57話 ミラクルギャレー
食料と水に困らないのなら今はここを動くべきでないと話がまとまった。
現在ここに居るのは10人。
九条さん夫婦は旦那が足が悪いそうだ。機内へも車椅子で乗ったそうだ。車椅子はキャビンアテンダントが何処かへ持っていったそうだが、この胴体部分では見つからなかった。失くなった後部ギャレーの方かもしれない。
それから桜井さん。生後半年の光太郎くんを抱えている。
そして高校生トリオの倉田、小宮、加瀬。小学生コンビの杏と紬。
サラリーマンの俺27歳だ。
身軽に動ける大人は俺ひとり。しかも身軽に動きたくない謎の世界だ。神様、異世界転移が厳しくないですか?
っとすみません。スキルを頂いておいて文句を言うなんてな。愚痴まみれだったリーマン生活が身に染み込んでるなぁ。
とりあえずはここが俺たち10人の城……、現在の拠点だ。
乗客の荷物を隅っこへと移動させた。ここへ来た初日に森の中へと消えていった乗客達。
あれから1週間経つが戻って来た者はいない。それは、どこかで救助されたのか、それとも避難先を見つけたのか。
考えたくないが1番ありそうなのは、森の中で亡くなった。
どちらにしても個人の荷物を探るのには忌避感が強く、とりあえず隅に寄せておく事にした。
もう1週間くらいしても戻らないようなら、荷物を探って衣類を使わせてもらうかもしれない。
俺たち1週間着たきり雀だからな。えっ?何で雀なのかって?俺も知らんが職場のおっさんがよく言ってた。
下着はトイレで洗わせて、夜間に干しておいた。
「夜は全員ノーパーン!」
と、ドドクサが楽しそうに騒ぎ、倉田女子に蹴られていた。
「アンタ達、この紐からこっち来たらコロす!」
あ、はい。俺もあっち側ですね、わかりました。
朝は不思議体験だ。
「変だよねぇ。私達が食べたはずなのに、また満タン」
「ねぇ、機内食、腐らないかな」
「食べきれないくらいあるね。もったいないね」
「国内線だからメニューはこんなもんか。国際線だともっとあるはずなのよね」
メニューも量も少ない国際線だが俺たちには充分だ。何しろ10人しか居ないからな。それもうちひとりは赤ん坊だし。
「腐りそうなのから食っていこう。あー、赤ん坊が食べられそうなのあるか?」
「はい。潰したり刻めばだいたいは。あと、水とミルク」
「ねぇねぇ、本当に電気ないの? 冷たいよ? ここ冷蔵?」
「こっちあったかいもんね」
「まぁ、色々謎だからね。もう、何でもありでしょ」
倉田女子がかなり投げやりに吐き出した。何でもありではないが、流石に空間スキルはかなりのチートだな。
「ファーストとかビジネスがあったら寝やすかったんだけど、あのカーテンの向こうだよな。無くなってるとこ」
「エコノミーでも肘掛け退かせば充分寝れるじゃん」
「俺、横に落ちるから最初から床でいい」
「枕と毛布はいっぱいあるからねぇ」
「風呂が無いのは仕方ない。トイレは前方のギャレーの横、右側が女子、左が男子な。臭くても我慢だ。外には行くな! 絶対にダメだ」
「はーい」
「あ、おしぼり。おしぼりあるよ? 身体拭こう?」
「おしぼりは赤ん坊優先である程度残しておいてやれ」
「わかったー。いくついるかな」
「すみません、ありがとうございます」
こんな感じで機内の居心地が良いおかげでなんとか暮らしている。
1番の不思議は電気が通っていないようなのに、何故か室温が保たれている事だ。寒くも暑くもない。空間スキルの機能のひとつだろうか?
「ねぇ! 凄いよ」
「また補充されてるね」
何故、毎朝、同じ事で騒げるのか。楽しそうだから良いがな。
「サンタかな。サンタが夜中に補充に来てるとか」
「夜中に補充にくるなら救助してくれよぉ」
「まだ4月じゃん。サンタには早いよう」
「今日は何を食べようかなぁ」
「あ、軽食もあるね。私、これまだ食べてない」
毎朝皆がギャレーに集まって楽しそうだ。これが普通の旅だったら良かったんだがな。
小学生組が親を思い出して家に帰りたいと泣き喚いてないだけましか。
今日は後方の荷物を探る事になった。薬や避難時に必要になりそうな物をチェックした。
お昼を食べた後にレベル上げの話になった。
ここをあまり離れずに経験値を貯めたいと高校生組が言い出した。まだ『微』のままなのが気になるそうだ。
「やっぱりこう言うのってスタダが必須だと思うんだ」
「何? スタバ? スタバが必要なの?」
桜井さんはアニメやゲームはあまりしない人か。
「スタートダッシュっすよ。全員『微』スタートだとしたら、1番に『微』の上に上がれたやつは、ボーナスが貰えたりするんです」
どんなボーナスだよ。ほんとかよ。どこ情報だ?
「え、じゃあうちらライバルじゃん。この中でひとりしかボーナス貰えないんでしょ?」
高校生トリオの間で緊迫した空気が流れた。その緊迫をよそにクイクイと服を引っ張られて見ると杏だった。
「お兄さん、経験値稼ぎに連れて行って」
「ズルい私もお願いします! 大島さん」
「兄貴ぃ、俺も連れて行ってくれ」
「ししょー! 俺もお頼もうすぅ」
ドドよ、いつからお前の兄になった。加瀬、弟子をとった覚えはない。
が、まぁ、経験値を稼いでおくのは俺も必要と思うので頷いた。




