おもいびと
ふと戦争のことを考えていた。
今戦争に参加した人はとても悪い人ではないのに朝から酒をしこたま飲む生活を送っているらしい。
いい人ほど自分を責めて自分を悪い奴だという。
自分なんて愛されていいわけがない、自分なんてなんてと責め立てる。
本当はきっと罪の意識なんてものはなにも意味を為さないのだろう。
どれだけ悔やんでも死んだ人は戻りやしないし、殺した人がどれだけ苦しもうと失った人の無念ははれることはない。
でも私はそれでもその行動を無駄だとは言いたくないのだ。
人間の最も醜いことを私は優しさだと思っている。
形は歪で、お互いにこれが優しさだと雄弁に語る。
優しいなんてものはエゴだ。
優しさは優しい人を殺す寄生虫だ。
触れば触るほどこの身を削る。
その身を削る優しさから私たちを守るのがきっと罪悪感だ。
殺した人は報われない、一生自分に殺されたという事実だけがこの世に残り続ける。
でももしその罪悪感という意味のない祈りに今を生きる人が救われる道なのだとしたら。
私はまったく無駄だと思わないのだ。
自分に罪をかし、己を律する。
苦しくて苦しくて仕方がないだろう。
脳なんか取り払ってしまいたくて、酒を煽るのだろう。
命は命と取り換えることができない。
だから自分が死んで詫びたところでなにも生まれやしない。
そう言って残りの人生を苦しみながら過ごしていくようにするのがきっと戦争だ。
わくわくしたプロペラの音も、飛行機がひく雲も、化学の実験でふざけて嗅いだあの鼻を刺す臭いも。
私たちの好奇心だったすべてを人生ではなく命に結び付けて、また人間を野生に戻したいのだろうか。
どうか神様。この世にいるすべての人に誰か心配し、寄り添い、あなたの味方だと言ってくれる人がいてほしい。
優しい人よ、どうか泣かないで。
失った人よ、どうか泣かないで。
私は同志たちがどちらも救われず生きていかなければならないこの世界が明日滅んでしまえばいいとすら思ってしまう。
どうか君が笑ってくれ。
こんな独りよがりの優しさなんて響くことは期待していない。
どうか笑ってくれ。
こんな滑稽な私を。
どうか笑ってくれ。
私はその目的を果たすため、物語を書くために、この世界に未だみっともなく優しさをぶら下げているのだ。
笑え、私を。
私は亡霊だ。
私を笑おうと誰もあなたを責めたりしない。
誰も私を笑っていることなんて気づけやしない。
あなたは私を笑っていいのだ。
嘲笑でも爆笑でも泣き笑いでもなんでもいい。
あなたの笑顔が見たくて私はあの日堤防を降りたのだ。
どうか笑ってくれ、どうか泣いてくれ、どうかまたくだらないことで笑ってくれ。
何度でも言おう、あなたは私を笑う権利がある。




