アルヴィの露呈
エルダール領。ネルケルト王国の宰相が領主ではあるが、多忙のためその父が領主を務めている所だ。
他の伯爵領よりも王からの信頼が篤いことで知られている。
実際、王都のすぐそばの領地を治めていて、王都との行き来の中継地点としても賑わっている。
エルダール伯爵家の長男であるユージェステルと養子のユーゴーというのが、今回の旅の目的となるらしい。
聖女とルイスによる交渉によって、国王ロイエルは外出を認め、善は急げと1週間ほどで日程調整がされた。
ルイスは初めての外出のためか、聖女は転生者を求めるためか、両者ともソワソワとしていた。
国王陛下直々に許された外出なので、ルイスを俺1人で世話するわけにもいかず、5人ほどが選抜された。
ルイスが変わったとはいえ、すぐに評判が良くなる訳でもない。基本的には新人で構成され、粗相があっても従者全体に影響が少ない。
護衛も10名ほどが選抜されて、ハンク達やクリスなどのルイスの護衛経験者が主に選抜されていた。
聖女は相変わらず、女性だけの専用従者に守られており、その集団に入るだけでも縮こまってしまう。
そして何故か俺は、ルイスの馬車ではなく聖女の馬車に乗っている。
◆
出発する振動に揺られてよろめき、隣に座る聖女に寄りかかってしまった。
慌てて謝罪をした後、すぐに離れようとすると、俺の右腕を掴んできた。
俺は状況が分からず、口を開けて疑問符を浮かべたような顔を聖女に向ける。
「離れなくていいの。ずっとこうしたかったから。」
「なっ・・・なにを・・・。」
急に恥ずかしくなって馬車の窓に視線を逸らす。
だがそこにはいつの間にか、カーテンがかけられていて外が見えなくなっている。
「私ね、ずっと幸田くんに会いたくて会いたくて、貴方を探していたの。私がこんな聖女なんてものになっているのは、全部幸田くんのおかげなの。」
「俺は・・・何と言われてましても、聖女様とは会った覚えがなくって。」
グッと顔を寄せてきて、赤い瞳で俺を見つめてくる。
その瞳は透き通るように輝いていて、吸い込まれそうで・・・嫌いだ。
「・・・また聖女って言った〜。名前呼んで欲しいな、前の名前でね。ヒントは、ほから始まるよ?」
「名前・・・。ほ・・・。」
見つめてくる瞳から逃れるようにして目を閉じて、考えてみる事にする。
ほ、で思い付くもの。この世界ではない単語。
「あとは、学校、クラスメイト、女の子。どうかな?」
聖女に言われるままに単語を連想していく。
(この部屋は、・・・そうか教室だ。周りにいる人間達は、クラスメイト。)
そこまででその風景は終わる。次に見えたのは、白い空間で誰かの笑顔を見ている。
その笑顔はぎこちないように見えるけど、可愛らしい。
そういえばこの人間の名前は何だっけ。
「・・・ほ、ほう、か。」
「そう!正解だよ、幸田くん!やっぱり幸田くんなんだ!」
俺の呟きを聞いた途端、聖女は俺に覆い被さるようにして抱きついてきた。
反射的にアルヴィを抱きかかえるようにして、身を縮めるも聖女にアルヴィを触れられてしまった。
「触るな!・・・あ、触らないで・・・ください。」
「きゃっ、ご、ごめんね。で、でも・・・今のフニフニしてるの・・・何?」
狭い馬車の中、出来るだけ距離をとろうにもほんの数センチ遠くなっただけだった。
聖女はアルヴィを触った感触を思い出そうとしているのか、手をワキワキとしている。
「俺の・・・大切な人なんです。嬉しい時も苦しい時も一緒に生きてくれた俺の大切な人です。」
「でも、感触はあるけど何で見えないの?」
「誰にも見せたくないと思ったから、死んでも肌身離さず触れ合っていたいと思ったから、です。」
「し、死んでも・・・って。」
この狭い空間だと、聖女と否応なしに会話しなくてはいけない事が最悪に感じる。
「・・・その子の事が好きなんだ。今でもって事だよね?」
「はい。俺がこの世界でここまで生きてこられたのは、アルヴィのおかげなんです。アルヴィがいなかったら、俺は路地の隅み横たわる生ゴミになっていたでしょうから。」
「ふぅん。そのアルヴィって子どういう風だったの?これから長ぁい旅路なんだし聞かせてよ。」
それから俺はアルヴィの事を聖女に話し出した。
馬車の旅の退屈しのぎ程度に始めたつもりだったけど、聞き上手で笑顔を見せてくる聖女に、どんどんと俺の舌は回る。
アルヴィの事を話せる機会なんて、今までに無かったのだから仕方ないのかもしれない。
昼食のために宿場町へ寄った時までには、俺がどう生きてどう依存してきたかすら話してしまっていた。
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