第9話 この国の願い
「人魔が共存出来る国……」
蜜柑の人面樹 ジレンオが呟く。
「そんな事が出来るのでしょうか?人族も魔族も長い戦乱で憎しみが募っておりますぞ 」
歩く人面樹のツーリが立ち上がり、不安気に皆を見る。
「試す価値はあると思う。人族か魔族のどちらかが完全に滅ぶまで戦い続けるよりは遥かにマシじゃないか? 争いが争いを生み、悲劇が悲劇を生む世の中を変えたいんだ 」
「戦い続けて300年を過ぎて、未だに終わりが見えぬ世の中か……」
会長のパパラスがため息をついた。
猫老師が長机の上に飛び乗った。
「儂ら猫魔一族も、この300年で半減じゃ。戦乱の世が続く限り安心して暮らしていくのは至難の業じゃな 」
「戦乱の世を止める。その為には人族、魔族が協力出来る事を誰かが証明する必要があるのね 」
「どうしても話し合いが無理な連中もいるだろう。それは別にして、話し合いが出来て同じルールで共存出来る者達でまとまりたいんだ 」
「そうじゃな、お互いに争い続ければ永遠に戦乱は続く。だからこそCランク魔王で、周辺国も弱小国家で最高の立地のこの国をモデルケースにしたいのう 」
猫老師がテーブルの上で座り込んだ。
「そんな事が……可能なんじゃろうか? 」
「人魔共存の象徴として、魔王が、魔王シーデスが協力してくれればいいんじゃが……」
「ミックはシーデスが協力してくれると思う?」
シルヴィアが目を閉じて話を聞いているミックに話を振る。
「俺は御意見番として魔王シーデスを見ていた。先に奴の駄目な所を言うと、弱い、根性が無い、雑、怠け者、見栄を張る、ケチな、所などになる」
「残念魔王ね 」
「世界の半分も、山と森しか無い国じゃったの 」
「食事の好き嫌いも多いぞ。魚介系が苦手だ。野菜も選り好みする。ワガママだ」
料理長が、いらない情報を捕捉する。
「しかし良い部分もある。奴は人の話を公正に聞く耳を持っている。雑ではあるが他人に無理強いもしない。だから弱いモンスターもイジメられない」
「そうね。強いモンスターには強いモンスターの役割があって、弱いモンスターには弱いモンスターなりの仕事があるわね」
「怠け者だから積極的に悪事を働かないし、見栄を張るから正論に弱い。ケチだけど欲張りじゃないから人に嫉妬しない。魔王ではあるが、本質的には善人なんだ。だから他の強国では生きにくい弱いモンスターも住みやすいんだ」
「弱肉強食な国だと人魔共存って出来ないものね」
「そうなんだ。この国に弱いモンスターが多いのも、周辺国などから流れ込んで来ていると見ていい」
「そうじゃな。そう考えると我々の計画に最適な人材なんじゃが……どうするつもりじゃ?」
ミックは皆を見渡して提案する。
「俺はシーデスに我々の計画を話してみようと思う」
「大丈夫かの?」
「うん。奴は魔族の中で住みやすい国を作り上げた。弱者に対して差別意識の無い奴だ。もしかしたら俺たちと似たような思いを抱いているのかも知れない」
「そうね。可能性はあるわね。どちらにしろ魔族の協力者が必要だし、かなり、おっちょこちょいだけど丁度いいのかも知れないわね」
「周辺国が少しきな臭くなって来ているので、皆で行くわけには行かない。後は俺に任せてくれないか?」
ミックが皆を見渡すと、皆はそれぞれ頷いた。
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魔王シーデスは、魔王城から逃げて故郷に帰ろうと思ったが、勇者に負けて逃げ出したと噂されるのを恐れた。
それで故郷に帰るのを止め、シーデス魔王国内の山奥に庵を建てて、晴耕雨読の生活を楽しんでいた。滅びを待つ弱小国家の君主の重責から解放されたのである。
あいつら、不味い物ばかり食わせるし、細かい事にガミガミ煩くて嫌になるけど、モンスターだからといって差別はしなかった。まぁ、あいつらになら国を任せても良いだろう。
私は隠居して、在野のご意見番になってやろう。あいつらが失敗したらガミガミ文句をつけるのだ。