第12話 魔王の帰還
「シーちゃん!! 」
「シーデスちゃん!! 」
子供達が泣きながら駆け寄って来る。
「ぽ、僕は胸を貫かれて死んだはず……」
僕は自らの胸を見ると傷口は塞がっていた。
「お姉ちゃんが!!」
駆け寄って来なかった子供の所に、横たわった人影が見えた。
僕はフラフラと立ち上がり人影に向かう。
そこには姉さんが血塗れで倒れていた。
「姉さん……」
僕が気がついた時には、姉さんは既に亡くなっていたそうだ。
子供達は泣きながら話してくれた。
僕がダーリに胸を貫かれて直ぐに血塗れの姉さんが現れた事。姉さんが魔眼を使って即座にダーリを倒した事。しかし姉さんは片腕を失った状態で止血もせずに血を流しながらこちらに来たので、既に瀕死の状態であった事。そして……
最後の魔力と血を僕に注ぎこんで、自らを犠牲にして僕に蘇生呪文を使った事。
姉さんの最後の言葉は、子供達に「僕の事をお願い 」と言って亡くなったらしい。
僕には子供達を頼んでおいて……
自分自身の事を犠牲にして……
シーデスは姉の墓に話しかける。
「姉さん、僕と同じで戦乱を本気で止めたいと思っている連中が現れたんだ。戦乱は弱い者ほど傷つける。
僕は弱いから、子供達を守って、増えて来た仲間達を守るので精一杯だったんだ 」
暖かい風がシーデスの頰を撫でる。
「僕も姉さんの様に戦うよ。大切な者達を守る為に……姉さんの最後の魔力が、血が、想いが僕に力を貸してくれたんだ。だから見守っていて欲しいんだ、姉さんが残してくれた者達の生き方を……」
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魔王はお墓参りから庵に戻って来た。
「魔王様 」
庵の前には4匹の猫が立ち上がって待っていた。
「猫老師の配下か? 」
「はっ、猫魔導 四天王、お迎えに参りました 」
見事な敬礼をして来る。
「名を名乗るのが良い 」
黒猫が前に出て来る。
「猫魔導 四天王 筆頭 クロス ブラックフィールド。黒猫 クロスとお呼び下さい 」
一礼して後ろに下がる。
トラ猫が前に出る。
「猫魔導 四天王が一人 トラファルガー イエローライトニング。トラ猫トラフとお呼び下さい 」
一礼して後ろに下がる。
ペルシャ猫が前に出る。
「猫魔導 四天王が一人 ペルシャ猫ペルシャンとお呼び下さい 」
一礼して後ろに下がる。
なんかデカイのが前に出る。
「猫魔導 四天王が一人 ノルウェージャン スゴクカッテルヨ。森林王 ノルとお呼び下さい 」
「森林王? 」
「はっ、森林王ノルとお呼び下さい 」
森林王……なんだ、首回りから胸元にかけての襟毛の風格は、艶やかな毛並みの気品は……
「良かろう。森林王ノル。貴様の森林王の名乗りを、この魔王シーデスが許可しよう 」
「はっ、ありがたき幸せ 」
「猫魔導四天王よ。魔王シーデスの帰還の先導を許可する。案内せよ 」
「ははーっ 」
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猫魔導四天王は左右に分かれて、魔王シーデスの前を進んで行く。
左の前列に黒猫クロス
右の前列に森林王ノル
左の後列にトラ猫トラフ
右の後列にペルシャ猫ペルシャン
そして彼らの後ろから王の貫禄で進んで行く魔王シーデス。
山をぐんぐんと降りて行く5人。
すれ違う者達は、魔王の威厳と猫魔導四天王の迫力に、自然と頭を下げる。
フッフッフ、これぞ魔王の帰還だ。これからはC級魔王なんて呼ばせない。魔王シーデスの伝説の始まりの第一歩だ。
魔王城の城下町の門が見えて来た。多くの人影が見える。皆が出迎えに来たようだ。
魔王の威厳を見せつけて、会長達から実権を取り戻す!!
「気合いを入れるぞ!!四天王!! 」
余は四天王を見渡した。
「疲れたにゃ〜 」
ペルシャ猫ペルシャンが4足歩行に戻る。
「はい? 」
「限界だにゃ〜 」
トラ猫トラフも4足歩行に戻る。
「魔力切れだにゃ〜」
黒猫クロスはフラフラと4足歩行に戻った。
「猫に戻るにゃ〜」
森林王ノルも4足歩行に戻った。
「えーっ!! 」
悪いタイミングでご意見番達が向かって来た。
「よく戻って来てくれた魔王 」
「う、うむ 」
「猫の散歩か? 」
「にゃ〜 」
猫魔導四天王が足元にまとわりついて来る。
「え、え、えーっと……」
「冗談だ。魔王、この世界に生きる者達の未来の為に、お前の力を貸して欲しい 」
ご意見番の後ろに会長や秘書室長、ツーリや猫老師、多くの者達が余を見つめて来る……大きな鯖を持った料理長も居る。
何だ……あの鯖は、いや、今は皆に応える方が先だ。
「わかった。我が命は貴様らに預けよう。
共に戦乱の世を終わらせる為に戦おう 」
「ウオォォオーッ!!! 」
人々から歓声が上がる。
「万歳!魔王!! 」
ツーリが片手を上げて歓声を上げる。
「万歳!魔王シーデス!! 」
人面樹達がシーデスに続く。
「ヨイショっと 」
桜の人面樹のチェリリンが両手を高く上げて、桜の花びらを風に乗せた。
「万歳!魔王!! 」
勇者ミックが片手を突き上げる。
「万歳!魔王シーデス!! 」
皆が声を揃えてミックに続く。
桜の花びらが舞い散る中で、歓声はいつまでも響き渡った。