44話 黒いアレ
今仏間で休んでいる彼らは、よくそんなとこに転移して生き残れたな。
俺らは細く若い木で、まだ虫も獣もいない場所に転移したから今も何とか生きているけど。
転移先が太い木の地帯だったら、と思うと、震えが止まらない。
女性である鮎川さんにそんな所に行かせてしまったなんて、本当なら俺が行かないとなんだけど、知った今、救助に行くとか無理すぎる。
「救いなのは、こっちが騒いだり攻撃しなければ結構見逃してもらえてるって感じか」
「そうですね。今日助かった人らも隠れてて助かったような事言ってましたね。逆に助けようとしてやられた人が多かったらしいです。残念です。」
山根さんが俯いてしまった。もしかしてその助けようとして亡くなった人って消防とか警官なのかな。
何か咄嗟に自分の命を盾に人を守りそうだもんな。
「あの自力歩行してた5人な、警官がひとり、自衛隊員がひとり、救命が3人なんだ。俺らが見つけた時、救命のふたりが親子を守ってて、もうひとりと警官が老夫婦を守ってた」
「ええ、それで、自衛官が彼らを守るように先頭で牙を向いた栗鼠と向かい合ってて。栗鼠って言っても人間よりと同じくらいですよ。緊迫した場面で、橘さんが栗鼠の顔の横に何かを投げて」
兄貴ぃ!無謀な挑戦はやめてくれ。兄貴の物理攻撃はまだ『微』だよな?
戦う気だったん?物理攻撃(微)で自分と同じサイズのリスと?リスって普通サイズでも確か歯が凄くなかったか?胡桃だか栗だかをバリボリ食うんだよな?
「持ってた弁当の中身を投げた。当てる気はない。気を反らせればいいかなと、唐揚げが入った爆弾握りと卵焼きを投げた」
「いや、まんまと策にハマりましたね。リスが握り飯を追って食らいついている間に、自衛官の方の腕を引いて木に隠れました」
「とにかくジッとして、去るまで待った。そいつがどこかに行った後、皆を連れて逃げる途中に出会った獣に山根さんや鮎川さんの弁当も使ったもんだから、空腹のみんなに食うもんを渡せなくて」
「安全なところまで戻るのに必死でしたから。それから持ってた水をわけあって、一旦戻ろうとしたんですが、とにかく危険な獣や虫を避けながらですから。木の太さの法則に気がついたのも遅かったので」
「気がついたら細い木を探しつつ彷徨って、行きにつけた印を見つけた時はだいぶ時間がたってましたね」
男性5名、老夫婦、そして親子(子供ふたり)。
救助出来たのは10人か。男性が6、女性2、子供2か。10人なら仏間にはいりきる。今夜はキッチンに泊めてもらっているが、俺たち3人が入っても多分大丈夫だろう。
雑魚寝の部屋と思えば充分だ。
今の時点ではどんな人たちかわからない。
明日はきっと寝てそうだな。ゆっくり話せるのはそのあとくらいか。
けれど今日の話を聞いてて思った。
もしも黒い粒に襲われて逃げられなかった人がこっちの世界に吸い込まれたのだとしたら、今日兄貴達が救助した5人が警察や消防だったのも頷ける。
だって、街中が黒い粒でパニックの中、襲ってくる黒い粒から逃げ惑う人を身を挺して守ろうした人が黒い粒を受けたとしたら、それは、そういう職業の人が多かっただろう。
誰かを守るために、こちらへ来た人。
「つまりは『食料として召喚された勇者たち』か」
「それは、ちょっと嫌なんですが」
あ、山根さんに聞かれていた。嘘、冗談だから。
『人を守る勇者達』が多く召喚されたのかもしれないな。
----------
現実には『召喚』ではなく、某国の失敗した実験による被害者の群であるのだが。




