21 隠すのも限界です
「なに?何がどうなってるの?!」
パウラが自らの魔力を抑えきれずどんどん暴走させています。
「あぁ、このままじゃ死んじゃうな」
力の暴走はいつしか枯渇をむかえます。体内からどんどん溢れていく魔力は光を帯びながら彼女のまわりに飛び散っていきます。なかなか美しいです。
「何を言っているロータル!早く止めろ!!」
ネーポムクが私の言葉を受けて焦ったような声をあげます。
「詰まりを治せばこうなると予想してたろ?」
「だから、診察だけしろと言ったではないか!」
「そうだった?」
首を傾げると肩を摑まれ睨まれます。
「いいから早くしろ!」
ネーポムクが指さした先ではパウラが瞳の光を失いかけグラグラと身体を揺らしています。そろそろ限界ですね。簡単な処置でいいんですからそんなに慌てなくても……
「ロータル、出来るんならすぐやれ!」
うわぉ、エアハルトまで訳もわからず私を責めてきます。
はいはいわかりました。
私は瞬時にパウラの意識をサクッと奪いました。魔力の暴走は本人が無意識下でパニックを起こしアワアワしているだけですから意識を奪っちゃえば本能的にストッパーがかかって止まります。生物は根本的に死を望みませんからね。
意識が無くなったパウラがそのまま倒れそうになったところをエアハルトが受け止めました。そっと地面に寝かし深いため息を吐き出します。
「どうしてこうなった?」
めっちゃ睨まれてますけどこれはネーポムクが悪いんじゃないですか?
「ネーポムクが詰まりを取れって言ったから」
「先ずは診察をしろと言ったんだ。治療は指示しとらん。そもそも詰まり解消の時は暴走の恐れがあるから慎重に進めるのが定石だ」
やっぱり私のせいでしょうか?
詰まりを解消する前後の落差が激しければ暴走は起きやすいということくらいわかってますよね。パウラは詰まりが大きかったので反動もそれに比例すると感じていたのは私だけだったんでしょうか?
「潜んでいる魔力の大きさは普通の人間にはわからん。大体の魔力持ちは子供の頃から管理されその都度詰まりも小さいうちから治療していくのが当たり前だ。魔力量も見えている部分をみればおおよその予測がつくもんだが……これ程とはな」
ネーポムクの予想を上回るパウラの魔力量に驚いているようです。なるほど、これくらいでそれほど驚くのですね。勉強になりました。
パウラはまだ意識が戻ってこなくてエアハルトがイライラしながら傍についています。先程の話しでネーポムクがちょっと楽観過ぎたのと私がちょっとミスってしまったせいでパウラが気を失った事を説明しましたが納得出来なかったみたいですね。
「そう睨むな。確かに褒められたやり方では無かったが手順を踏んだとしても結果は同じだったろう。この娘は魔力が人より多い」
「魔力が多いと気を失うのか?」
エアハルトは剣士だけあって魔法師の事はよく知らないようです。これまでもA冒険者と旅をしてきたようですが魔法師を入れたパーティを組んだ事は無さそうですね。
「身体と力のバランスが悪いと暴走に繋がりやすいと言われておる。パウラは軟禁生活が長かったため魔法師として生きて行くのに必要な体力がなさ過ぎる」
「そうなのか。だったら魔法の訓練より体力作りの時間を増やす方がいいんじゃないか?それなら走り込みを多めに……」
話を聞いたエアハルトがう~んと頷き何かぶつぶつと言い始めた。
体力作りですか……嫌な予感しかありませんね。これはなんとか私だけでも逃れる方法を考えなければいけません。
「パウラは優秀だから体を鍛えるのも大変そうだな。俺は普通のレベルだろうからそんな心配もなさそ……」
「良し、ロータルとパウラが一緒に体力作りを頑張れるように俺がキッチリ付き合うよ」
……いや、そうじゃなくてですね。
「パウラと俺は違うから……」
「何言ってる、ロータルも十分優秀だぞ。魔法を使い始めの奴がいきなり人の身体を診察をするとか聞いた事ないぞ。おまけに魔力の詰まり?も治すなんてあり得ない!パウラ同様ロータルも凄く優秀なんだよ、なぁ、ネーポムク?」
