40話 地味に増えてる
「あの、皆さんのスキルって経験値増えてます?」
「ん? んー」
「増えてる増えてる」
「トイレ1.000002になってるわよ」
「うちも、ダイニングキッチン1.000002だわ」
「バスルーム1.000002ね」
「うちは仏間1.000003になりました」
なるほど、全員、地味に増えてはいるんだな。
「みんな、間にゼロが5つ?」
「そうね、で、そのあとが2。清見くんだけ後ろが3なのね」
「攻撃スキルって確か、ゼロが中3つじゃなかった?」
「空間より攻撃スキルの方が経験値が貯まりやすい、レベルを上げやすいって事かしら」
「多分そうだと思います。けど、攻撃や体力は、あ、俺の回復もですけど、かっこ微がつくので、経験値が貯まりやすいけどレベルアップの段階が多そうですね。いや、回復スキルはゼロも多かったです」
「そうねぇ。大中小や、SMLならともかく『微』ですもんね」
「せめて経験値を貯める法則が解ればいいんですがゲームのように攻略本があるわけじゃないですから」
「普通に考えると使用回数かしら……一日何回使用したとか」
「トイレやお風呂はそれでいいかもしれないけど、キッチンはどうカウントされるのかなぁ。シンクの使用回数? 料理した回数?」
「それを言うなら仏間が1番難しいです。仏壇に手を合わせ回数なのか、お線香をあげた回数か。けど、スキル名が『空間』だから、もしかしたら使用回数ではなく、空間の使用時間、とかも考えられるかな」
「それと使用人数とかね」
使用回数、使用人数、使用時間、もしくは使用方法。解らない。情報が少なすぎる。
皆でため息をつきながら顔を見合わせた。
キッチンのテーブルに座ったまましばらく誰も口を開かなかった。
リビングのソファーから子供達の声が聞こえる。
ここが地球で今がいつもの日常なら、家事にひと息ついてママさん宅でお茶を楽しむグループだ。いや、俺はまだ結婚もしてないから知らんが。
退職前の職場の先輩たちがよく奥さんのママ友グループの話をするのをボヤっと聞いていただけだ。
専業主婦も共働きも、どちらも大変そうだったな。
「大変ですね……」
なんとなく、口に出た。
「そうねぇ。早く見つけてあげないとね」
「でも、変な人が来ない事を祈るわ」
俺はママさん達の事を口にしたつもりだったが、ママさん達は新しく加わるであろうメンバーに思いを馳せていたようだ。
「出来れば、山根さんみたいに救助関係の職の人がいいわねぇ」
「それか凄いスキル?を持ってる人」
「凄いスキルってどんなの?」
ママさんらの視線が俺に集中した。
「いや……俺もここの事は皆さんと同じくらいの知識しかないですよ」
「でも清見くん、ニートだからパソコンとかアニメでそっちの知識は持ってるんでしょ?」
「それは、まぁ。でもあくまで漫画やアニメや小説の話、なんで。現実とは違いますよ」
「でもねぇ?」
「ねぇ? 今が現実って言われてもね。トイレだけ分離したりとか、現実にはありえなかったわよね」
「そうそう。マンションの一室からバスルームだけここに来てるのよ? 他の部屋はどこに行ったのかしら。それと旦那」
「うん、うちの夫」
「職場の部屋ごと森のどこかに落ちてるのかしら」
うわぁ、ママさんらが泣きそうだ。やばい。こんな時どうすれば? 引きニートの俺にわかるわけがねぇぇぇぇ。
話題を、話題を変えよう。
「それにしてもちょっと不思議だったんですが、キッチンママさんのとこの、この空間。ええと、スキルはダイニングキッチンだったですよね? でもこの広さ、兄貴が言うには『リビングダイニングキッチン』じゃないかって」
「そうよぉ。うちは賃貸だけど3LDK、3つの居室とリビングダイニングキッチンなの。今は子供が小さいからひとつは客室、夫婦の寝室、子供部屋ね。でも寝る時以外をリビングで一緒に過ごせるようにリビングダイニングが広めのとこを探したわ」
「スキルが『ダイニングキッチン』なのは何でなんでしょうね?」
「そう言われるとそうね」
「長いからじゃない? スキルがリビングダイニングキッチンだと長いわよ」
「そうねぇ。それにうちはダイニングとリビングには仕切りの壁が無いし、大きなダイニングってとらえたのかしら? あ、ないって言うか外してもらったのよ」
「ああ。ほら、清見くんとこの仏間もそうじゃない? あそこ16畳でしょう? 本当は8畳の仏間と8畳の居間だったんじゃないかしら」
「ああ」
「そうね」
なるほど。襖こそないが畳は中央に敷居があったな。昔はあそこは襖で区切られていたのか。
俺が物心ついた時にはもう中央の襖は無かった気がする。
「ほら、押入れの整理をした時に、仏壇に近い方の押入れはガラクタ……あ、ごめんなさい。何に使うか不明な物が多かったけど、敷居からこっちの押入れは古い着物や服も入ってたから、お爺さんお婆さんの部屋だったんじゃないかしら」
そう言えば、そんな記憶が蘇ってきた。
襖は全開だったが取り外してはいなかった。祖父母の部屋から仏壇のある部屋が見えた。そうかふた部屋合体か。
「つまり、空間スキルは仕切られた空間が条件なのか。だから、外に居た兄貴には空間スキルが無かった」
「そうね、そうかもしれないわね」
「空間スキルは親子が条件って思ったけどよく考えたら裕理くんと清見くんは親子じゃないものね。子供と一緒に居た者が条件かしら」
「わかりませんね。ただ、子供達にもスキルがあるのか現状不明です。もしかしたら裕理にも空間スキルがあるのかも」
俺に向いていた目が一斉に子供らへと向いた。
「もう少し大きくならないと聞いてもわからないわね」
「リコちゃんやまなちゃんならわかるかな」
「どうだろ。でもどうやって聞く?」
ママさん達が再び俺を見た。
「もしも空間スキルを持っていたとしても、今は調べようがないですね。物理攻撃とか目に見えるスキルじゃないからなぁ。俺らのレベルが上がって何かが変化した時、もしかしたら……」
「そうねぇ。私達自身もまだよくわかってないからねぇ」
話はそこで中断した。
「ままぁ、いくみくん、ちーでた」
郁未くんがおしっこをしたのを見て、慌ててトイレママが飛んでいった。
トイレママさんとのこ郁未くんは2歳、風呂ママさんとこのリコちゃんは3歳、キッチンママさんとこのまなちゃんも3歳、りりちゃんは10ヶ月だ
うちの裕理くんは確かまだ9ヶ月だから1番年下だな。
因みに大人の年齢は探索禁止だ。兄貴から、死にたくなかったら絶対に聞くな、と言われている。




