61話 情報交換
驚いた。到着した場所には家というには変な建物があり、その前にはシートが引かれて避難所のようになっていた。
飛行機が胴体だけ落ちているくらいだから家も部分的に落ちる事があるのかもしれない。あるのか?
案内されたそこは仏間だと言われた。ちょっと理解に時間がかかった。仏間が異世界転移?仏間ってあの仏間の事か?
「あ、あの、俺のスキルなんですけど……」
少し気の弱そうな頭に花笠を乗せた男が言った。なるほど、『スキル空間(機内)』があるくらいなんだから、『空間(仏間)』があってもいいのか。いいのか?
家の裏に案内された。そこには、家がこまぎれになったようなものが置かれていた。
「あそこがキッチン、そっちがお風呂で、あそこがトイレです」
「清見くん、食事の用意出来るけど? すぐ召し上がるかしら」
キッチンと言われたコンクリートの塊の窓ガラスが開いて女性が顔を出した。
情報が過多すぎて頭の整理が追いつかない。聞きたい事が山ほどある。こちらの話もしたい。
と、そこで機体にいる皆を思い出した。
「あの、実は仲間がいるんです。夜までに戻らないと心配すると思うので今日は一旦戻りたいのですが。明日、明日もう一度ここを訪ねてもよろしいですか?」
ここに来るまでは機体の皆の事は話さなかった。出会ったこの人らがどんな人かわからなかったからだ。
だが、女性も居るし避難所のようになっている。しかも自衛官がいる!
俺がひとりでない事を伝えると人数を聞かれ、ここから自衛官が同行したいと申し出てきた。
俺は了承してその人を連れて帰る事にした。
自衛官は歩きながら地図に書き足していた。歩いている最中に俺のスキルを話すと物凄く驚いていた。
途中から虫や獣に襲われ出すが、そこで俺のスキルを実感して驚いていた。
「完全防御とは凄いですね! レアスキルですね、羨ましいです」
彼のスキルは『物理攻撃』だそうだ。ドド達と一緒か。
その後、彼が持っている途中までの地図と俺が途中から記した木の印を見ながら少し暗くなってしまったが無事に機体まで戻ってこられた。
俺がいつもの時間に戻らなかった事を不安に思ったのか、杏達は皆ハッチに勢揃いしていた。
暗い森から出てきた俺に気がついた杏がハッチから飛び出しそうになったのが見えたので大声で止めた。
「こらぁ! そこから動くな! 危ないぞ、今行くから!」
直ぐに泣き声が聞こえた。
俺は自衛官に機体の事をザッと話してはいたが、実際の飛行機を見て驚いていた。
「本当に機体がバッサリと切られているんですね」
自衛官は機体のハッチから伸びたスライド傾斜ものともせずにサクッと上まで登った。
俺が四苦八苦していると上から引き上げてくれた。
直ぐに杏達が抱きついてきて泣いていた。
「ごめん、ごめん遅くなった、悪かった」
「うわああああん、もう戻らないと思ったあぁぁ」
「遅いよ、バカバカ心配したよぉ」
「うんうん。ごめん」
「あ、この人誰?」
倉田が俺の近くに立っていた自衛官に気がついた。自衛官はちゃんと自衛隊の迷彩服を着ていた。
洗濯して干していたのが乾いたそうだ。俺と戻る前に着替えていた。あの和服だと説明が難しいから良かった。
自衛官は敬礼をしてから名乗った。
直ぐに機内の奥へと通して全員へ合わせた。森の中で出会った事、他にも人が居る事を話した。
機内の皆は大喜びをしたが、九条夫婦だけは悲しそうな顔をしていた。
自衛官は直ぐに察したようで九条夫婦の元へ行き旦那の前で膝をついた。
「大丈夫です。お任せください。我々は救助に慣れておりますから、背負って運ぶのもなんともありません。どうやって移動するかは明日一度あちらへ戻り、体勢を整えてお迎えに参ります」
その言葉に九条夫婦は堰を切ったよう泣き出してしまった。ずっと周りに気を使っていたのか。誰も皆助かりたいのは同じだ。なのに我慢をしていたんだな。
それから、向こうの話をしてくれた。それにはスキルの話もセットだった。
あちらには空間スキル持ちが5人も居た。
「仏間とキッチン、トイレ、風呂と……他にフェリーとバスがいらしゃったのですが、実はスキルが消失してしまいまして」
「えっ、スキルって消失するんですかっ!」
「ええ、どうやらそうみたいです。バスとフェリーは後で運ぼうと放置していましたらある日スキルが無くなったと」
「バスはともかく、船は水が無いのになんで森にあるの? 湖とかあるの?」
「いえ、フェリーはここと同じように一部が切り取られて森に落ちていたそうです。バスもフェリーも動力はありませんから動かせません」
「じゃ、どうやって運ぶ予定だったんです?」
「じゃなくて、放置すると消えちゃうんですか?」
「ええとですね、どこから答えたらいいかな」
自衛官は一度に色々質問が集中して焦ったようであった。
「あの、まず、スキルが消える理由を」
「はい、あ、スキル消滅の理由は不明です。が、恐らくですがスキル所持者がその空間から離れて数日経つと消えるようです。日数まではハッキリわかっておりません」
「じゃあ、この機内から移動したらここも消えちゃうの?」
「えっ、やだぁ、ここが消えちゃうのやだ」
「そうだよな、消えるなんて勿体無い」
自衛官は苦笑いをしながら皆に説明を続けた。
「2、3日なら離れても大丈夫です。その辺もスキルの持ち主である桜井さんがここを離れる時に手を打つと思います」
「良かったぁ」
「でもこのデカい機体をどうやって移動させるんですか?少なくともコックピットは無いしこれを運べる車両もないですよ」
自衛官はニッコリと笑い皆を見た。
「大丈夫です。多少の練習は必要と思われますが、持ち主さんが運ぶ事になります」
「ええっ!」
桜井さんが仰天した。
「私が運ぶんですかぁ!」
「はい。大丈夫です。大島さんがあちらでご覧になったキッチンやバスルームも、それぞれのスキル所持者が運んだそうです。元からあそこにあったのではないそうですよ」
そうなの……か。あの仏間の裏手にあったコンクリートのキッチン、あれはあの窓から覗いていたうちの誰かが運んだのか。
「どうやって運ぶんですか」
「何でも掴んで持ち上がるらしいです。詳しくはスキル所持者のどなたかが説明してくださると思います」
「そ、そうなんだ……。私が持ち上げるんだ、これ」
「頑張って、コタ君ママ!」
「う、うん」
それから、こちらのメンバーのスキルの話をした。向こうにも物理攻撃や体力は居るらしく驚いたりはしなかった。
それと向こうにはお風呂がある話で皆は大喜びだった。こっちに来てからはおしぼりや濡れタオルで拭くくらいだったからな。
それに他にも親子が居ることに桜井さんは大喜びだった。
良かった。今日の森探索で彼らと出会えて。実は俺も内心はホッとしている。これで俺ひとりで背負わなくてもいいんだ。




