13 何がいけないんでしょう
「まだかぁ?」
何度聞いたでしょうか。とにかくパウラの買い物が長い。
「ちょっと待って。ねぇ、店主、こっちよりこっちの方が生地が少ないのにこの値段って事はないんじゃない?」
「お客さん、別に布の面積で服の値段決めてるんじゃ無いよ」
「じゃあ、このシャツ二枚とこのベスト、このズボン二枚とこの靴も買うからもっとまけてよ。ココほら糸が解けてるし」
台の上に次々と服を積み上げて店の主人と値段の交渉をしています。さっきから選び抜き積み上げて山になった服の上にまた積み上げ、交渉も仕上げにかかっているようです。
「もうー、わかった。これでいいから」
「ありがとう!この半端も引いてね」
私にはよくわかりませんが納得いく買い物が出来たようでパウラが笑顔で私を手招きしました。
「はい、これ。この奥で着替えて良いって」
シャツとベストとズボンと靴を渡され店の奥へ押し込まれました。
え?これって私の服ですか?!着ても良いんですか!
驚きながらも言われた通りに店の奥にあるカーテンで仕切られた狭い場所に入り全部の服を脱いで着替えると再び店の前に出て行きました。
「あぁ、少し大き目だけど似合ってるわね」
パウラも乾いているとはいえ川に流され泥がついて薄汚れていた服を着替えて来ました。ニコニコとし、私の姿を見て喜んでいるようで何故か私も嬉しくなりました。
私が着ていた服はボロボロ過ぎたので処分して次はテントを探しに行きました。
「パウラは金をいっぱい持ってるんだな」
一人用のテントとパウラと私の毛布も買ってネーポムクが待つ広場に向かっていました。
テントを売っている店も何件も見比べ、買う時もじっくりと選びました。また値段交渉して店の主人がいい加減にしろって言ってからやっと買うと決めたパウラは満足そうに微笑んでいます。
「少しね、でも無駄使いはしないわよ」
なるほど、旅に出て冒険者になるのはお金の為だけでは無いようですね。少なくとも何もしなくてもしばらくは暮らせる程の金は持ってそうです。
その後も色々な店に寄り沢山の荷物を持たされ買い物は終了しました。なるほど荷物運びが私の役目でしたか。
広場について毛布に横になっていたネーポムクに声をかけると私を見て驚いた顔をしました。
「ロータル、その服……パウラに買ってもらったのか?」
「そうなんだ、着替えと毛布も買ってくれた」
服屋のおまけでリュックも手に入り私はなんだか良い気分でネーポムクに話していました。
「そうか、良かったな」
ネーポムクも頷き微笑んでいます。
大男に絡まれたり店を探して歩いたりですっかり疲れたパウラは早速テントを張ると少し休むと言って中へ入り出入り口を閉じました。
テントなんて見たことが無かったので後で中を見せてもらいましょう。
ネーポムクに肉串を渡し、私も買ってもらった毛布を敷いて横になりました。なるほど、毛布を敷いた方が背中が痛くなくて寝心地がいいですね。
少し昼寝をし、夕方になるとエアハルトが帰ってきました。手には野ウサギと硬い黒パンを持ち少し疲れた顔をしています。
「お帰り、狩りはどうだった?」
ネーポムクが尋ねるとエアハルトはさっきパウラと用意した焚き火の前にどっかり座りました。
「全部で六匹捕まえて三匹は肉屋に売ってそれでパンを買ってきた。それから自警団のカルロに呼ばれてギルドに行ってきた」
そう言ってポケットからジャラっとコインを取り出した。
「昨日の泥棒の調べが終わってな、あいつ手配がかかってる奴だったんだ。賞金もかかってて五万ルブもらえた」
ニヤッと笑うエアハルト。
「おぉ、凄いな。これ誰の金になるんだ?」
「儂が襲われたんだから儂のだ」
そう言ってネーポムクがコインを取ろうとしたが、エアハルトはサッと金を握り込んだ。
「それを言うなら俺とロータルが捕まえたんだぞ。取り敢えずこれを使ってロータルの旅支度を整えよう。服とか毛布とか……」
エアハルトが私に向けた笑顔が一瞬で固まった。
「あぁ、これパウラが買ってくれたんだ」
私は着ていた服をつまんでエアハルトに見せた。
