22話 難民
ドンドンドン
ヒェッ! なになになに!猪?
隣で兄貴が身体を起こした。裕理を抱き上げて俺に渡してきたので受け取った。
ドンドンドン
障子扉の向こうから聞こえるが、障子って叩くとドンドンと音がするもんか?
てか、誰ぇ?
兄貴が俺と裕理を背に庇うように低い体勢で布団の上にしゃがんでいる。俺も直ぐに移動できるように裕理をしっかり抱えて押入れの襖に身体を寄せた。
こんなに早く敵の襲来があるとは思わなかった。押入れの中に武器があるかどうか確認しとくんだった。
ドンドン ドンドン
「すみません! すみませーん、どなたかいらっしゃいませんか、お願い、誰か居てぇぇぇ」
人の声!日本語!女性?
兄貴の背中から力が抜けるのがわかった。小声で会話を交わす。
『遭難者か……』
『待って、兄貴、遭難者の振りをして襲ってくる盗賊かもしれないぞ』
『いや、日本に盗賊なんていないだろ。それに女性の声だぞ』
『ここが本当に日本かまだわからんし。女性に化けた狸とか妖怪……』
暗闇の中、月明かりでうっすらと見えるお互いの顔を見合った。
「居ないのかなぁ。建物だけ?」
『とりあえず出るぞ』
兄貴は俺たちに布団を被せて隠した。
「どちら様で?」
「よがったぁぁぁああああ、もう妖怪でも狸でも何でもいい、化かされてもいいのでひとりは嫌ぁぁぁ」
えっ?こっちが妖怪扱いなのか?
兄貴が障子扉を開いたようだが女性の泣き声で掻き消された。
「とりあえずあがって。あ、靴も持ってな。置いとくと無くなるかもしれないからな」
ぐすぐすと泣きながら仏間へ入ってくる。布団の端から覗き見ていたら兄貴に呼ばれた。
「清見、蝋燭付けて。あと災害用のライトもあったはず……」
兄貴は押入れから大き懐中電灯と座布団を出してきた。
俺は布団から顔を出すが優里は押入れ側に隠して(寝かせて)おいた。よく寝る良い子だ。
女性と目が合い会釈をした。俺は引きこもりだが挨拶くらいは出来る。
「で、どちら様で?」
兄貴が座布団をすすめながら話を始めた。事情聴取か?
「私、東京から来ました。鮎川と言います。どう説明したらいいのか、気がついたらこの森にいました。……あの、この森はどこなんでしょう?」
「この森、ここがどこかは俺達も知らないです」
「えっ? ここに住んでいる方ではないのですか?」
「ここ、つーか、この仏間には住んでますが、この森がどこかは知らんです」
「えっ? この部屋に住んでるのに、このうちが建ってる森がどこの、どこの県??なのか知らないんですか?」
「あー……、元からここに建ってたわけじゃないので。うちは吉祥寺に建ってた……はずだけど、仏間だけここに?飛んで?きた? いや変な話ですがまさにそんな感じで俺らもよくわかってません」
「あ、あぁ? すみません、私、頭があまり良くなくて理解が遅くて」
「いや、話している自分もよくわかってないんで」
「仏間だけ、飛んで……。だから何か剥身っぽい見た目の家だったんですね。すみません。全くわかっていません。……あの、人間ですか?」
「俺ら人間です。一応。とりあえず寝て、明日また話しませんか?」
「この家、トイレも風呂もないから、用を足すなら外でお願いします。仏間しかない家ですから」
「……変わってますね。あ、でもお邪魔します。ありがとうございます」
兄貴は鮎川名乗ったその女性に水と乾パンを渡して、布団をもうひと組押入れから出した。
布団は俺たちと離れた、元居間のあった側に敷いた。
なんか次から次に色々あるので本当に疲れた。眠れないと思ってたが裕理の暖かい身体を抱いているといつの間にか寝てしまったようだった。




