7話 集団
俺たちが居た岩盤のような地面は意外と広かった。ゾロゾロと集まった人たちも全員、岩盤の上に避難出来たようだ。
遠くにいたやつらにはわざわざ声をかけに行かなかったのだが、俺らが集まり出したのを見たやつらもこちらへと集まりだしていた。
集まってくる奴らに足元は気をつけるように声はかけた。特に岩や石、その下からスライムが出てくる事を伝えた。
「小石の下でも小さいスライムが居るぞ! 気をつけろよ」
そう声をかけた時には既に遅し、移動している中のひとりが石を蹴ってしまい、その下には運悪くスライムが居たようだ。薄茶の水が、蹴ったやつの足へと飛びついた。
「靴脱げっ! 靴を脱げぇ!」
小さくジャンプしたスライムは蹴った親父の革靴の甲にへばりついているのが見えた。
慌てて靴を脱いだ親父をこちらへと引き寄せ、さっき拾ってポケットに突っ込んだ小石をスライムへと投げつける。
当たった小石をスライムが包み込んだ、その瞬間、左手に持っていた指示棒(職場の会議で使うホワイトボードを指す棒だ)を伸ばして、親父の革靴を引っ掛け引き寄せた。
「急げ急げ急げ」
スライムは遅い、投げつけた石を溶かし終わりこちらへ向かってくるが、皆を急かして岩盤地面まで移動した。
少しの間、俺らを追ってきたスライムだったが、ある程度の距離が出来るとフッと諦めたように動かなくなった。だが直ぐに近くの石を見つけそこまで移動して石の下へと入り込んだ。
なるほど、ああやって獲物を待つのか。石が食料……というわけではないのか。
俺は岩盤の上に戻ると、指示棒の先にぶら下げた革靴にスライムが着いてないかをしっかりと確認をした。
スライムが最初に付いた靴の甲は溶けて穴が空いていた。指で触れてみたが酸は蒸発したのか指が溶ける事はなかった。
それを確認してからさっきの親父に靴を返した。こんな世界だ。
靴が無いと逃げるのも逃げられまい。溶け切る前に回収できて良かった。その親父は震える手で靴を受け取った。
「なんなんだ、ここは」
「ここはどこだ」
足元がしっかりとした岩盤で安堵したようにそこらで腰を下ろし始めた奴らがぼやき始めた。ぼやきたい気持ちはわかるが、答えられるやつがいるとも思えない。
吐き出したい気持ちはわかる。
現在、この岩盤の上にはぱっと見て30人くらいがいた。
事が起こったのが平日の8時台だったせいか通勤途中のサラリーマンやOLが多いな。
学生が少ないのは春休みのせいか。小宮達や杏達のように運悪く遊びに出てこの謎現象に遭遇した者は少ないみたいだ。
俺の元に杏達が寄ってきた。そうだった、何のために合流したのか忘れかけた。情報交換。
俺は座り込んでいる人達に向かって問いかけた。
「すみません。混乱しているこんな状況ですが、情報交換をしませんか? 俺も何が起こったのかさっぱりですが、助けが来るまでは自力で切り抜けないと……」
「助けがくるのか! 良かった……」
「助かったぁ」
「あ、いえ、助けがくるかはまだわかりません。スマホ、圏外じゃないですか?」
そう言った瞬間、座り込んでいた者らが皆スマホを取り出して確認している。中にはあの混乱でスマホを紛失した人もいたようだ。
「私……スマホを失くしたみたいで、どなたか貸していただけませんか?」
「いや、圏外だからどうせ使えないぞ?」
「助けは来ないのか?」
「どうしたらいいの」
数名の女性はとうとう泣き出してしまった。俺は構わずに声を張り上げた。
「すみません! ここに来る直前の事で覚えている事があったら教えていただきたいんですが」
俯いていたり顔を見合わせているだけで誰も話してはくれない。覚えていないのではなくまだ混乱しているんだろう。
そんな中ひとりの女性が手を挙げた。
