29話 風呂お持ち帰り
風呂ゲット。じゃなかった遭難者を救助。
とにかく泣きながら喚き続ける母親をとりあえず落ち着かせた。
ようやく泣き止んだ母親は子供の存在を思い出したのか、慌てて風呂の建物へと飛んでいった。
扉から出てきた時には2〜3歳の子どもを抱いていた。女の子だろうか。幼児服は男女の区別がつきにくい。花のアップリケのようなポケットがついていたのでそれでなんとなく判断した。
「りこちゃん。さんさい」
おお、偉いな。自己紹介が出来るんだ。
こちらもそれぞれ自己紹介をした。兄貴が背負ってたリュックから水と食べ物を取り出した。
「ありがとうございます。あ、水はあったので大丈夫です」
リコちゃんママさんはペットボトルは受け取らず、缶入りクラッカーンだけ手に取り、直ぐに開けてリコちゃんに食べさせていた。
そうか。風呂ごと異世界転移なら水はバスタブに入ってたのか。って、転移って日本中ほぼ同時に起こったのだろうか?
もしそうだとしたら、朝8:30の風呂の水。きっと前日の残り湯だよな。そんなのを飲んで凌いでいたのか。可哀想に。
そう言えばトイレの郁未君ママさんもトイレタンクの水を飲んでたって言ってた。
災害時だもんな。しのごの言ってられないよな。…………災害時?あれって災害だったんだ。
こちらの話を簡単に説明すると直ぐに移動に同意してくれた。
例の『ふんすっ!』と踏ん張ってスキルを確認してもらうと、予想通り空間スキル持ちだった。『空間』だそうだ。
さらに、持ち運び出来る事伝えて練習してもらう。
「あ、あ、なんかわかった気がする! こうでしょ、ふんすっ!!! どうよ! とおっ! あ、動く動く」
何とか動かせそうなバスルームを持って、俺たちの仏間まで戻る事にした。
リコちゃんはちょっと人見知りをしたのか、兄貴がおぶろうとしたけどガンとして背中に乗らなかった。俺も試して背中を差し出すが断られた。イヤイヤ期かなぁ。
鮎川さんがリコちゃんをおぶって森を移動した。リコちゃんママさんは、バスルームを時々木にぶつけては落としていた。掴みにくい形状だよな。
「ドアを開けてどこか掴めませんか?」
兄貴が風呂場の内側の掴めそうな場所を指示していた。うんうん、壁に手をあてるだけで物を運ぶなんて超能力者みたいな事、俺たちの普段の生活にはなかったからな。
それでも何とか仏間まで戻ってこれた。リコちゃんママは息をきらしていた。それとリコちゃんを背負った鮎川さんも息切れしていた。お疲れ様でした。
俺と兄貴は役立たずで申し訳ない。
仏間で留守番をしていた郁未君ママはバスルームを見て大喜びをしていた。
反対に、リコちゃんママは郁未君ちのトイレを見て泣くほど喜んでいた。
仏間に招き入れてから、お茶(ペットボトルの水だが)を出し再度お互いの自己紹介とそして昨日からの話をした。
話を聞いて俺は確信した。
リコちゃんママも風呂掃除をしていて気を失ったそうだ。因みに余談だがリコちゃんもお手伝い(と言う名の遊び)をしていたそうだ。
俺が仏間掃除。
郁未君ママはトイレ掃除。
そして、リコちゃんママが風呂掃除。
『空間』スキル持ちは全員、掃除をしていたんだ。つまり、空間スキル発生のきっかけは『掃除』!
スキルをくれた異世界の神様は綺麗好きなのかもしれない。
俺がひとり考えに耽っていたのと同時に、みんなも似た話題で盛り上がっていた。
「空間スキルって子供と関係してるんですかね? トイレの郁未くん親子、お風呂のリコちゃん親子、そして仏間の悠里くん親子」
なるほど、そう言う見方もあるかもしれないが、それは間違いだ。
「裕理は俺の子じゃなくて兄貴の子です。俺はベビーシッター」
「でも、3人ともその時間に子供といたのよね。物理攻撃は単独で外に居た私と橘さん」
「清見が謎だな、空間だけでなく回復も持ってるからな」
「でも、畳の部屋にトイレとお風呂。良かったわぁ」
「後はキッチンですね」
そう言った女性達が俺と兄貴を見る。
え、もう一度森へ行けと?
そんなに都合よく落ちてたりするもんか。俺は疲れていたので抵抗(目を逸らしただけだが)したが、夕方までまだ時間があるのでもうひと踏ん張りする事になってしまった。
因みに鮎川さんもだ。鮎川さんが見た灯りの場所でまだ行ってない箇所が残ってたからだ。
何ということでしょう。
無事キッチン(及び中の人)もお持ち帰り出来てしまった。
「やはり親子セットでしたね」
女性陣が盛り上がっていた。そう、キッチンの持ち主は掃除をしていなかったのだ。前日放置していた洗濯物を畳んでいたそうだ。
俺の予想は覆されてしまった!
空間スキルは、掃除中の者がゲット出来るのではなく、どうやら親子セットのようだ。もちろん、今のところだ。




