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駆け上がってくる魔王の方へエアハルトがゆっくりと向かいながら剣を抜きました。
私は改めて彼に補助魔法をかけて、私達は盾の中の安全な場所にいます。
エアハルトは走り出すと下り坂の勢いを利用し魔王に飛びかかりました。
「タァーー!」
振り下ろした剣を魔王がさっきのように腕を振り上げ払おうとしました。
ガキィー!っと硬い物に剣が斬り込む音が聞こえました。浅く刃先が食い込んだだけですがこれまでとは違います。
「やった!エアハルト凄い!」
パウラが飛び跳ねて喜びましたが次の瞬間彼はふっ飛ばされていました。
「キャーッ、大丈夫!?」
私達がいる方へ飛ばされザザッと土煙が立ちましたがそのまま立ち上り再び攻撃をしかけます。
魔王も油断無く迎え撃とうとギラッと目を光らせました。
ここは防御力低下と足元に盾ですね。
一歩踏み込もうとした魔王の足が盾に躓きバランスを崩しました。すかさずエアハルトの剣が襲いかかります。
ザクッと鈍い音が聞こえた気がしました。気の所為ではない証拠に魔王の体に薄っすらと袈裟がけに血が滲んでいます。
「やった、斬り込んだぞ!」
浅いとはいえ手応えを感じたのか今度はエアハルトの目が輝いて見えました。
「やれやれ、追い詰められんと力を発揮できぬとはまだまだ若い」
ネーポムクは少し眉間にシワを寄せていますが機嫌は良さそうです。
「さっきのは芝居か?」
「本気であったぞ。未来ある若者を生かすのが老魔法師の役目であろう?」
本心かどうかはわかりませんが結果は良好ですね。
エアハルトは魔王に自分の力が通用することを確信し積極的な攻撃を開始しました。
魔王に飛びかかりながら斬り上げるように攻撃しますが、魔王が一歩引き躱すと同時に鋭い爪でエアハルトを引き裂こうとしてきます。
動きを読んでいたのかエアハルトは上手く体をひねって避けましたが微かに背中を爪の先がかすりました。
「チッ」
舌打ちし止まることなく攻撃を続けていますが、本来なら毒に侵され倒れているところですよ。私が前もってかけてあった毒防御のお陰で無事なんですからね。
「キャー!ロータル、早く回復をかけてあげて!」
パウラが早く早くと急かしてきます。
毒は効きませんが彼の背中には血が滲んでいます。物理防御を施しているのに流血するとは。それほど強力な毒と力なのでしょうか?魔王って結構やりますね。
エアハルトに回復をかけるとこちらを見ずにニヤッとしました。こんど大きい肉を優先的に譲ってもらわなくてはいけませんね。
ナジブに鍛えられた剣は全く鈍ること無く彼の手に馴染んでいるようで、戦うにつれエアハルトの剣が魔王に浅い傷を増やしていきます。
「ねぇ、あの剣。少し光って見えない?」
パウラがエアハルトを指差し言いました。
「んん~?」
ネーポムクと目を凝らしてエアハルトが振るう剣を見つめると確かに私が照らしている周辺の明るさの中でも彼の剣がぼんやり光って見えます。
「柄の魔石か?」
「いや刀身自体も光っておる。お前の補助魔法のせいではないか?」
ネーポムクがそう言った瞬間、エアハルトが振り下ろした剣が炎を帯びました。
「うわぁ~!」
「ギャアアア!!」
炎を纏った剣が魔王の腕を肘下から斬り落とし悲鳴があがります。
自分が斬ったくせにエアハルトも驚いて声を上げています。血飛沫が辺りに広がりエアハルトにもかかりました。
「えっ?なんだコレ……革鎧が溶けていく!」
魔王の爪や唾液には毒が含まれていることはわかっていましたが、血には強力な酸が含まれているようです。ジワジワと溶けていく様子にエアハルトは慌てて革鎧を脱ぎ捨てました。地面に流れた所もどす黒くなりゆらりと煙が立っています。
