17 事情があるんです
エアハルトは直ぐにポイズネチュー四匹とツリーギル五匹を捕まえました。私が前もって拘束していたので簡単なもんです。
ネーポムクによるとコロリとした形の掌サイズのポイズネチューは弱毒持ちで毒部分の中身を抜いて外側を煎って粉にすれば咳止めになるとか。ツリーギルは細長い身体で短い足が両サイドに幾つもついておりウネウネとした動きをする昆虫でこちらは丸ごと黒焦げに焼いて粉にすると精力剤として効くそうです。
あれ?パウラは何故頬を染めて視線をそらしているんですか?
「どちらも高く売れるからこれからも見つけたら知らせるのだぞ」
ネーポムクが満足気な顔をしています。
「肉の方が良いと思ってたよ」
みんな肉好きですからね。
「金が入れば肉は市場でも買えるさ、野ネズミよりいい肉がな」
エアハルトが布袋に入れながら笑顔で言いました。野ウサギ一匹よりポイズネチュー一匹の方がはるかに高値で売れるそうです。人類は直ぐに病や怪我で死にかけますから薬は貴重なようです。
その後、薬になるような昆虫は見つけられませんでしたが野ネズミの巣穴を見つけネーポムクが火魔法で巣から誘き出すとエアハルトが素早く捕まえていきました。私も拘束魔法で手伝いました。
「もしかして私って全然役に立ってない……」
町へ向う帰り道、パウラが気まずそうに言いました。
「いま気づいたのか?イテッ!なんだよエアハルト」
「そういう事は口にするな。人それぞれ得意分野は違う」
そうだとしても何故エアハルトが怒るんですか?
「そうだな、パウラの活躍はここからだ」
ネーポムクも同意のようです。私とパウラは訳がわからず首を傾げていましたが、それも町についてわかりました。
商店が並ぶ通りの一軒の店に入った瞬間パウラが覚醒したのです。
「だから、これは貴重な薬材でしょう?それをこんな完璧な形でまとめてあなたの店に売ろうとしているのにこんな金額で取引しようってわけ?わかった、話しにならないわ。こんなことなら裏通りの薬屋へ行くわ」
「あぁ、もうわかったよ。その代わり次も見つけたらうちへ売ってくださいよ。状態もいいし数もまとまってるから」
「わかったわ、次も高く買い取ってね。それから他に高く買い取ってくれる薬材はないかしら?」
私達男三人は口をはさむ余地なく交渉は進みネーポムクが言うには恐らく相場の二割は高く買い取ってもらえたそうです。薬材というのは薬屋の言い値なのが普通だそうですからパウラの凄さが窺えますね。
「はぁ、勝ったわ」
爽快な表情の彼女はさっきまで落ち込んでいたのが嘘のようです。そう言えば昨日もそんな顔してましたね。
「凄いなパウラ」
エアハルトは今まで物を売るときにあまり交渉しないで言い値で売っていたそうです。
「なんて勿体ない。売る時も買う時も相手がうんざりしてきたときからが勝負なのよ。もう帰れって言われたら勝ったも同然。最初に徹底的に交渉しておけば次から同じ店に行けばもうその手間も省けるわ」
目を輝かせ拳を握りしめて交渉は勝負と豪語するパウラが何故だか眩しいです。
今夜は薬材が売れたので野ネズミはそのまま夕食になりました。広場に向う途中でパウラが値切り倒して野菜も買ったので夕食代は随分安く済んだようです。
広場に帰ってからもパウラは休むことなく夕食作りに取りかかります。私とエアハルトが拾ってきた焚き木で竈に火をつけ鍋をかけるとスープを作るために野菜を手慣れた様子で刻んでいきます。それは私も手伝いました。ロータルも野菜を切るのは慣れてますから。
肉はエアハルトが捌いて焼いてくれています。野菜と一緒に肉用のタレも買ってきたので今夜はタレ味の肉です。焦げたタレの香ばしい香りを嗅ぐと涎が口にたまります。次に人類を倒すときにも料理という文化は残しておかなくてはいけませんね。
