【短編】ツンデレ?幼馴染と自称天才ネット小説家
やあ!僕は坂ノ上 右京だ。
ごく普通の男子高校生……とはいい難い健全な17歳だ。
どうでもいいけど僕には十河 悠という幼馴染がいる。
到底僕に釣り合う才能もなく、僕には見合わない幼馴染だがな!
何故釣り合わないかって?
そう、僕が天才的なネット小説家だからだ。小説投稿サイト『novel novel novels』で人気のあるネット小説家『I love You』こそ僕の真の顔だ。
ここで間違って解釈して欲しくないのが、この名前は決して『私は悠を愛している』という意味ではないということだ。
この名前は『私はあなた(読者)を愛している』という粋な意味あいであり、またそもそも悠のスペルと違うから、決してそういう意味ではないからな。
そんな僕は『novel novel novels』において、TSした幼馴染同士(両方元々♂)の百合ラブコメ『TS×TS=LOVE?』、某国のサイコパス大統領がサイコパスであることを隠し通そうとするが、サイコパスがバレていくコメディー『サイコー機密サイコパス』の2作を投稿している。
両作品とも大人気で『TS×TS=LOVE?』は総合ランキングで3位、『サイコー機密サイコパス』は4位となっている。
また、両作品ともに書籍化を果たし合計200万部を突破し、『TS×TS=LOVE?』はアニメ化企画が持ち上がっている程だ。
そんな僕にも敵わない相手がいる。そう、総合ランキング1位と2位だ。
1位と2位はダントツで、しかも両作品ともに同じ人が書いている。
彼こそ、僕のライバルであり尊敬してやまない『鳥取都知事チワワ砂漠』様だ。
彼の作品は僕の作品と比べても3段階くらい面白く、綿密な伏線や確かな取材をしたリアリティーのある場面が特に凄く、いつ見ても敵わないな〜と思わせてくれる。
彼の作品は2つともアニメ化を済ませており、『厨二病のOLが異世界を裏から操るようです。』は2期が現在放送中だ。
当然僕も見ている。めちゃくちゃ面白い。笑い過ぎてお母さんに怒られても我慢できない程に。
そんな僕も高校生。どうでもいいけど学校に電車で通っている。
悠も同じ学校に通っている。決して僕が同じ学校に行きたいからって努力したわけではないからな。偶然、そう偶然同じ学校を志望し、偶然同じ学校に合格し、偶然同じ学校に入学しただけだ。
当然同じ学校に通うのならバッタリ出会うこともあって、現在悠と一緒に、駅前から学校に向けて歩いている。
僕は無視していたが、悠が「右京!!!!!!」と人目を憚らず飛びついてきたため、仕方なく一緒に登校している。
決して、望んだわけではないからな!しっかりと抵抗したぞ!でも悠の立派な胸部装甲の前に撃沈したのだ……。
流石の悠も周りの奇異の目には耐えられなかったらしく、2人して黙っている。
すると悠が沈黙を破り話しかけてきた。
「右京はす、好きな人とかいるの?」
「いね〜よ。第一そんな仲良くなりたいのもいないし」
すると悠は頬を赤くした。
もしやコレは脈アリか?よく見ると悠って可愛いし、胸大きいし……
僕がこんなことを考えていると悠は揶揄うようにこう言った。
「ウケるんだけど!!脈アリとか思ってんの?草生えるって!www」
脈アリかと僕が考えたのもわざとだと知らずに悠は機嫌をよくして去っていった。
そして悠は路地を曲がりこう囁く。
「えっ!?やっぱり両想いなのかな?告白するべきかな?」
ここまでいつも通りのテンプレートだ。
これが最高の娯楽なんだよな〜。いや〜片想いゴメンネ〜笑。
そして、再び合流。
「何か聞こえた?」
少し恥じらって悠は聞く。
「いや、何も?」
いつも通りに答える。
「そういえばね〜私ハマってることがあるんだ〜」
たまに聞くセリフだ。
「何にハマってるの?」
心ここに在らずといった感じに聞いてみる。気づかないだろうけど。
「あのね〜。最近『novel novel novels』で『I love You』っていう人の作品にハマってるんだ〜。めっちゃ面白いんだよ!右京は知ってる?」
へ〜『novel novel novels』の『I love You』さんね〜。なんか聞いたことある気がするな〜。
ん?『novel novel novels』の『I love You』?
これってもしや……僕じゃないかな?
