25話 トイレの持ち主
背後から現れたのは子連れの親子だった。見た目は地球人っぽい。
子供を抱っこしていた。裕理よりもずっと大きい。2歳前後くらいかな。
トイレから出てきた鮎川さんが慌てていた。
「あの、すみません。勝手に借りてしまいました。声かけてもいらっしゃらなかったので」
「うわぁん、よかったよかった、どうしようかと思った、よかったあぁぁ」
女性が泣き出すと釣られるように子供も泣き出してしまった。俺と鮎川さんはその人が落ち着くまで待つしかない。
鮎川さんはその女性の背中をさすっていた。俺にはそんな気のきいた事は出来ない。
ようやく涙も鼻水も止まり話を聞けるようになった。
やはりその女性がトイレの持ち主だった。
持ち主というか、その人の自宅のトイレだと言う。昨日の朝、旦那さんが出勤した後、子供の食事を済ませてトイレ掃除をしていたそうだ。
リビングに居てテレビを観ていた子供が母親を探してトイレに来た。
その時に気を失ったそうだ。
気がついたら、トイレのみがこの森にあったそうだ。
「うちの家……どこか知りませんか?」
そこまで語った時にまた泣き出してしまった。
うちの仏間も謎だったがマンションの一室の、しかもトイレだけがここ(俺は異世界と思っている)に来るとは、本当に謎だ。
もしかして俺も仏間掃除ではなくトイレ掃除していたら、トイレで異世界転移していたのだろうか? 仏間でよかったぁ。
と言う事は、異世界転移は『掃除』が関係しているのだろうか?
だとしたらスキルも『空間仏間』ではなく、スキル『掃除』とかでもよくないか?
掃除スキルの方が、何となくだが敵と戦えそうだ。って、俺は戦わないけどね。
「それで昨日は驚いたし途方にくれてトイレに篭っていたんです」
「わかる! 途方にくれるしかないわよね」
鮎川さんがうんうんと同調している。それでまた涙がおさまってくる。鮎川さん凄いな。心理療法士とかか?
しかし食物もなく、(水は仕方なくタンクの水を飲んだ)今朝目が覚めてからこの辺りに誰か助けが居ないか探していたそうだ。
そのちょうど留守宅に俺たちが辿り着いた。
「うち、ここから徒歩15分くらいなので、とりあえず来ませんか?お子さんもお腹すいてるでしょう?」
鮎川さんが何度も俺の顔を見ていたのは、俺の了承を得たかったのか。わからなくて知らんふりをしてしまった。
慌ててうんうんと頷いておいた。
女性はまた泣き出してしまったが、その親子を連れて帰る事にした。
ところで。
仏間からここまでってたったの15分?
俺、すんごい歩いた気がしたんだけど?体感で3時間。
うっそ、たったの15分?マジで?
帰り道、物凄く近い間隔で俺の付けた目印があった。それはもうそこらじゅうでベキベキと折られた枝があった。
いやぁ、びっくり。流石は異世界だ。




