第32話 夢幻の後先
フォオオオーン!!!!!
2輪のラフレシアを咲かせたズイマから謎の音が響き渡った。
「なっ!! 」
ズイマに巻きついたラフレシアから、長いツタが高速で沢山伸びて来る。
後方に大きく飛びのくマース。追いすがるツタを両手の鋭い爪で切り裂いてゆく。その内の一本を掴んだマースは、前方に大きく飛び出した。一気にズイマとの距離を詰める。
ガンッ!!
マースは思い切りズイマをぶん殴った。大きく首がよじれるズイマ。完全に決まった。ズイマの身体が大きく崩れる。
「もう一発!! 」
ガシッ!!
フラフラしながらも、ズイマは殴り掛かってきたマースの左手を両手で掴んだ。マースはニヤリと笑う。右手で思い切りぶん殴ってやる、それで終わりだ。
その時、何故か室内に生えている木の茂みから半身を出している奇怪な人面草と目があった。
ニヤリと笑う人面草。
「え??? 」
「いょ〜っ!! 」
スカンクキャベツのスキャンさんが奇声を上げる。その手には鼓がある。
悪寒を感じてその場を離れようとするマース。しかしズイマが両手でしっかりと左手を掴んで動けない。
「くっ!! は、離せ!! 」
ポ〜ン!!
スキャンさんが鼓を叩く。
ポトッ……
天井に咲いた一輪のラフレシアが落ちて来て、マースの顔に覆い被さった。
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「う〜ん……」
マースは暗い室内で目を覚ました。頭が重い。ここは病室のベッドか……俺はいつの間にか寝ていたのか。
マースはゆっくりとベッドから立ち上がり周りを見渡した。誰もいない、誰の気配も無い。しかし油断は出来ない。戦闘モードを解く事は出来ない。
「洗面台か……」
手に汗が滲んでいる。洗うべきだろうと、マースは洗面台に向かった。
手を洗い、顔を洗うマース。少しすっきりした頭で先程の事を思い返す……恐るべき相手だった。超一流の料理人とは聞いていたが、戦士としても超一流とは思わなかった……そして奇怪な人面樹達。二度と関わりたく無いと本能が訴えてくる。
しかし、俺は傭兵。傭兵王とまで呼ばれた男だ。たとえ誰であれ、敵となるなら戦わねばならない……
その時、マースの左側から綺麗なタオルが差し出された。気がきくじゃないか。ありがたく受け取って顔を拭き、手を拭く。
「ありがとう 」
お礼を言って左を向くと、怖い顔して真っ赤な目から血を流す人面樹がいる。白衣らしい物をまとっている。
「え??? 」
誰もいなかった病室にいつの間に人面樹が……そ、その格好は看護師なのか?
じっと見つめてくる人面樹に気まずくなったマースは、顔を洗面台に向けた。
「え??? 」
鏡を見るとマースの右後方に小さな怪しげな人面草。その手には鼓を持っている。
目が合い、慌てて振り向くと笑顔の人面草が鼓を叩く所だった。
「いよ〜っ!! 」
ポーン!!
いつの間にか天井に生えていた一輪のラフレシアの花が落ちてきて、マースの顔に覆い被さった。
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その後、俺は何度も何度も同じ時を繰り返した。そう、俺は無限の時をループしている。
あぁ、無限の時から抜け出せなくて、いくつもの罰ゲームを繰り返しているような気分だ。気が付くと怪しげな人面草が現れて、人面草が鼓を叩くとラフレシアに頭を覆われる……
どうすれば、この無限ループから抜け出せるのか?俺は目を閉じたまま考える。
実は、いまま少しずつ変化をつけて色々試してみた。100回のループを繰り返した結果、5階の病室を抜け出して、1階の受付で会計を済ます所までは行ったのだ。
ただ、出口を出た時に奇怪な人面草に出くわして終わってしまった。今回は出口ではなく裏口に向かおう。この病院から抜け出せば何か変わるはずだ。
その他、諸々の基本計画を確認、イレギュラーに対する対応を決定。俺は一回、一回の繰り返しを決して無駄にはしない。傭兵王の名にかけて、必ずこの難題をクリアしてみせる。
全てを決定し、覚悟を決めて101回目のループに挑むべく、俺はゆっくりと目を開いた。
「ん??? 」
ベッドの上で目を開いた俺だが、視界が紫で埋まっている。目を細めて焦点を合わせると、至近に奇怪な人面草。目が合うとニヤリと笑う。
「いょ〜っ!! 」
ポーン!!
俺の視界の中で天井から落ちて来るラフレシアが大きくなって、俺の頭を奇怪な人面草と共に包み込んだ……
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マースが眠るベッドの横で人面樹達が騒いでいる。
「目覚めませんな」
「けっ、いつまで寝てやがるんだ!! 」
「そろそろ起こさないとヤバイじゃん 」
ゲーップ!!
「ラフィ、仕方がないっす。あれを、あれをするしかないっすよ 」
「ダメ、乙女の唇は安くないのよ 」
ぷ〜っ!!
「ラフィ〜ん、は、早く起こすので〜す 」
「ダメよ、目覚めの接吻には、まだ早いわ……」
「けっ、ふさけんじゃねぇ。このままじゃ俺たちもやばいじゃねーか!! 」
「ふふん、リュッケさんもまだまだ坊やね 」
ワイワイガヤガヤ……
なんか臭いと、まもなく目が覚めるマースであった……