「へ、へ〜『I love You』さんね〜。ど、どんな作品な、なのぉ〜?」
動揺を隠せている自信がない。流石に動揺が気づかれるか……
「『TS×TS=LOVE?』っていう作品がとっても面白くてね!ゲラゲラ笑ってるんだ!もう1つの『サイコー機密サイコパス』って作品も最高に面白いんだよ!サイコーだけにね!」
ここは南極らしい。寒過ぎる。
「どんなところが面白いの?」
なんとか動揺を抑えられたが、これは何かのきっかけで再発しそうだな。
「『TS×TS=LOVE?』の初めの方のシーンなんだけど、悠希が伊織に向けて実は性転換していて学校に行ってなくて……って真実を伝えようとした電話で、そもそも2人とも声が高いのに気づかずに何故か話が噛み合って、伊織の『俺、決めたよ。悠希がいればTSだって平気さ!』の一言で全て理解した2人のシーンがマジで好きなんだよね〜」
あのシーンか〜2人の会話をなんとか噛み合わせるのに1週間くらいかかったからな〜。お陰で大好評で、一気に人気になったけど。
「へ〜そうなんだ!僕も帰ったら見てみるよ!」
もう教室の前まで来てたので、ここで分かれる。
「学校終わったらまたね〜」
「うん、また〜」
一応返事をして教室へと入っていった。
昼休み、『鳥取都知事チワワ砂漠』様のSNSを見た。どうやら、お弁当を食べているらしい。ん?このお弁当箱どこかで……。
……まあいいや。
そしてホームルームが終わり、帰れる!となった時全速力で教室から出て、悠から逃げようとした僕に柔らかなモノがぶつかり、僕は仰向けに倒れた。
そう、もう遅かったのだ。悠はドアの目の前にいたのだ。
「一緒に帰ろうね〜」
圧が籠もっていた気がする。
「は、はい……」
僕は力なく答えるしかなかった。
悠の話に付き合わされる帰宅時間が続いた。
家に帰った僕は風呂に入って夕食を食べ、『サイコー機密サイコパス』の続きを書き、ひと段落したところで再び『鳥取都知事チワワ砂漠』様のSNSを見た。もう日課だね。
ツイートには『TS×TS=LOVE?』について友達と話した。と書いてあり、悠に話された時間がフラッシュバックしたので、そっと電源を落とした。
それから数分後僕は健やかな寝息を立てていた。
朝起きた僕はメールを確認しながら歯を磨き、朝食を食べながら着替えて、登校した。
至極当然のように駅で悠に捕まった。
毎日待ち伏せされているらしい。今度早起き……は無理か。
「『TS×TS=LOVE?』の続き読んだんだけど、やっぱり面白いね〜。ナンパに対してお互いが自分の彼女を守るような発言をして、お互い照れてナンパは困惑するシーンに、昨日笑いが止まらなかったよ〜」
相手が悠だとしても褒められるのは悪くないな〜。帰ったらエゴサしよ。
「へ〜⤴︎そうなんだ〜⤴︎」
「やけに嬉しそうだね。どうしたの?」
げっ!顔に出てたか!
「いや、昨日ソシャゲのガチャで大当たり引いてさ〜」
「でも右京、ソシャゲやってないよね?」
ヤバいぞ〜どうする〜?
「さ、最近始めたの!」
実は隠れてやってたっていえばよかったかもな〜。もう遅いけど。
「へ〜そうなんだ〜」
ふぅ、なんとか乗りきったぜ。
以降は、学校のことなどたわいもないことを話していたら、気づいたら学校に着いていた。
「もう我慢できない……どうしよう……」
そう漏らした悠は急を要すであろうことにしてはゆっくりと、おそらくトイレに向かった。
ホームルームも終わり、今日こそ悠の呪縛から逃れようと、昨日よりも気持ち速くドアへと向かった。
そこには……悠はいなかった。これ幸いと急いで廊下を走ったら冷たい声が前から聞こえた。
「いつも通り、一緒に帰りましょうね」
諦めましたとも。
駅までの道のりで悠は歩きスマホをしていた。よくないことだと分かっていても、注意する気にならなかった。
僕がガン見してたからである。ただ、ガン見しているのにも理由がある。
悠のSNSの名前が『鳥取都知事チワワ砂漠』と表示されているからだ。
10回は目を擦って確認した。明日はものもらい確定だな。
だが、何度見ても『鳥取都知事チワワ砂漠』と表示されているし、フォロワー数も同じだ。
気になって耐えきれず、脇道に逸れて聞いてみることにした。
「も、もしかして悠が『鳥取都知事チワワ砂漠』なの?」
「うん。そうだよ」
やっぱり信じられなくてもう1回聞くことにした。
「本当に悠が『鳥取都知事チワワ砂漠』なの?」
「そうだよ。ハァやっと気づいたのかよ、この鈍感系右京は」
釣り合わないと見下していた昨日までの僕をプレス機で潰したい気持ちになった。
というか鈍感系とはなんだ!鈍感系とは!失礼にも程があるぞ!