こんなのやっぱり見たことありません。
大体爪の先に毒とか仕込んでたらうっかり味方同士で殺しかねません。魔物って奴は基本的に乱暴な性質の集団ですから。
それにしても魔王が長く眠っている間にとんでも無い事が起きているのかもしれません。
「ネーポムク、こんな魔物は一体どこから生まれると思う?」
人類は本物の魔王の事ですら正確に記録を残して来なかったのですから、あまり期待は出来ませんが尋ねてみました。
「うむ、『魔王』というのは歴史上存在が不確かで強力な魔物という認識でしかない」
ネーポムクによると前回勇者に魔王が負けてしまった後とされていた頃、人類同士で数カ国を巻き込む大きな戦争があったそうです。
大国は破れ小さな国が同盟を組み大きな連邦国家を作ったがそれも長くは続かず国境は何度も変わり、古くからの国も歴史も消え去ってしまったらしい。
「それでか……」
いつの間にか人類は弱いばかりでなく間抜けになったらしく、国を豊かにするすべも無くしてしまっているようです。歴史というのは過去の遺産であり未来の道標ともなりうるもののはず。
強い魔王だって経験から今回の勇者候補の絞り込みや今後の対策を練っているのに弱い人類にこそ必要なものだと思うのですが、失ってしまったものは仕方がないですね。
「魔物というものは年月をかけてより強いモノを産み出すために自ら交配を繰り返す事はわかっているので、その過程であの様な異物が混ざることがあるのであろう」
なるほど。魔王がいない間に勝手に強い種を産み出そうとした結果があの失敗作ということですか。あんな構造では大量生産は出来そうにありません。全身毒と酸なんて……この後の交配は期待出来ず絶対に自滅するでしょう。
「エアハルト危ない!」
ネーポムクと話し込んでいる隙にエアハルトが片腕の魔王に追いつめられていました。
魔王は自身の斬り落とされた腕から流れ出る血も武器とし、エアハルトに浴びせようとしています。攻撃を仕掛けようとすると肘下から無い方の腕を差し向け牽制しています。これなら腕が付いたままのほうが戦いやすかったでしょう。
「ねぇロータル。これってヤバくない?」
急にパウラが盾の端を指差して言いました。
「なんだよ、俺の盾がどうかし……はぁ?」
確認した盾の一部が細く煙をあげもしかしなくても溶けて見えます。
「なんだ!?溶けてるって、魔王の血か!?」
派手に暴れまわるエアハルトを亡き者にしようと腕を振り回す魔王からの嬉しくない贈り物のようです。
「クソっ、エアハルト!早くなんとかしろ!盾がきかなくなってる」
このままでは安全に待機出来る場所が無くなり私の命すら危険です。
「エアハルト、さっき出した炎の剣はどうした?」
「それが一回だけでもう無理みたいだ!どうしても炎が出ない!」
ネーポムクが期待して問いかけますが良い返事はきけません。
「ロータル、どういう事だ?」
「俺にだってわからない。何故剣から炎が出たのかもわからん」
これまで幾度も勇者と戦ってきましたがあんなのは見たことありません。大体魔石を使って剣を打つ事すら知りませんでした。
「剣の魔石のせいじゃないのか?ナジブ以外の刀鍛冶は魔石を使うのか?」
彼に剣を作ってもらおうと提案してきたのはネーポムクです。何かを知っているなら貴方でしょう?
「儂も詳しくはわからぬ。ただ、若い頃に一緒に旅をした男が話しておった。物語の勇者の剣は魔石を使うと」
なるほど、物語とは実在の言い伝えで、その中で本来伝えられるべき魔王を倒す秘術が残っていたと。
「それで剣の使い方は聞いてないのか?」
「さっぱりだ」
予想通りです。




