30 初仕事です
すみません、忙しくて投稿忘れてました
肉と野菜がパンに挟んであるサンドイッチが運ばれて来ました。他にもオヤツと紅茶が用意されワクワクが止まりません。
「美味しそうね。ロータル、クッキー食べた事ある?」
パウラも私と同じ様に嬉しそうな顔をしています。ローテーブルに並べられたサンドイッチを一つ取りソファに座りながら齧りつきました。
「美味〜い、パンも柔らかいなぁ」
「本当ねぇ、凄く肉々しいサンドイッチだわぁ」
パウラもサンドイッチを食べながら唸っています。
今は私とパウラだけがソファに座りエアハルトとネーポムクは二クラスの執務机で地図を広げて話し合いをしています。
「氾濫が起きたのはこの川沿い一帯で、山が崩れて土砂が水と一緒に流されてきている。山周辺は急いで復旧工事が進んでいるんだが町の近くの川沿いまで手が回らなくてな」
上流の方が土砂で堰き止められるとまた大変なことになりかねないので真っ先に魔法師を派遣したらしいがそのせいで人手不足のようです。辺境ですから優秀な魔法師は数が限られていますからね。
「せめて町の人間が川を利用出来るようにこの辺りを手始めに工事して欲しいんだ」
広げた地図上を指し示し希望の範囲を提示しているようです。川は漁をしたり個人的に捉えた獲物を捌いたりと旅人や低収入の人間ほどよく利用するらしく、ギルド長としてはそんな事情もあり出来るだけ早く復旧させたいようです。
「話はわかったが我々はまだ魔法にも依頼を受けることにも慣れていない」
「いやネーポムクは違うだろう?」
二クラスがサクッと切り込みます。
「儂は土魔法は不得意だ。恐らくあの二人もそうだ。だからやれることは流木の撤去や身体強化で持てる程度の岩の移動だ」
本当なら土魔法が得意な者が川の抉れた箇所を埋めたり土砂で浅くなってしまった川底をさらうのだろうが私達には無理ですね。
「そうなのか?ロータルは……」
私に視線を向けた二クラスが何か言いたそうです。
「俺は攻撃系の魔法は使えない」
「なっ……んだって……」
心底驚いたような二クラスが口をポカンと開けています。そしてバッとネーポムクを見る。
「本当だ」
「嘘だろ」
小さく消え入りそうな声で零したっきり黙ってしまいました。こいつも攻撃魔法推しですか。
「あのぉ、ギルド長はどうしてロータルにそこまで期待しているんですか?」
パウラが不思議そうに言いました。彼女にしてみれば私がいくら優秀だと言っても初心者であるという前提があるので二クラスの態度が不可解なのでしょう。パウラはまだ他人の魔力量が認識できないし、私が自分と同じネーポムクの弟子だと思っていますからね。
「そりゃあ、ロータルは普通じゃないのは見ればわかる」
「え?」
パウラがサンドイッチを手にしたまま驚いた顔で私を見ました。私はパンに挟まっていた肉を咥えてずるりと引き出しそれだけを食べながらニヤリと笑いました。やはりA級には誤魔化せませんね。
「ほへがふほくひゅうひゅうなほはわはっはは?」(俺が凄く優秀なことがわかったか?)
