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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

たまご

作者: 壱原 一

子連れの男性と入籍した。A男さんとB郎君と言う。


A男さんの前妻さんがB郎君の養育について先鋭な考えの第三者に傾倒してしまい、話し合い、相談、受診、入院を経てA男さんがB郎君を引き取り離婚へ至った。


相談時に相談員として受診を勧めたのが私である。


B郎君は、これまでの経緯もあってか表情が乏しく口数が少ない。けれどA男さんがこれから私も一緒に暮らす旨を伝えると、つぶらな目を一つ瞬かせ、こっくり頷いてくれた。


当初こそ無闇に緊張したが、淡白なB郎君と鷹揚なA男さんに励まされ、今では肩の力を抜いてB郎君と関われる。


B郎君も、おやつを分けたり、添い寝したり、偶にきゅっと口端を上げたりしてくれるようになった。


今日も洗濯物を取り込んでいるとB郎君が寄って来て、屈んだ私の掌にお菓子の小袋を乗せてくれる。


両端が捩じられた包装を剥がし、2個入りのお菓子を分け合って食べ、ありがとう美味しいと告げると口角をきゅっと上げてくれる。


この笑顔に見合う自分であろうと意気を新たにした矢先、部屋の隅で激しくえずくB郎君を見付けて肝を潰した。


けほ、けんっ、けっ…


げえっ…ごぼっ、ごおっ…


即座に駆け寄る寸前で、新たに似つかわしくない音を聞き、当惑に足が止まる。


紙を擦るような音。さらさら落ちる砂の音。


こちらに背を向け蹲ったB郎君の、恐らく口から、乾いた微粒子の音が聞こえる。


前妻さん、B郎君の実母さんは、冷静で責任感ある医師だった。


休日にB郎君と2人公園へ遊びに行き、B郎君が池で溺死してしまったと通報した。


幸いB郎君は生きていて直ぐに退院できたものの、実母さんはB郎君が確かに死に、いま生きて動いているのはB郎君ではないと主張した。


B郎君を溺れさせてしまった上、医師として見立てを誤った衝撃や動揺に耐えられず、現に生きているB郎君を受け入れられない。


様々な検査を受けさせた挙句、B郎君が寄生されているとか、成り代わられているとか言って、怪しげな儀式を行なう第三者を頼るようになってしまった。


えずきが治まったB郎君は、手元でかさかさ音を立て、くしゃっと捩じる音を鳴らし、既に気付いていた風にこちらを向いて立ち上がる。


握られているのはお菓子。


B郎君のお気に入りで、幾つも分けて貰ってきた。


乾いた微粒子の粉末がたっぷり掛かっている。


心臓が厭な脈を打つ。


低確率でもあり得ること。


今日にもA男さんへ言おうと思っていた。


私は妊娠している。



終.

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