「シャツとズボンと靴と着替えも一枚ずつ、それと毛布も。リュックはおまけでもらって……」
エアハルトに話しているのに私の隣にいたパウラが何故か話しを遮ってきました。
「ロータル、もういいよ」
えっ、何が?っと思ってみんなの顔を見るとネーポムクはちょっとニヤけてパウラは気まずそうな顔。エアハルトは固まった笑顔からいつの間にか眉間にしわを寄せて私を見ています。
「なんだよ、エアハルト」
まるで叱られているような気がしてきました。魔王なのに。
「そんな簡単に物を買ってもらうなよ!パウラとは今日あったばかりなんだぞ!」
「俺は買ってくれとは言ってない」
「だったら断れよ」
なんだか面倒くさい事を言いだしますね。どうして買ってもらってはいけないんでしょうか?パウラが勝手にしたことを私に文句をいうのも解せません。
「俺に文句言うなよ。エアハルトはパウラが旅についてくるのが嫌なんだろ?だったら離れる前にお金持ってるパウラにいっぱい買ってもらえばいいだろ。肉串だって二本も食べれた」
そう言うとエアハルトがますます怒り出した。
「パウラの金はパウラのものだ!俺達と一緒に旅をするかもわからないうちからたかるような真似をするな!情けないと思わないのか!」
「別に思わないさ、俺は金なんて一銭だって持ってないし今のところ稼ぐあてもない。だけどボロい服よりこの服の方が気持ちがいいし毛布があれば寝る時に背中が痛くないし寒くない。それをくれるって言うんだから断る理由はない」
私の言葉にエアハルトは一瞬言葉を詰まらせました。
「それは、そうだけど、俺もこんな風に少しずつでも稼いでロータルの旅支度を整えていけばいいと思ってたんだ」
「それはありがとう。俺も早くみんなみたいに普通の服が着たかったんだ。俺だけ酷い格好だったからジロジロ見られてる気がしてさ」
あまり目立つ訳にはいきませんからね。
エアハルトが口を引き結び下を向きました。さっきからいちいちなんでしょう?もしかしてこのまま嫌われてパーティを組めなくなるんじゃないでしょうね?
「ネーポムク、俺がパウラに服をもらうのはそんなに駄目か?」
ネーポムクはう~んと少し考え首を横に振りました。
「いや、大丈夫だ。お前が気分良くなったのだからそれでいい。ただエアハルトはパウラの大事なお金を不用意に使わせるなと言いたかったのだ。例えパウラが沢山金を持っていたにせよ無限にあるわけではない。金は大事な物だ」
なるほど、パウラの金が減る事を気にしていたのか。
「そうか、わかったじゃあこれをパウラに渡せばいいな」
私はエアハルトが持っていた五万ルブを取るとパウラに渡した。
「これじゃまだ足りないよな、明日から狩りに行って肉を売って来るからちょっと待ってくれ」
パウラが幾ら払ったかはよくわからないけどジャラジャラ払ってたから足りないはずだ。
「あぁ、大丈夫よ。こんなにかかってないのよロータルの服とか毛布だけなら八千ルブ位だから」
「八千ルブ!?そんなはず無いだろ、安くても服だけで一万ルブ以上はしたはずだ」
エアハルトが驚いて顔を上げた。その勢いにパウラも驚きオロオロしながら早口で話し出します。
「そんなことないよ、ロータルの服は私の服と一緒にまとめて古着屋で買ったの。まとめ買いすればかなり値切れるし弱味をつけば更に値切れるの。毛布だってテント屋で売れ残っていたのを二枚も買ってまとめて値切ったから一つ一つ計算すればそれくらいになるわ……あっ」
話しきったパウラが直ぐに顔を真っ赤にした。
「値切った?パウラが?」
エアハルトは信じられないという顔をしたあとすぐにプッと吹き出した。
「値切った!いいところのお嬢さんが買い物で値切ったのか!しかもガチ値切り、本気のやつ!ぶはははははははっ!」
腹を抱えて笑い出すエアハルト。気づけばネーポムクも笑ってる。
「そんなに笑わなくったっていいでしょ!私だって値切りくらいするわよ」
赤い顔でちょっと怒っているパウラですけど本当に怒っている訳では無いようです。ここは私も笑っておくべきなんでしょうね。
「わははははははっ!パウラは変な奴だ」
おっと睨まれました。