鈍感系に分類されて立腹した僕は悠が『鳥取都知事チワワ砂漠』であることを忘れかけながらこう放った。
「どこが鈍感系なんだ!」
「まあ、自覚ないタイプだってことは分かってたけど、いざこうして対面してみると滑稽だね〜」
「だからどこが鈍感系なんだよ!仔細に細大漏らさず言え!」
え!?言っちゃっていいの?みたいな顔をしたを悠がしたから僕はさらにこういった。
「さっさと言え〜!」
「分かったよ……傷つくの承知で言うけど、まず私の演技に騙されすぎ。な〜んで役者でもないような一般人のふざけてやってるような、バレバレに演じてる私を、暴いた気になってるのかな?好き!っていつも聞こえちゃってるのを実は知ってるよ笑、ってなって気持ちよくなってる右京の姿に笑いを堪えるのにこっちはもう必死だったんだよ」
え!嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。あれって悠が片想いしてるのを僕が笑っていたんじゃなくて、嘘を片想いだと思いこんでる僕のことを悠が笑ってたの!?立場逆転じゃん!
でもそれだけじゃあ、僕が鈍感系主人公で書いたボツ作品の主人公『純』君の足元にも及んでいない鈍感レベルだなぁ。
「その程度の鈍感力は普通の域だろ。第一、その立場逆転も後から作ったエピソードだろ。それにお母さんこの話聞いて笑ってたぞ笑」
思ったより300倍饒舌に返せたな。
「それ右京に対して笑ってるんだよ?それも気づいてないのは分かってたけどね。そう返してくると思って、ほら右京のお母さんからのメール」
《京香さん》
右京へ。
右京が鈍感なのは気づいてたけど、流石に右京が、わざと言ってることを気づいていない話は、右京が面白可笑しくて、笑っちゃったんだ。
追記:好きな子の好意に気づかないのはどうかと思うなお母さん。
え!?そ、そうなの!?
……信じてたのにお母さん。
追記はよく分からないけどな?
「で、でもこの程度大したことないぞ……」
「もう満身創痍じゃん。次に私が右京が『I love You』だと分かっていたことを気づいていなかったこと。シャーペンや机、パソコンが同じだし、悠のお母さんから私が聞いてないわけないじゃん。後、昨日と今日のことだけど、作品褒めて嬉しそうになり過ぎ!あんな上機嫌になってたら誰でも気づくって!」
なんでお母さん教えてるの〜。秘密だって約束したじゃん!
上機嫌になるのは仕方ないだろ!誰だってそうなるし!
「そして、私が『鳥取都知事チワワ砂漠』だと気づいていなかったこと!」
「え!?悠が『鳥取都知事チワワ砂漠』様なの!?」
嘘に決まってる!
「さっき2回聞いたのになんで忘れてるのかなぁ?それこそ鈍感だよ!鈍感ランキング世界1だよ!」
聞いてないと思うけど、あったなかったの意見の相違からの言い合いで悠は絶対曲げないから、面倒くさいことになるため追求は控えることにする。
「そんなの分かるわけないじゃないか!」
「あんなに分かり易くして、しかも鍵垢で投稿して右京以外には分からないようにしてるのに、なんでかなぁ?右京に対して、新しく買った物をウザいくらい自慢してから同じ物をSNSに投稿したり、右京と話した内容をそのままツイートしたりしたことを軽く100回はしたのになんで気づかないのかなぁ?」
え!?そんなことしてたの?
「鈍感なのかな……?僕」
というか待てよ、もしかして見下してたことも知ってたのかな?だ、だとしたら今は立場逆転どころじゃないぞ?あれ?僕、悠に何一つ勝ててなくね?
震えながら悠の言葉を待った。
「最後に私の好意に気づかなかったこと。私がどんなに分かりやすく伝えても気づかなかったり、曲解したりしてたからね〜。最近はツンデレをしてたけど、我慢できなくて言っちゃった。鈍感な右京はきっと、私以外の女性と付き合っても不幸になるだけだし、趣味も合うだろうし、私と付き合わない?」
悠は可愛いし、胸も大きいし、趣味も同じ……、うん!
「いいよ!」
ここは仕掛けるか……
「じゃあ!」
「うん!一緒に物語を書こう!」
フッフッフッ。やられっぱなしってわけにもいかないからね。
「右京、以外と演技力あるのね。ってのは置いといてOKってことね!やった〜!苦渋10年でやっと!因みに、共作はウェルカムだよ」
あ、はい。演技バレてました。でも『鳥取都知事チワワ砂漠』さんとの共作は嬉しいな!
2人の共作は大ヒットして、指輪をはめて幸せに執筆活動を続けていったとさ。
尚、僕は尻に敷かれ続けている。
園児の頃のえんぴつのぼうけん以来の実質処女作です。難しい……。