31話 キッチンがチートすぎる
慌てて皆が仏間から飛び出してキッチンへと向かう。
キッチンへ上がるとキッチンママがコンロのある方へと飛んでいく。皆も追いかけた。
「ええと、ガス使えます!」
「「「えええええ!」」」
「電気は? 電気はダメかな?」
「照明が消えたままだけど電子レンジはどうかなぁ。……あ、ダメですね。レンジは使えなかった。あと換気扇もエアコンも消えてますね」
キッチンママが壁にくっついていた四角いパネルを見ながら何か操作をしていた。
「でもガス、水道が使えるだけでも神じゃないですか?」
「いいなぁ、うちもトイレじゃなくてキッチンで来たかったです」
「いえいえ、トイレは重要ですよ。あ、トイレットペーパーが無くなったら言ってください、うちのキッチンのストッカーに12ロールですがありますので」
「ありがとうございます。あ、でも、不思議なんですけど、無くなりそうで無くならないって言うか、翌朝になるとロールが戻ってるんですよ」
「あら、それトイレちぃと?かしら」
「そう言えば何気に沸かしてましたけど、お風呂も水が出るだけじゃなくてうちガスだけど沸かせますね。ガスも水道もどこに繋がってるのかしら」
「やだ、気づくの遅すぎぃ」
奥様たちがケラケラと笑う。主婦の集い、凄いな。俺には入っていけない。
鮎川さんは未婚と聞いていたが、普通に井戸端に加わってるな。
兄貴がシンパパとして果敢にも井戸端に侵入を試みようとして、うろうろしている。
お、突っ込んだぞ。
「いやぁ、うちはただの仏間なんで、電気ガス水道はいっさい無いんですよ。皆さん凄いなぁ」
兄貴、公園デビューなるか。
ママさん達が一瞬笑顔で固まったあと、動き出す。
「いえいえ、裕理くんパパの家があったからこそ、私達お世話になる事が出来ましたし」
「そうですよ、本当にありがとうございます」
おお、公園デビュー成功。ママさんの輪に無事に入れたようだな。やったな、兄貴!
俺は庭の隅(キッチンの前)で雑草に回復スキルの鍛錬を地道に続けた。耳だけは井戸端に向いている。井戸ないけど。
「飲み水の在庫を気にせず使えるのは、この緊急事態にありがたいですね。あとは食糧か。出来れば森で獣肉が獲れればいいんだが。物理攻撃スキルも微妙のままだからなぁ」
「橘さん、レベル上げにどんな訓練をなさいますか?」
兄貴と同じ物理攻撃スキル持ちの鮎川さんが真剣な面持ちになった。こんな状況なのにその前向きな思考は尊敬する。
「鮎川さんも同じスキルでしたよね?」
兄貴は鮎川さんだけでなくママさん達にも詰め寄られていた。
総勢11人、と言ってもそのうち5人は乳幼児。残り6人のうち4人(俺含む)は空間スキルだ。
攻撃スキルは兄貴と鮎川さんのふたりだけ。そして森には謎の亀……虫。
子供達(と俺たち)の安全は兄貴と鮎川さんにかかっている。
「怪我をしないように拳にタオル巻きつけて地面の砂を叩いたり、あそこの太い樹に古いマットレスを立てかけて相撲のぶつかりをやってみたり。いや、僕は元々インドア派なので鍛える方法をあまりしらなくて」
まぁとか凄いとかママさん達に言われてた。兄貴、『僕』とか、外じゃ僕なのか。
まさか、兄貴、ハーレムを狙っているのか?
『コブ付きだけどママさんハーレムを作ってみた』とかかぁ!
あ、でもアニメやラノベと違って、ママさん達は割と普通のママさんだよな?良くも悪くもふつ〜の奥さん?
はみ出んばかりのたわわなふたつの果実とか、ボンキュボンとか……は、居ませんな。すみません、失礼しました。
俺が横に逸れた妄想をしていると、真面目な話が耳に入ってきた。
「水と食糧に困らないなら、もう少し人探してもいいんじゃないかしら」
「そうですね、私みたいに、孤立して不安に思ってる方が他にもいるかもしれないです。食料の枯渇は気になりますが、私、頑張って倒しますよ!」
「それに、救助の人と出会える可能性もありますよね」
「救助隊……警察とか消防、私達を捜してくれてるかしら」
「そこなんですよ。俺が駅から戻る時に見た光景だと、かなり無造作に黒い何かが降り注いでいたし、あれに襲われた人が大量にいたとしたら警察も消防もどこまで手におえるのか」
「自衛隊は? 自衛隊出動とかも災害時にはテレビで目にしますよね」
「そうですね、そうか。まぁ俺らには待つしかないか」
待った待った。
ちょっとスルーしたが、物凄く重要なワードが出てこなかったか?
キッチンママのひと言。皆さん聞き逃した?
『水と食糧に困らない』
何で?
水は空間チートでママさん達のとこで出せるだろうけど、食糧にも困らないとは?
大事なとこを聞き逃したのは俺だけ?
いやいやいや、鮎川さんも『食料の枯渇』とか言ってたよな。




