28話 以外と落ちてるもんだ
お昼を食べたあと、また森を散策、いや、探索を開始した。
「目標はお風呂とキッチンー!」
鮎川さんが腕を上げて叫んだ。
違うから。
昨夜、鮎川さんが目撃したという灯りに遭難者か救助者が居るかもしれないので、探してみるためだ。
時間が経てば経つほど、その人達が移動してしまうかもしれない。
郁未君ママさんに裕理も預けて、今回は兄貴と鮎川さんと俺の3人で出発した。
「暗かったしハッキリと覚えてはいないんですが……多分こっち。んー…………灯りは3、4個はあった気がする。郁未君のところのトイレがあっちでしょ……って事はこの方向かなぁ」
ぶつぶつ言いながら先頭を歩く鮎川さんに俺と兄貴はついていく。
うちの周りはそうでもなかったが、森の奥へと進むにつれて太い木が増えていく。
まるで樹齢何百年のような木もあるぞ。それだけでない、雑草のように地面に生えた草もデカイな。俺は植物には詳しくないので地球にも似たような植物があるのかどうかはわからない。
少なくともうちの庭にはなかった。
「うわあっ!」
兄貴が突然上を見上げて叫び声をあげた。釣られて上を見るとそこには木の幹にへばりついたてんとう虫がいた。
てんとう虫というには若干サイズ感がバグっている。
俺の知っているてんとう虫は5ミリサイズの赤い背中に黒い点々があるやつだ。地球産(日本産)はそんなもんだ。
だが、今、頭上の太い木の幹に止まっているのは、亀サイズのてんとう虫(によく似た生物)だ。
亀と言ってもサイズはピンキリだが、目の前のは以前にどこかの公園の池で見た直径30センチくらいの亀だ。
赤い甲羅に黒い丸が幾つか付いているから思わずてんとう虫なんて言ったが、何、あの生物。
樹齢500年かって樹に、300年は生きていそうなてんとう虫が……いや、亀がくっついてる図。
きっしょいきっしょいきっしょい。
重そうに見えるけどよく落ちてこないな。
…………あれ?鋭い爪が幹に食い込んでないか?てんとう虫って爪あったんだ。…………危険だな、そっと下がろう。さっき印を付けたところまで撤退だ。
口を開けたままの兄貴と鮎川さんが、静かに静かに下がってくる。
方向を少し変えて進む。
そうだ、遭難者の探索だけでなく、水場と食料も見つけなくてはいけないんだった。
でも生き物がいる事ははっきりしたな。
「さっきのてんとう虫……亀?って食えるかな。亀……虫って何食だと思う? 木の幹に止まってるくらいだから木の蜜とかを吸ってるのかな」
「知らん。けどあの大きさになるのに蜜だけとは思えないな。それに食う前にこっちが食われそうだ。爪が凄かったぞ?」
「あの、私……虫食はちょっと」
「俺も虫を食うのはハードルが高いな。まぁ、何も無かったら食うのもやぶさかではないが」
俺も食えるかなぁ。厳しいな。餓死寸前までいったら、あるいは食えるかもしれない。うぅ、どうかなぁ。
「もっと別な物を探そう。せめて肉」
「森で肉が獲れるかよ。俺のスキルじゃまだ猪は倒せないぞ」
苦笑いしながら兄貴に否定された。だよなぁ。仮に猪が獲れても誰も解体出来ないだろうし。もちろん俺も出来ない。
「肉以外となるとキノコとか木の実か」
「キノコは危ないからな。それと木の実も。この世界の植物は情報がないから迂闊に食えないな。残るは鳥か魚か。川があれば良いんだが」
「川は無いけど、小屋はありました! 割と小型の家? 物置?」
鮎川さんが指差した方向を見ると、確かに、木々の間に小屋らしき建物が見えた。
「何だ? あの建物は……」
「郁未君ママのとこのトイレよりは大きいけど、山小屋とかプレハブ小屋よりは小さいですね」
「窓は無いみたい」
コンクリートの塊……のような物体だ。俺たちは少し遠目からその建物をぐるりとまわっていく。
「三方は壁か。おっ、あの面にガラスドアのような物が付いているぞ?」
俺らが話しながら徐々に小屋へと近づくと中から人が飛び出してきて、俺たちは驚いて後ろに飛び退った。
「良かった! 人が居た! 日本人ですか? 日本人ですよね? ここがどこかご存知ですか? うぅぅ」
出てきたのは女性で、その人は先頭にいた兄貴の腹に頭突きをするように縋りついて泣き出してしまった。
開いたドアから子供が顔を覗かせていた。今にも泣き出しそうな不安げな表情だった。
垣間見えた扉の中。
あれ、そこって風呂じゃないか?
落ちてるもんだな。風呂ゲット。




