42話 救助
そろそろ陽が沈みかけている。と言うか、いつも薄暗くて陽があるのかもわからん。
兄貴達が戻って来ない。
不安だ。
ひと段落ついたのか、ママさん達も庭に立ってた俺の横に並んで森の奥を見つめた。
「陽が完全に落ちる前に戻ってほしいわね」
「そうね。一応、庭に火を焚いておく? 目印になるでしょ」
「でもそれで虫とか寄って来ないかしら。普通のサイズの虫ならまだいいけど……」
「そうねぇ、怖いわね」
「ああでも、仏間から光が漏れても夜中に虫が入ってきた事は無かったし、大丈夫かな」
「確かにそうね。キャンプなら野外のトイレとかに虫が寄ってくるのにね」
「焚き火と一緒に虫除け香も炊きましょうよ」
そんな話をしていた時、暗くてよく見えない樹々の奥からザワザワと人の声が聞こえてきた。
おぉーい、おーい
男の声が聞こえた。だが兄貴の声ではない。山根さんだろうか?
俺は仏間の仏壇に近い位置の障子の外庭に段ボールに入れて置いておいた大きな懐中電灯を取ってきて、森へ向かって振ってみた。
「おーい、大丈夫かー。こっちだぞー。あ、皆さんは一応陰に隠れていてください、どんな人はわからないので」
それを聞いたママさん達が慌てて仏間の角、キッチンの方へと足速にかけていった。
俺はどきどきしながら男が森から出てくるのを待った。
兄貴が一緒でなかった事が気になった。
それに消防士の山根さんも居ない。鮎川さんも。
どうして知らない人達がここに向かってくるのか。もし相手が武器を持っていたらどうしよう。
もしも相手のスキルが物凄いモノだったら、うん。即降参するしかない。けど、裕理やママさん達をどうしよう。
情けないけど自分ひとりだと本当に役立たずの引きニートの俺だ。
「よかった、辿り着けたぞ」
「助かった……」
樹々の間から出てきた男たちは、俺が照らす地面へと安堵したように次々と座り込んだ。
座り込んだのは全部で5人、全員男性だ。
懐中電灯で照らして見えるところに銃やナイフは持っていない。剣も槍も弓矢も持っていない。
ひとり、杖……木の棒を持っている者が居た。魔法使いのスキル……だろうか。
俺が近づくのを待って魔法で攻撃をするつもりか?
俺は距離を5メートルくらいとったまま足を止めた。
本当に救助が必要な人かもしれないのに、足が震えて動けなかった。
「きよみぃ! 清見、水を」
真っ暗な森の中から兄貴の声が聞こえて安堵した。
声の方向を照らすと兄貴が誰かに肩を貸しているのがみえた。
兄貴のすぐ後に何かを背負った鮎川さんが見えた。その横には両肩にそれぞれ人を抱えた山根さんだ。
俺は一気に安堵が押し寄せて座り込みそうになったが、兄貴が水と言った内容がようやく頭に届いた、膝を踏ん張って仏間へと走った。
「水持ってくる」
仏壇近くの段ボールには2リットルのペットボトルも入れてあった。それを掴んで脇に挟み庭の、男たちが座りこんでいる所まで戻った
「すんません、コップがなくて。回し飲みでいいですか」
近くに居た人にペットボトルのキャップを外して渡すと、重たいそれを持ち上げてグビグビと飲んでいた。横でそれを羨ましそうに見る男性。気がついてすぐに回した。
男たちの中で水の回し飲みをしている間に、もう一本を取りにいった。
いざと言う時のために、場所を幾つかにわけたのだ。
もうひとつは仏間の真ん中あたりの外に置いた段ボールだ。そこから取り出して戻る。
まだ水が回ってない人へと手渡した。先に飲んだ人は大の字になって地面に転がっていた。
森から出てきた兄貴が抱えていた人は、子供を抱えた女性だった。それとベビーカーを担いでいた。その人を座らせると兄貴も横に座り、切れる息を整えるようぬ深呼吸していた。
鮎川さんが背負っていたのは子供だった。幼稚園児くらいだろうか?鮎川さんは兄貴が座らせた女性の膝に子供を渡していた。
山根さんは両側にふたり支えて出てきた。ふたりとも結構年配っぽいが暗いし汚れてるしヨレているしでよくわからん。
「ご苦労さまでした、無事に戻って安心したよ」
「ああ、疲れたあ」
「思ったより助けられなかった。けど、幾つかわかった」
「あの、仏間を開けてあるからそっちで休んでもらう? みんなを呼んでこようか」
兄貴が首を縦に振ったのを見た
「ちょっと待ってて」
そう言って、キッチンへと向かう。
だが念のため、ひとりだけに手伝いを頼んだ。バケツにお湯をためて雑巾にしても良いタオルを持って戻った。
歩ける人から仏間の前まで移動してもらい、お湯でザッと顔と手足を拭いてもらう。仏間の押入れから分けて残した着物に着替えてもらった。
汚れた服は脱ぎ、着物を羽織った人から仏間へ上がってもらう。
その間、キッチンへ戻った風呂ママがスープとパンを用意してまたこちらへ戻ってきた。
着替えて軽く食事をしたらそのまま寝てもらう。座布団を枕に布団をかけて。
最初に森から出てきた5人は何とか動けたので、自力で頑張ってもらった。
兄貴が連れてた人は女性でふたりの子持ち、子供のひとりは鮎川さんがおぶっていた子だ。トイレママさんと風呂ママさんが2人がかりで親子のケアをしていた。
仏間の男性たちより離れた場所に寝てもらうようだった。
「押入れとかどうかしら? お子さんが落ち着くんじゃない? お母さんにはちょっと狭いかな」
押入れの中身を出して置いて正解だったな。
そこに敷き布団と座布団、夏掛けをセットしていた。親子は安堵した感じで押入れに入った。怪我はしていなかったようだ。
山根さんが連れていたふたりも、山根さんと兄貴がフォローしてどうやら仏間で食事も取れたようだ。
詳しい話を聞いたり紹介したりは明日する事にして今夜はゆっくりしてもらう
鮎川さんが先にひと風呂浴びてさっぱりした状態でダイニングへと来ていた。
兄貴と山根さんもその後にシャワーを浴びていた。着替えは外に置いておいた。
キッチンへ戻るとリビングではもう子供達が休んでいるようだった。
ダイニングもキッチンも元より照明(電気)は点かないので、非常灯は蝋燭の灯りだ。
兄貴たちも食事を摂りつつ子供が起きないように声を潜めて話をした。




