51話 残骸②
「少し急ごうか」
自衛官に促されて全員が立ち上がった。
それから足早に進んでいたが先頭の自衛官が地図に目を通して一旦止まった。それに釣られて皆も止まる。
「たぶんだが、この辺りのどこかにフェリーがあると思う。大体の方向でしかないので探しながら進む。皆は小さな音や声を気をつけて拾ってくれ。遭難者が動けず倒れている場合もある」
なるほど、こっち方面から兄貴達と合流したのか。確かに木の上の方には大きな昆虫がたむろしている。どうか降りて来ませんように。俺はカバンの中の爆弾を確認する。
先頭の自衛官は前を、消防と救急は上を確認、俺と警官は下を確認しながら静かに進んで行く。
少し開けた所に出た。そこに変な物体があった。明らかに地球産の建造物。
建造物といっても建物ではない。作り途中の……何か。
家ではない、部屋でもない、だが一面に窓のような穴が空いている。
「あったぞ」
「これだ」
レンジャーチームがそれぞれ口にした。探していたフェリーの客室のようだ。
なるほど。うちの仏間も剥き身っぽかったが、あれと似た感じでフェリーから客室だけが切り取られたのか。
全員で走り寄ったが、窓から中を覗いた自衛官にストップをかけられた。
俺と警官は外に残された。
それって、まさかまた、中に遺体が?
「あの日、我々は全員でここを出たんです。その後、昨日誰かがここを訪れたのか。もう少し早かったら一緒に避難出来たのに……」
一緒に待っていた警官が残念そうな悔しそうな顔をしていた。
「あの……俺らも中へ入りませんか?」
いつもいつも気を遣ってもらい安全な場所でキツイ現実から遠ざけてもらっている。でもこの世界ではそんなんじゃ生きていけない気がする。
見るべきものはキチンと見る。うん。
警官は俺を止めようとしたが、俺の決心に彼も気持ちを決めたようだ。
「ええ、行きましょう」
客室のドアらしき所をくぐり中へと入った。
まず目についたのはそこに並んでいた2体の自販機だ。ひとつは飲み物、もうひとつはお菓子とパンが入っていた。
しかし自販機は2台ともこじ開けられていた。おそらくお金がなくてこじ開けて取り出したのだろう。
その前を通り過ぎるとベンチが並んだ空間だった。3人がけのベンチが横に3つずつ。縦に4つ。
客室自体はそれほど広くなかった。前方はガラスの入った窓だったが、両脇はガラスの無い窓だ。このフェリー、冬は寒くなかったのかな?
レンジャーチームは2箇所に分かれて床に倒れている人を囲んでいた。死亡の確認かな。
ここからも見えるが、転がっている死体は出血は見られない、獣や虫に食い散らかされてなくてよかった。ここに辿り着いて亡くなったのか。
幼い子供も居る。車の親子かな。やはり胸が痛い。
目を逸らそうとした瞬間、子供が動いた気がした!まだ生きてる?
慌てて駆け寄ると子供が目をバチっと開けた、と思った瞬間、泣き出した!
「ぎゃわあああああああああん、あああああん」
「えっ、何、どしたの」
「わわわっ!!!」
「誰っ!」
「ぎゃわああああん、ぎゃわああああん」
「どうしたっ! 誰だっ、あんたら!」
「わっ、びっくりした!生きてます! 隊長!」
「こっちも生きてる」
「え……誰、あっ!救助!救助がきたぁぁぁぁ」
待って、阿鼻叫喚。と言うか大混乱。
ここに居た死体と思ってた人達も俺らも何だかわからずの大混乱。
「静かにっ!皆、静かにっ!」
隊長(自衛官の事だがいつ間にか皆が隊長と呼んでいた)が、横の窓から外を確認して虫が寄って来ている事に気がついた。
隊員達も遭難者の口を塞ぎ、声を立てないようにさせる。泣く子供は母親が体に押し付けていたが声は漏れてしまう。
俺は爆弾の準備をする。
遭難者達は客室の中央に集め、レンジャー達は左右窓へ。俺はバッグから爆弾を取り出して渡して行く。
学生時代に野球部でピッチャーだったという警官が、持っていた爆弾のアルミ箔を剥がして、遠くの虫へ投げた。
爆弾は地面を移動していた見た事もない虫に当たり、ばらけて中身の唐揚げが出て来た。
こちらへ向かいかけた虫が崩れたおにぎりへと向き直る。近くに居た虫もそちらへ向かう。
「あの近くへ爆弾を集中させてくれ」
隊長の指示で警官が見事なコントロールで爆弾おにぎりを投げた。
「そこから少し遠目に誘導するように投げれるか?」
「はい、出来ます」
そう言い、警官はおにぎりを遠くへ遠くへと投げる。こちらへ寄ってきていた虫は方向をそちらへと転換してくれた。
静かに見守る。
食べ終わったらまたこっちに来るだろうか。
しかし、おにぎりを食べ終わると虫はまた木の幹へと戻っていった。
しばらくは静かに様子を見る。その間、隊員らはここに避難していた人たちから話を聞いて回っていた。
俺は外を見張っていた。
ここに居る人らは、やはりバスや車に居た人達だそうだ。このフェリーの客室に自販機がある事を発見して、孤立していたり残されたりしてた人をここまで率いてきたそうだ。
動けそうなら安全地帯を抜けて仏間拠点まで連れて行く予定だが、かなり体力を消耗していて動くのが難しいそうだ。
それに、騒がなければあれらは寄ってこないそうだ。昨夜もここで一晩過ごしたがあれらが入ってくる事はなかった。
けどまぁ、さっきの事もあり、子供が泣くのを止めるのは難しい。そこで、先に親子を避難させる事になった。
自衛官は母親を背負って森を移動するのは可能だそうだ。子供は消防(山根)が抱いて母親の横を走ってもらう。
ここまで地図を作成してきたので、安全に脱出は可能らしい。残りの遭難者はもう一日、ここで休み体力を戻してもらう。自販機に飲み物と食べ物はある。
救急隊員と警官に残ってもらう。爆弾は置いて行く。俺も一緒に戻るように言われた。
因みに俺のもうひとつのスキル『回復』を、ここに居る人にかけてみたが、やはり全く役に立たなかった。
唾より効く消毒薬と絆創膏を渡してきた。
消毒薬>唾>俺の回復、である。
フェリーから外に出ても、虫達が降りてくる事はなかったので静かにそこから退出した。
それから安全地帯まで静かに進み、安全地帯に入ったら猛ダッシュだ。俺……ついていけない。女性を背負った自衛官についていけない。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、
だって、だって俺、後衛(回復)だし、引きニートだし。




