』が『弱』になるのか。
物理攻撃(弱)なのか。
隊長は一瞬喜んだ後、微妙な顔になった。だよな。
「やりましたね。『微』の上がわかっただけでも大きな収穫ですよ」
何となく隊長を慰めつつも、皆のやる気が少し下がった気がする。
『微』の次は『弱』かぁ、と言うのが本音だろう。
しかしようやく遺跡へと戻る気持ちになってくれたようだ。
遺跡に到着すると案の定、清みん達の方が先に到着していた。
目の前は地面がすり鉢状になっていて、そのすり鉢の底あたりに大きな角張った岩が積まれたところもあり、辛うじて何かの遺跡の残りのように見えた。
よくある、『城壁跡』とか、海外の紀元前の遺跡のように砂に埋まった大きな石。人の手が入り昔はきちんと角張っていたのであろう、多少角が丸まってはいるが、そんなのがゴロゴロとある。
よくよく見ると1列に並んでいるような所も散見された。
想像していた『建物』の遺跡ではなかった。そう言えば、洞窟とか横穴とか言ってたのを思い出す。
ただ、想像より遙かに広範囲だ。
結構な斜面を滑り降りて、すり鉢の中心へ近づくと穴が見えた。縦穴かと思ったが近寄ってみるとそれほどの深さはなく、横穴が姿を現した。
「あの先が地下遺跡に繋がっています」
地下遺跡なのか。遺跡に洞窟があるのを想像していた。
「トルコの地下遺跡みたいのかなぁ」
清みんがぼそりと呟いた。俺も詳しくはないが実は少しだけ同じ事を思っていた。
地上部分はトルコ遺跡よりも随分と寂れて残った部分は少ないのだが、地下は広いはずだ。何しろそこに400人前後の人間が避難していると言う話だからな。
すり鉢中央の縦穴には、ロープで作られた梯子がかかっている。
入り口は狭い。高さは精々2メートルほど。降りるなら梯子は必要ない。端にぶら下がってる手を離せば直ぐに地面だ。恐らく登る用だろう。
しかし広い。すり鉢自体もデカかったが中央の穴は直径5メートル以上はありそうだ。
自衛官が次々と降りてきて、途中で清みんも危なっかしい感じで落ちてきた。円錐状の壁にはいくつか横穴がある。人が入れそうな穴はふたつか。
そのうちのひとつに自衛官達が入っていく。俺たちも促されてそこに入った。
横穴は薄暗く2名自衛官がライト点けて先導している。横道も多く迷いそうで怖い。
「手掘りかなぁ。遺跡に元からあった穴じゃないかもね」
清みんが洞窟の壁を触りながらボソボソと言う。そうなのかもしれない。まぁ、俺は本物の遺跡とか洞窟には入った事がないのでよくわからん。
道なりに少しだけ進むと突然空間が開けた場所に出た。
なるほど、『遺跡』なんだと頷けるその空間の壁のあちこちに穴と言うより部屋のような角張った穴があった。
古代の人々はここで生活をしていた、そう思わせる空間だ。
清みんは、すぐ横の階段っぽい場所に腰を下ろした。
「俺……ここで待っていてもいい? その、疲れたし、人が多いのはちょっと……。帰りにまた拾って?」
階段横に清みんが好きそうな穴(空間)があった。そこに篭る気だな。くっそう、俺も篭もりたい。
「わかりました。必要な時にはお呼びいたします」
向こうの隊長が答えてしまった。まぁ清みんはもう限度いっぱいな顔をしていたもんな。
「大島さんには申し訳ありませんがご同行お願いいたします」
俺も……と口に出す前に言われてしまった。残念。
清みんが目線で『ごめんね、ごめんね』と訴えていた。うん、いいよー。
開けた遺跡跡地のような場所登り下りしながら進んでいく。
その途中であちこちに、避難してきた民間人だろうか、大勢の人間が居た。生活していると言うよりも、まさに避難しているといった感じだ。
着たきりの服なので当然汚れたり破れたり、疲れてやつれたように地面にすわりこんでいる者が多い。大人が多いな。たまに子供もいる。彼らの間を精力的に動き回っているのは自衛隊員だろう。
「隊長、新しい避難民ですか?」
俺たちに気がつき寄ってきた隊員が隊長に話しかけた。
俺の周りに居た自衛官達がバラバラと散っていった。どうやらその先で仲間の隊員にレベルが上がった事を自慢しているようだ。驚愕の表情が周りへ伝播していく。
「この世界へ来てから初めての明るいニュースかもしれません」
隊長の顔は寂しそうな笑いだった。明るいニュースと言いながらも寂しそう顔、心から笑える楽しいニュースなんて無かったのだろう。
隊長に連れられてかなり奥まで連れて行かれたが、これでもまだ遺跡の浅い部分だと言う。どれだけ大きな遺跡なのだろうか。
『避難所』の本部と呼んでいる場所へ到着した。
椅子(石)を勧められてて、水を出された。ここにはお茶もコーヒーも無い。唯一、豊富に飲めるのは水だ。
しかし、異世界の川の水か…………。生で飲むのはちょっと怖い気もする。うちの隊長はゴクゴクと一気に飲み干した。
それからこの遺跡、避難所について色々と話してくれた。
遺跡の中でも、崩れかけて外からの明かりが入る所もあるそうだ、しかし少し奥へ行くと真っ暗になる。
しかし場所によるが何らかの光る壁が通路内を照らすところもあるそうだ。石についた苔が光っているそうだ。
遺跡避難所では奥へ行くのを禁止している。
奥へ探索に行った隊員が戻らなかったからだ。唯一戻った連絡係として待機していた隊員の話。ただただ遠くから聞こえた悲鳴と銃声。そして沈黙。
「外のように、地下遺跡内にも何かが居るのでしょうね」
ただ、ソレは、こちらまでは出てこない。寝ている虎を起こさない事にしたそうだ。今はもう手持ちの武器も少ないし、どう考えても太刀打ちが出来ない。
それにようやく見つけた400人弱の避難所だ。他に良い場所が見つかるまではここに居たいというのもある。
それから次に案内された場所、それは解体部屋。
外で採れた虫や生き物を解体しているそうだ。
「どんな生き物だってスーパーに並ぶ前はあんなもんよ」
「そ……う、ですね」
うん。清みんを置いてきてよかった。俺も置いていってほしかったです。
それから病院。
病院とは言えないか。まるで戦時中の野戦病院。ドラマでしか見た事はない。
ここまで来るのにかなり激しい戦いがあったそうだ。うん、わかる。荒地でも酷かった。俺はやられている人を助ける事は出来なかった。出来ないとわかっているの、しなかったんだ。
そこの床に並んで寝ていたのは、怪我の酷い自衛官と高齢者か。持病持ちで薬が入手できなくて悪化中ってとこか。
そしてもう一度本部へ戻った。
何となくわかってしまった。見せられた現実。隊長も俺も、『そうする』しかなくなる。
そうするーそれは、前向きな助け合い。