スープも完成し肉も焼き上がると夕食を食べ始めました。
竈を囲んで美味しいタレ味の肉を食べています。少し身の硬い野ネズミはかなり身が淡白なのでタレで食べる方が好きな気がします。昨日食べた野ウサギの方は野ネズミと比べるともう少し脂身があるので塩だけでも美味しいです。
「それにしてもロータルって本当に魔法の初心者なの?」
パウラが信じられないという顔で私を見ています。私はチラッとネーポムクに視線を向けましたがわかっているだろうなって目で見返してきます。無詠唱なのがバレないように上手く話せよって事なんでしょう。
「俺は村から逃げる時に初めて魔法を使ったんだ。それまでは自分に魔力があるって知らなかった」
「逃げて来たって、そう、何か事情があるのね。いいのよ話さなくても」
パウラが私を見ながらちょっと眉を下げています。これは気遣ってくれているのでしょうか?ロータルの事情を知ったときのエアハルトもこんな顔をしていました。
「別に隠してないからいいよ。俺は家族からまともに扱ってもらえなかったんだ。毎日殴られてたから逃げて来た」
パウラはまるで自分が殴られていたような悲痛な顔をしました。
「そんな酷い事……大丈夫よ、これからはあなたにそんな事起きないわ。魔法を使いこなせれば身を守る事が出来るしそれでお金も稼いで暮らしていけるはずよ」
自分にも言い聞かせるようにパウラが頷きながら私の手を握りしめた。
「パウラは優しいな。そっちはどうして一人で旅をしようとしたんだ?イテッ!」
疑問に思ったから質問しただけなのにエアハルトが頭を小突いて来ました。
「馬鹿、図々しく聞くな」
「俺は話したぞ」
「お前とパウラは違う。お嬢様なんだぞ」
「だからお嬢様ってなんだよ?金があるだけだろ」
私の言葉にエアハルトがウッと口ごもりました。するとパウラがクスクス笑い出します。
「気を使わせてごめんなさい。大丈夫よ、これから一緒に旅をしてもらおうって頼んでいるんだから少しは話そうと思っていたのよ」
珍しい話しでも無いんだけど、と前置きしてパウラが自分の事を話し始めました。
「家は前にも話したキャスレイという街でそこで生まれたの……」
パウラは少し躊躇い、そして思い切ったように話しを続けた。
「私は男爵の娘なの」
「貴族か」
エアハルトが何とも言えない顔をしていた。人類の中には階級制度があり、より下っ端ほど上から虐げられているようです。ロータルの記憶にも何度か貴族様という言葉が出て来ています。馬鹿兄弟達が村に来た子爵とかいう奴の目に止まろうと下手な剣を練習したりしていました。貴族に召し抱えられれば村から出られて都会で贅沢な暮らしができると思っていたようでした。
「貴族ってそんなに強いのか?」
私が魔王として戦っていた時は魔物の下っ端の序列は強さ順でしたが人類のそれはちょっと違う感じだった気がしていました。
「身分でいえば上だな」
エアハルトが当たり前な事だという風に話すとパウラが小さくため息をつきました。
「上か。身分じゃ無くて強さでいえば?」
もう一度質問すると三人で、はぁ?って顔をしてきます。そしてネーポムクがハハッと乾いた笑い声を出しました。
「一個人の強さでいえば人それぞれだから正確には言えんが、今のところ剣士として名を馳せておるのはやはり貴族だな」
ネーポムクがそう言うとエアハルトも頷きました。
「確かに。ここウォーレン王国では騎士団のソロモン・リッピンコットが最強だと言われているな」
あ、それ勇者候補ですね。確か有力候補なので右手が行ってるはずです。ということは……
「魔法師で言えば誰なんだ?」
「……魔法師でいえばエルマー・メイシーだろう」
ネーポムクが急に顔の表情を無くすと淡々と言いました。
ちなみにこのエルマーも勇者候補で、足のやつが行ってます。