ちょっと目をキラキラさせて嬉しそうに見えるエアハルトを止められるのはネーポムクだけです。頼みますよ、私の隠れ弟子。
「ロータル程の優秀さならきっと稀に見る回復魔法師になれるに違いない」
いい顔で頷いてるんじゃ無いですよっ!あの約束を忘れたのですか?エアハルトに疑われないように一緒に旅を続けられるよう私をフォローして、年の功を活かし必要な情報を取り寄せるという約束……あれ?私が魔法をかなり使えることを他の者にバラさないという約束は……していませんでした……痛恨のミスです。これまで通りネーポムクが私に魔法を教えるという形は取ると言っていたのですっかりそうなんだと思いこんでいました。
ネーポムクが何故か満足そうにエアハルトと頷きあっている姿が心底ムカつきます。
いっそこの三人消してやろうか?いやそれでは当初の『何故魔王は時々勇者に倒されるのか?』という目的を達成出来ませんから駄目ですかね。
「ソウカ、オレッテユウシュウナンダ」
白々しくネーポムクに言うとプッと吹き出し笑うのを堪えているようです。クソジジイです。
「そうだ、誰にも師事しておらん状態で拘束魔法を使えたり物質強化魔法を使えるなんてあり得んからな」
魔法師の事をよく知らないエアハルトやパウラだけならまだしも、この先出会うであろう熟練の魔法師達の目はごまかせないこと、そしてそれならいっそ『魔法の天才現る』的に地味にでも周知していく方が情報のコントロールがしやすい事を説明され皆殺しを思いとどまりました。
人類世界での世渡りは大変ですね。魔王の時は気に入らなければ殺す、上手くいかなければ殺す、で済んでいたんですけどね。
話が終わる頃、パウラがやっと気が付きました。
「何がどうなっているの?うっ、気持ち悪い」
目が覚めても具合が悪そうなパウラをエアハルトが庇います。
「大丈夫か?どうすればいい?」
ネーポムクを振り返り心配そうに尋ねます。でもこれはきっと魔力酔いですね。要するに魔力の暴走に身体がついていけてないだけです。簡単に言えば誰かに頭を持って振り回された的な?この場合誰かというのは自身の魔力ですけど。
「あぁ、ロータル。吸引してやれ」
さっさとやれという感じで手をふるネーポムクが段々と憎らしくなってきます。
「吸引って?」
ムカつくんで知らないふりをしてやりましょう。
「チッ、暴走を起こした後の魔力というのは波がまだおさまっていない状態だ。だから自らの意志とは関係なく魔力が大きく放出される事が暫くの間続く。それを抑えるために他の魔法師が溢れた魔力を吸引してやるとスムーズに波が収まりやすい」
「そうなんだ~」
ヘラっと笑うとまた舌打ちしやがりました。くふっ。
「だったら早く吸引してやれよ、ネーポムクでもロータルでも良いから」
具合が悪いパウラに代わってエアハルトが私達に言います。
「儂は駄目だ。年を取り過ぎてる。こういう事は年若いまだ魔力が変化していない者のほうが上手くいく」
魔力というのは不思議なもので、年月が過ぎるとより個性的な変化を起こします。ネーポムクなら攻撃魔法よりのドロリとしたものに。そうなると吸収した若い魔力は馴染めず分離した水分と油のようになりネーポムクに悪い影響を及ぼします。その点若い者同士は互いに柔軟な魔力を持っているため馴染みがよく、万が一相性が良ければ魔力を渡し合う事も出来ます。私は魔王としてネーポムクよりも長く生きてきましたが今の時点での身体は生まれたてです。復活して二年ほどですから当然涸れより若い魔力を持っているのです。
「それじゃロータル、頼むぞ」
良くわかってないとはいえエアハルトは私に当たり前に任せ過ぎじゃないですか?出来ないとか思わないですかね。出来ますけど。
「詠唱は"魔力吸引"だ」
ネーポムクがようやく役目を果たしました。
「じゃあ行くよ、"魔力吸引"」
ちょっとタイミングがズレましたが忘れず詠唱してパウラの溢れた魔力を吸引し始めました。




