隠蔽魔法のちょっとした応用
宿場町に着くも何も起こらないことに不思議がっていた。
旅の経験が多い聖女も、こんな事は経験した事がないと言う。
気になってカーテンを引いて窓を開けてから外を覗いてみると、ルイスの馬車を取り囲んでいるはずの護衛達が何やら会議をしているのが見える。
ルイスに何かあったのではと、心配になって外に出て行こうとするも聖女が俺の肩を掴んで制した。
「すみません。こんな事をしている場合ではないかもしれません。行かなければ。」
「そうじゃないの!私も連れて行って欲しいだけなの。・・・でも、私が外に出ると騒ぎになっちゃうかもしれないから、アルヴィちゃんにしている魔法を私にもお願い出来るかなって。」
ここで問答している暇はないかもしれないので、さっさと聖女に隠蔽魔法をかけてしまおう。
合図だけして、一瞬で聖女の全身を見えなくする。
「終わりました。音は漏れるので声は出さないようにしてください。行きましょう。」
「えっ、何も変わってないんだけど・・・。あっ、ちょっと待って!」
何か後ろで言っている聖女を放って外へ出る。足音は聞こえるので、着いてきている事は分かった。
外に出ると、馬に乗る聖女の護衛の1人が俺のそばまで来て、外に出た俺を咎めてきた。
「待て。貴様ひとりでどこへ行こうと言うのか。聖女様と共に車内で待て。」
「少し先頭のルイス殿下の護衛達に話を聞きに行くだけです。私も本来は、あちらですから。」
「・・・ふんっ。すぐに戻れよ。」
聖女の護衛が退いたのを見計らって歩き出す。後ろから聖女の声で何かの呟きが聞こえたが、無視して先を急ぐ。
護衛の1人、クリスが見えたので話を聞いてみる事にした。
「クリスさん!何かあったんですか!」
「おお、コーダか、久しいな。いやな、このまま第一王子を庶民に見せるのはどうかと思っていてな。」
「それは、確かにそうですね。殿下に少し話を聞いてきます。」
「頼む。君の方が適任だ。」
脇に固まる護衛達の脇をすり抜けて、ルイスの馬車へと入る。一応、聖女が後ろにいるらしいので、長めに扉を開けておいた。
扉を閉めてルイスと相対すると、なぜか嬉々とした表情をしていた。
「お、どうした。フォミテリアとの話は終わったか?」
「ええ、こちらはなんとか。それと今の事なんですが、このまま殿下を外に出すのは厳しいかも知れません。」
俺がそう言うと、ルイスの青い瞳が俺を睨む。いざ外に出てみれば、待ちぼうけになってしまうと聞けば誰だってそうだろう。
「それは騒ぎになるとかそう言った事を言っているのか?」
「はい。ですが私に考えがあります。任せてください。」
「そうか。では頼む。」
そう言ったルイスは座っている椅子に深く座り直して、やってみろと言わんばかりの視線を向けてきた。
そのすぐ後、聖女が声を上げたので一悶着あったが、俺はもう別の事を考えていたので適当にあしらっておいた。
◆
隠蔽魔法を思いついた時、もう一つ実践しようと思っていた事がある。
光の反射を使った魔法で、隠蔽出来ないかと言うものだ。
あの時は、全ての光を反射してしまって眩しすぎて扱えたものではなかった。
ただ、隠蔽魔法を使っていくにしたがって、魔法についてのコツのようなものを得たと思う。
何をしたいのかと言うと、光の反射をいじって目に入る光の色を変えようというものだ。
似たような魔法がある事は、ルイスに用意してもらった部屋の本に書いてあったので知っていた。
イメージはそれを利用して、何とかして形にしよう。
そもそも俺の隠蔽魔法は、光を反射させないようにして、視覚的に認識させないようにしているだけだ。
今のルイスの髪色は黄色がかった金色。そこに少し電磁波を強めて隠蔽魔法をかけていく。
すると緑がかったような髪色に変わっていった。
「わぁ、すごいですね。これならすぐに分かりませんね!」
「ちょっと気に入らない色だな。もうちょっと薄くしてくれ。そうだな、目の色と合わしてくれ。」
聖魔法と雷魔法の魔力を調整して、色を合わせていく。10分ほど格闘して、なんとかルイスのお眼鏡にかなう色になったらしい。
「ふぅ・・・、ステータス、魔力・・・。」
【魔力】126/500
大体300くらいは使ったんじゃないか。2種類の魔力で調整するのは、予想以上に重労働のようだ。
「では、外に行きましょう。説明は面倒かもしれませんが、聖女様と一緒なら私の隠蔽魔法も納得してもらえると思います。」
「うん!行こ!私にも今度教えてね、それ!」
「ほぉ、随分と仲良くなったものだな。」
「聖女様がお優しいだけです。」
心にもないお世辞を言って、足早に馬車から出る。
いるはずのない聖女の登場と、ルイスの髪色の変化を説明するのに骨が折れたが、とりあえず昼食をとる準備は出来た。
ルイスにとっては、これが初めての遠出だ。城から出ることも制限されるような立場なんだから、限られた機会を無駄にするような事はしたくない。
まあでもあの色は好きじゃないな、出発する時には戻しておこう。
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