「全然何言ってるのかわかんない」
パウラが意味がわからないなりにムッとした顔をしました。
「食べ物を口に入れたまま話さないの!それから肉だけ抜き出して食べない!」
サンドイッチになっているより肉だけの方が好きなのに駄目なのか。
口に入った肉をもぐもぐ噛み締めて黙って味わっていた。
「パウラと言ったかなお嬢さん。君はまだ他人の魔力に鈍感なようだがベテランになると剣士の俺でも魔法師かどうか、魔力が多いかどうかくらいはわかる」
「そうなんですね。エアハルトはわからないよね?」
パウラは自分だけが除け者のように感じたのか自分と同じ感覚で私に接しているエアハルトに話をふりました。
「俺は元々魔力を感じることが出来ない体質なんだ」
エアハルトが苦笑いで答えます。どんなに鍛えても経験を積んでも最初から魔力感知能力が無い者もいる。珍しい事じゃないです。
「そうなんだ。ちなみにロータルは?」
「……」
まだ食べている途中だったのでもぐもぐしながらニヤリとして「勿論わかる」という返事をした。クフフッ、悔しそうな顔してますね。
「でもロータルが初心者なのは本当なんでしょう?」
「(詠唱する魔法は)本当に初心者だぞ。な、ネーポムク」
チッと舌打ちしてネーポムクが渋々頷いた。口にしてない部分をわかってくれているようですね。
「だが別格なのは隠しようがないな。既に魔法防御も使える」
「「「魔法防御!?」」」
ネーポムク以外の三人が声を揃えて言いました。私はやっと肉を飲み込んで話せるようになりました。
「魔法防御って言ったってまだ範囲は狭かったし、二度の攻撃に耐えただけだぞ」
"燎原の火"と"煉獄の爆炎禍"ってやつです。口にはしませんよ、恥ずかしいですから。
「初心者でその程度なら末恐ろしいな」
二クラスが信じられないという顔をしながらも、私達にできる範囲での川の復旧を依頼してくれることになりました。
「今の川がどういう状態かはこちらで把握出来てる。だからお前達がここまでと思った時に報告してくれれば人を向かわせて出来ばえをチェックしそれに見合った報酬を支払う事にする」
「今度は引っ掛けなしですか?」
パウラが真剣に尋ねました。
「さぁ、どうかな。冒険者たるもの油断は禁物だぞ」
二クラスの答えにパウラがむぅっと顔をしかめたが、とにかく私達の初仕事が決まったようです。
やっとギルドを出ると森へ向かいました。
真っ直ぐに川へ向かい改めて二クラスが決めたおおまかな範囲を確認し依頼開始です。
「ではまずロータル、エアハルトに身体強化をかけろ。それからパウラ。お前は細かい木屑や土砂を持ち運びしやすい大きさにまとめて凍らせろ。儂は流木を燃やしていく」
年長者らしくネーポムクが仕切っていきますが、肝心なことを忘れていますよ。
「魔法の訓練も兼ねるんじゃなかったのか?」
私の指摘にネーポムクが黙ってこちらを見ました。
「パウラはまだ魔力が安定してない。だけどそれって変なクセがついていないとも言える。変えるなら今が良い機会だと思うぞ」
助走のような魔力の無駄使いをネーポムクに教えるよりパウラに教えるほうが覚えが早いに違いない。
「むぅ……待て、いや、儂は……お前の言う通りだ。儂も一緒に訓練していこう」
「どうしたの?」
ネーポムクが悩んで唸っているとパウラが不思議そうな顔をしました。
「実は俺の魔力の使い方のほうが効率が良い事がわかったんだ。だからパウラにも教えてやるよ」
「えっ、そうなの?ネーポムクより?」
「あぁ、儂というよりこれまでの魔法師の概念を覆すかもしれん」
ここに来てちょっと秘密に訓練するのを諦めたのか、ネーポムクが力無く言いました。私としても彼だけ教えてもし後でパウラもとなれば面倒ですから同時進行の方が都合が良いです。
「魔法師の概念って、もしかしてとんでもない事になってるのか?」
エアハルトは関係無いながらも驚いた顔で言いました。
「あぁ、だが他の者には話さんほうがよい。下手すればロータルは殺されるぞ」
ネーポムクの言葉にピリッとした空気が漂いました。
「新しいものは常に既存のものから疎まれる。まして常識だと思われている規則がありそれに沿って頂点に立っている者に取っては目障りでしかないからの」
エアハルトが喉をゴクリと鳴らしました。緊張している顔で私を見ています。
「それってつまりロータルが追われる身になるかも知れないってことか?一緒にいれば俺達も?」
黙って頷くネーポムク。パウラも緊張しているようです。
「なんだよ、俺を売る気か?」
誰に売られたって別に捕まりはしませんが、エアハルトを近くで観察するという目的は達成しにくくなりますね。




