9、マーシアの決意
翌日の同じ時間。
約束の場所。
マーシアのコテージから1分だけ歩いた場所にある、ビーチ。
マーシアはネリィに伴われて、白い砂をサクサク鳴らしながら、ビーチに向かう。
あの可愛らしいタラア王と、爺やさんが海風にあおられていた。
ぶわりぶわりと風が強い。
爺やさんは伝統衣装の素肌に羽織った色鮮やかなマントで、少年王を守るようにくるんでいる。
(ああ、まだ子供なのね)
マーシアは、ほほえましく思った。
彼らはマーシアの爽快感と決意に満ちた表情を見て、彼女の回答を、彼女が口を開く前に知っていたことだろう。
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マーシアは少年王の目と鼻の先に立った。
「決めました。私を陛下の妻にしてください。
ふつつかものですが、どうぞよろしく」
少年王の顔がぱっと明るくなる。
「本当ですか!? 本当ですか!? お姉さま」
マーシアはにっこりとうなづく。
「やったー!」
元気な男の子の声が砂浜を通り抜ける。
少年王はガッツポーズをして、燦燦と照り輝く太陽に向かってジャンプした。
そんな少年王の姿を、
「かわいい……尊い……これからこんなかわいい子と、毎日いっしょに過ごせるなんて」
とネリィが感激の瞳で見つめている。
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20歳の年齢差、第二婦人をもつことが前提。
マーシアがそのような条件の結婚を受け入れたのは理由があった。
マーシアは自分の、ロイデン王国に戻ってからの結婚相手探しは、難航するだろうと思っていた。
というのはマーシアは侯爵家令嬢。
ほとんど王族である公爵家を除いては、貴族のなかでは一番格が高い家柄だ。
おまけにマーシアは、王子のもと婚約者である。
敬遠されがちなのだ。
それにマーシアは子供のころから成績優勝、スポーツ万能。
ピアノやバイオリン、フラワーアレンジメント、カリグラフィーに料理などの習い事の方面でも才能を発揮して、すべて師範の資格をもっている。
まさしく「なんでもできる女性」なのだが、ちょっとできすぎて、男性に引かれてしまうことが多い。
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またマーシアの弟は一言でいえば不良令息。
クラーク王子のように働かないだけならまだましなのだが、違法賭博や暴力沙汰などでしょっちゅうトラブルをおこして、両親に心配ばかりかけている。
だからマーシアは、せめて自分だけでもよい家柄の男性と結婚して、両親を安心させたいと思っていた。
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タラア島にはろくにお店もないし、インターネットも通じていない。
電気やガスも通っておらず、外国から輸入した太陽光パネルや、ガスボンベで、一部の特権階級の人々が電気やガスを使っているのみ。
水道もないので、水は井戸水か、外国から輸入したペットボトル。
噂によるとマーシアの宿泊している、外国人向けコテージの方が、王宮よりもよほど近代的な設備が整っているという。
けれども、例え原始的な暮らしをしているといえども、マーシアは国王の妻、つまり王妃になるわけだ。
マーシアの両親もきっとこの縁組に、満足して喜んでくれるに違いない。
ここまででいったん完結です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(人-)謝謝(-人)謝謝
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よろしければ続けてお楽しみください。
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完全版第3章「マーシア、タラア王妃となる」の内容
10、いよいよ結婚式
11、招かれざる客(クラーク王子と結婚したピアがタラア島にやってきた)
12、あの……お姉様、手を握ってもいいですか?
13、その後のマーシアとタラア王
14、大円団
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