「あの……私、駅に向かっていたんですけど、何か前の方で悲鳴が聞こえた気がして顔を上げたら、黒い鳥か虫かわかりませんが小さい何かが少し前を歩いていた人の背中に。めり込んだ、と思ったらその人がグニョンと、その、何ていったらいいか小さく縮んで吸い込まれていって……、それで、消えちゃって。ビックリしてたら多分私にもそれ背中に当たったみたいで、自分がわけわからなくなって」
「あ、俺もそんな感じだったぞ」
「私もだ」
「だけど、その……意識を完全に失う前なんですけど、何かを選択してくださいって聞こえた気がして、でもどうしていいかわからないうちに消えちゃって」
「あのぉ、自分もそれ聞こえました。夢なのか何なんなのかわからないけどとりあえず、攻撃何とかを選んでから意識が無くなりました」
「あ、それ俺も、選択した。夢だと思ってた。物理攻撃がどうとかっての……」
おお、スキルを取れた人もいたか。良かった。
「けど、一瞬だから夢かも……」
「ステータスで出ませんか? ステータス! ステータスオープン!」
そっち系の若者が居た。ドド達と似た人種だ。
俺たちも色々試したが、ステータスの表示は出来なかったし、取得したスキルの再確認も不可能だった。自分だけだったら夢で片付けるところだよな。
ゲームやラノベに触れた事がない人達からはあからさまに怪しげな視線を向けられている。
「あの……私も、スクロール画面が出て攻撃がどうとかに触れました。多分、物理……攻撃。あの……この世界ってゲームの世界なんですか?」
俺に問いかけられても困る。俺が知りたい。
「いや、こっちもよくわかりません。でも……そうですね、スキルがどうのって事はここはそれが必要な世界なのは確かですね。今の段階では解らない事だらけです」
何故か皆が俺の話に耳を傾けている。が、やめてくれ、俺はそういうタイプじゃないんだ。学級委員はもとより生徒会長とかも無縁で周りの友人も全員モブタイプだ。
勿論、職場でも目立たない営業マンのひとりだ。わざと目立たないようにしていたのではなく、持って生まれた目立たない容姿と性格!…………なので注目されるのには慣れていない。
仕事が営業なので『話す』事は鍛えられたが、ただ話すだけ。皆を引いていくとかそういうの無理だから。
「ええと、今のところ解っている事は、道を歩いていたら黒く小さい何かが人にくっついて、捻れて吸い込まれる直前にスキル画面が頭の中に浮かんだ。それに触れた人は、多分ですがスキルを習得した」
「スキルってのが、さっきそっちの女性が言ってた攻撃なんたらの事か?」
「はい。ゲームや小説に出てくる事が多いですね。特殊な力みたいなものかな」
「俺は貰ってないぞ?」
「俺もだ。貰う間も無く気ぃ失ったからな」
「じゃあ、特殊な力のある者にはさっきのグニョグニョしたのは倒せるんじゃないか?」
「あー、さっきのグニョグニョしたヤツ、あれもゲームや小説ではスライムって呼ばれていますね。ただ、この世界で何と呼ばれているかは不明です。それと、スキルですが、正確には『物理攻撃(微)』だと思います」
「あ、そう、ソレ!かっこ微ってついてたわ」
「ええ。なので、かっこ微とは、恐らくカッコ内はスキルの強さ。微は漢字からして微妙とか微小とかで僅かという意味かと思われます。つまり、特殊な力として『物理攻撃』を授かったとしても、まだまだほんの少し、という意味だと思います」
「そんな……それじゃあ貰った意味がないじゃない」
「あー、まぁ、そうですね。でも、スキルのレベルが載っていると言う事は、頑張ればレベルアップをすると思います。ゲームやアニメでもたいがいそうですね。最初はレベルが低くても訓練してレベルアップしていく。恐らくここもそんな世界なのでは」
俺の話を聞いて皆がざわついていく。嫌だなあ。あくまでも想像の域を出ないのにそんな話を見ず知らずの人に語りたくない。もう、本当に嫌だ。
訓練なんかしたくないとか、貰えただけマシだとか、モンクばかりだ。だから大勢は嫌なんだよ。誰か仕切ってくれないかなぁ。
鼻から長〜〜〜いため息を出した。




