第16話 商談会に行こう
商業都市トレーディア。
どの勢力にも属さずに中立な立場で交易を行う事で、商業の中心地としての栄華を享受している大都市である。大陸随一の人口を誇り、金さえあれば何でも買える町として世界に名を馳せていた。
トレーディアでは毎日の様に多くの商談が開催される。ただ、その中でも1年に1回開かれる交易祭では各国の商業担当者、大商会から一介の行商人まで集まる大商談会が開催されており、この都市の名物となっていた。
「クックック、戦争には金がいる 」との事で会長のパパラスと総料理長のズイマ、林檎の人面樹のアプルン、はぐれエルフの少女のエルが、荷馬車に乗って商業都市トレーディアで開催される商談会に向かう事に決まった。
はぐれエルフとは戦災孤児のエルフなどが、人面樹に助けられて共存関係を築いた者である。
本来、プライドの高いエルフ族と魔族である人面樹達の共存などはあり得ない。
しかし、戦乱の世が続く中でお互いの強みを活かす事が出来る組み合わせとして、急速に広がりを見せていた。
エルフと人面樹が組めば森の中では圧倒的に優位に立てるのである。
シーデス人魔国には、人面樹界の大物の1人であるツーリが積極的に戦災孤児の救助をしていた関係で、多くのはぐれエルフがいた。
エルはミック達が作った学校の卒業生の第1号である。算数が出来ない魔族等が多い中で、エルは算数など論理的な思考に才能を見せた。
担任のシルヴィアはエルの才能を喜んで、パパラスが担当する商務省への就職を斡旋した。
人材不足に悩んでいたパパラスは喜んで受け入れて、秘書見習いとして今回の商談に連れてくる事にしたのである。
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商業都市トレーディアを目指す荷馬車の中。
「ふふふ、今年の林檎の出来は最高だ。果樹大国シーデスの一員として誇らしい 」
アプルンが荷馬車の中で呟く。
「アプルン、今日のお主がいつもより小さいのも分身のようなものなのかの? 」
「はい、俺はアプルン28号。アプルン本体から生まれた枝のようなものです。荷馬車に乗れるサイズの俺が選ばれたんです 」
「そ、そうか。まぁアプルンの林檎や人面樹達の果実は高く売れそうじゃの 」
「はい、ツーリ印の果物は高級ブランドですからね。
今年の品評会でもてっぺんを取りに行きますよ 」
「ところでズイマは何を売りに来たんじゃ?護衛 兼 料理人として連れて行ってくれと猫老師に頼まれたんじゃが 」
ズイマはガサゴソと旅のカバンを漁ると小さな小袋を取り出した。袋には密封と書いてある。
ズイマが袋の封を開けると真っ黒に染まった小魚が数匹入っていた。異様な臭気が荷馬車の中に漂い出す。
慌てて窓を開けるエル。
「お、俺は、この秘伝のタレにつけて発酵した小魚を売りに来たんだ。あまり強力なのは駄目だと言われて大衆用に弱めの奴を作ったんだ 」
「そ、そんなのを欲しがる奴がおるんかの? 」
「ね、猫老師が言うには高級珍味として食通に喜ばれるかも知れないって、中毒性のある旨さだって言ってた 」
「わ、わかったわい。とにかく封を閉じるんじゃい 」
ズイマは小魚の入った袋の封を閉じると、もう一つの真っ黒な袋を取り出した。
「なんじゃ?その白い髑髏の絵が書かれた黒い袋は 」
「ね、猫老師が、もしピンチになったら使えって。鼻をつまんでから相手に投げつけて、直ぐにその場を離れろって。お、お前は耐性があるから皆を助けて最後に離れろって……」
パパラス、アプルン、エルの3人が顔を見合わせる。間違いない、とても臭いやつだ。
あの猫老師が認めるほどのヤバイ奴だ。一度臭いがついたら並の努力では落ちないやつだ。
「わ、わかったわい。も、もし袋が何かの拍子に破れたりしたらパニックになるのでな、しっかりと管理するんじゃぞ 」
「わ、わかった、大切に扱う 」
と言いつつ、むんずと小袋を掴んでカバンに戻そうとするズイマ。
「ま、待て、ズイマ。お主は不器用で力加減が苦手じゃ。エ、エルにその袋を渡すんじゃ 」
えっ?私?と驚くエル。
「駄目だ、女の子が扱うのは危険すぎる 」
拒否するズイマ。
「わ、わかった。儂が持とう 」
震える手でヤバイ袋を掴もうするパパラス。
そこにスッと枝が伸びてヤバイ袋を掴む。
「林檎の人面樹アプルン。この大任を任された 」




