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傭兵は命を散らす  作者: 和泉茉樹
第三部 彼と彼女の再会と別れ
90/213

3-4 妥協できる部分と譲れない場所

       ◆



 三人で野っ原に座り込んだ。

 そこでジュンが言ったことは、やや私には衝撃的だった。

「これでも元は神鉄騎士団で、コルト隊の副長だった。ホークの前任者、ってことね」

 彼女はあっさりというけれど、さすがに混乱して、意味もなくリツを見てしまった。そのリツも怪訝そうな顔をしている。

「ジュンさんは元は大手の傭兵だったんですか?」

 リツの問いかけに、まあね、と彼女は苦笑いしている。

「ま、いろいろあって抜けて、人類を守り隊に参加ってこと」

「でも神鉄騎士団で隊の副長って、相当じゃないですか」

「まぁ、仕事は面白かったし、銭も多くもらえたし、悪いところはほとんどなかったね。ただ、合わないといえば合わない、そういう職場だったかな」

 ジュンが言葉を選んでいることが、私にもよくわかった。

 私のことを気遣っているんだろう。ただ一方で、私に考えさせようともしている。

 傭兵として生きていく上で、何を優先するか、というようなことだろう。仕事の内容、もらえる報酬、そういうものとは別の様々なもの。どこまで妥協して、どこを決して譲らないのか。

 傭兵はただの自殺志願者ではないし、拝金主義者でもない、とジュンは教えてくれているようだ。

 私が何を大切するべきか、今、答えを示せと言われるとちょっと困ってしまうのは事実だ。

 必死にやってきたし、同時に充実もしていた。

 倒すべき魔物は尽きることはないし、私は常に技を磨くことに専念した。仲間は気のいい人たちばかりで、背中を預けることも、預かることもできた。

 危険の中でさえ、彼らといれば生き延びれると思うほどだ。

 それだけでは足りない何かがあるのか。

 それだけでは埋められない何かが?

「なんでヴァンさんのところに落ち着いたんですか?」

 私が悩み始めているのとは対照的に、あっけらかんとリツが質問すると、ジュンは困ったように笑う。

「一時しのぎで仲間にしてもらったら、意外に楽しかった。イリューの奴もいるしね」

 イリューというのはさっきの亜人のことで、驚くべき美貌だったが、同時に驚異的な戦闘技術を持っているのは間違いない。

 ジュンとイリューが恋人同士だったりすれば、超一流の傭兵同士の組み合わせで、かなりな説得力を持ちそうなものだったけど、それはないようだ。

 ついさっき、二人が向かい合った時も仲間どころか、野生の獣同士が牙をむき出しにして睨み合う、という感じだった。

 人間というのはわからないものだな、とさっきまでの苦悩も忘れて、そんなことを思う私だった。

「あなた、ユナさん、戦場ですごい技を使っていたわよね」

 いきなり話題が変わって質問されたので、ちょっと狼狽えながら、私は無言で顎を引くようにして頷いた。

 ジュンは感心したような口調で言う。

「あれだけの破壊力のファクトはそうそうないけど、なんていう名前?」

「イレイズです」

 本来的にファクトのことを他人に積極的に教えるのは珍しいけれど、既にどういう性質のものかは知られているし、名称を覚えられても構わない。

 イレイズ、とジュンが小さく呟く。

「聞かないファクトね。でもあれだと、百枚目以上かな」

 どうやらこちらに喋らせようとしている口調だったので、私は精一杯の微笑みを見せて、答えなかった。ジュンも明るい笑顔を見せ、「踏み込み過ぎたね」というと音もなく立ち上がった。

 こうしてよく見てみると、非常に美しい人だし、身のこなしにも隙がない。

「子どもは早く寝なさいね」

 そんな風に言って、ジュンは一人で宿泊施設の方へ行ってしまった。

 残された私はリツを見て、リツは大袈裟にため息を吐いた。

「やっと落ち着いて話せる、って感じだな」

「でももう夜も遅いね」

 故郷ではこんな夜更けに話をしたことはなかった。私は屋敷に帰らないといけなかったし、夜に外へは出られなかった。リツには早朝から仕事があった。そもそも集落の大人たちの大半が、子ども同士で夜に会うなど、何が何でも許さなかっただろう。

 そういう古い観念があるのが、レオンソード騎士領だった。

 そこを抜け出した今、もう自由なはずなのに、どこか居心地が悪いのはなぜだろう。

「送っていこうか」

 リツがそう言って立ち上がった瞬間、変な音がして、二人が同時にそちらを見た。

 地面にいつの間にかオー老人が倒れこんでおり、いびきをかいている。

 沈黙の後、リツがため息を吐いて、「運ばなきゃな」と言った。

 笑いをこらえながら「手伝うよ」と立ち上がると、リツは断ろうとしたけど、実際問題、私も宿泊所へ帰るわけで、向かう先は一緒だ。そもそもリツの「送るよ」も不自然だったのだ。

 結局、二人で両側から挟むようにしてオー老人を持ち上げた。まるで足をやられたか、動けなくなった負傷兵を二人で後方へ運んでいるようだった。

 なんとも可笑しかったけど、久しぶりに和んでいる自分がいる。

 長い間を戦い続けていて、その中で心のどこかがこわばっていたようだ。

 宿泊施設が見えてくる。

「明日はちゃんと食事をしよう」

 リツの方からそう言ってきたので、わかった、と私は答えた。

 篝火の光の下、影がゆらゆらと揺れる。




(続く)

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