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鑑定魔法


 夕方に差し掛かっていたために、俺とルイスと聖女は場所を変える事にした。

 ここは城内の応接室で、ルイスが利用している事もあってか、自然と人払いのような状況になっている。

 

 俺はルイスの隣に座っている。一悶着あったけど、俺が鑑定魔法ぼ対象でもあることから着席が許されている。



 聖女の護衛は女性だけで構成されているらしく、俺とルイス以外女性という異常な空間だ。

 聖女に従っているようなので、他言無用となっているが大丈夫なのか。


 温室の中で聖女が言っていた鑑定魔法という聞いたことのない魔法。どの属性に含まれているかも分からない未知の魔法だ。


 ただ誰も聞いた訳でもないのに、気分良くペラペラと喋ってくれるのである程度分かってきた。

 ルイスも興味が出てきたようで質問している。


「つまり、鑑定魔法は儀式であって、教会が秘匿している魔法のひとつだと。そう言うのだな?」

「はいっ。私も完璧に扱える訳じゃないので、細かいところまで見えないんですけど。」


「それにしたって脅威になることは変わりない。魔法とは威力さえあればと考えていたが、敵に能力を知られる可能性があるというのは・・・、教会とは厄介だな。」


 ルイスが最後に言った言葉は、周りの空気を一変させるには簡単だった。

 

「何も俺様は教会と敵対しようって訳じゃない。聖国というものを興してまで秘匿するものがあるということか。王が教会をないがしろにしない意味が分かった。」


 ルイスは椅子の背もたれに体を預けて、うんうんと頷いている。

 ルイス以外の人間は、無駄に気を張ってしまったことから妙に疲れたような顔をしていた。



 鑑定魔法は儀式と言っても、簡略化したものなので詠唱だけで良いらしい。

 さっきから目の前で難しい言葉をツラツラと話している聖女は、淡い白の光を纏っていて美しい光景だった。


 その白い光は粒となって俺の体にまとわりついて体に吸い込まれていくように見える。

 体中を光の粒が包み込んでいるけど、どこか温かく、むしろ安心感さえ感じてしまっていた。


「では、行きますよ!アナライズ!」


 俺の体内に入っていた光の粒が飛び出して、目の前にステータスのような文字を作り出していく。

 名前、性別、ジョブ、魔法属性、スキル、状態異常と数値以外の項目が箇条書きで表示された。


【名前】コーダ

【年齢】7

【ジョブ】奉仕人

【魔法属性】雷 闇 聖

【スキル】『毒耐性』『病気耐性』『飢餓耐性』

【状態異常】『記憶障害』『崩壊』


 こっちからは鏡文字になっていて読みづらいけど、自分のなので何となく分かる。


 最近見ていなかったけど、飢餓耐性と崩壊が増えている。腹が減らないなと思っていたらこういう事だったのか。

 崩壊というのは、崩壊魔法のことだろうか。自分で名付けたから恥ずかしい。


 聖女だけではなく、ここにいる全員にも見えているようで、珍しいのか食い入るように見ている。

 

「奉仕人・・・、毒耐性・・・。」


 誰かが呟くように言った。何故そこなんだと思っていると、ふっと光の粒が消えて元の応接室の風景に戻ってしまう。

 もう少しあの空間に浸っていたかったが、周りからの質問でそんなどころではなかった。


「奉仕人?お前何かしたのか?」

「毒耐性ってどういうこと?それに飢餓耐性も。」

「記憶・・・、やっぱり幸田くんなのかな。」


 色んな人が口々に反応を示してくれる。とりあえずルイスの疑問から答える事にした。


「奉仕人になったのは、騎士に捕まったからです。その時は人を殺して逃げられなかったんです。」

「なっ・・・!人をっ!」


 俺がそう言った途端、ルイスは驚いたように口を開け、聖女の周りの護衛は俺から聖女を見えなくなるように取り囲んだ。


「・・・毒耐性飢餓耐性も似たような事です。盗み、殺人なんていくつやったなんて覚えていません。そういう生活だったんです。」

「コーダ、お前は一体どうやって・・・、ここまで来たんだ。」


 ルイスの質問には答えないといけない。今はもう見えない聖女の方をチラリと見て、少し昔話を始めた。



 窓の外が暗く闇に包まれたあたりで俺の話は終わった。最初は反応を返してくれていたルイスも、途中からは顎に手を当てて黙っているだけだった。


 全て包み隠さず話したわけじゃない。この平和な場所で大切に育てられてきた人間達に、外がいかに危険で醜悪なのかを説明しただけだ。



 聖女が〈ヴォーガ〉を訪れたと聞いて、俺は疑問だった事がある。


 あんなに持て囃され守られている聖女に、汚物のような川や路上で倒れている人間を見せるはずがない。

 屈強な自警団に守られて安全地帯を回っただけじゃないのかと、そう思っていた。


 そしてそれは真実だったようで、俺の話が終わっても何も反応を返さないのが証明だった。


「もう夜ですから夕食を食べましょう。聖女様の分もご用意されているはずですよ。ここへ持ってくるように頼んできます。」


 俺は立ち上がり、ルイス達に背を向け歩き出す。


「・・・俺様はいらん。今日はもう・・・。」

「食べてください。あなた達が平和に暮らしていけるのは、汚い世界と切り離されているからです。

 あなた達が口にする食べ物も、色々な人間を巡っているでしょう。その中には今日の食事さえままならない人間も。

 だから、あなた達のような人の上に立つ人間は、もっとこの平和を大切にして欲しい。・・・()はそう思います。」


 そう言ったあと外に出て扉を閉めて立ち尽くす。手は、いつの間にか痛むくらいに強く握られていた。



 俺はこの生まれを後悔した事がある。でも今はそれで良かったと思ってきている。

 出会いと別れ、悲しい事も多かったけど、この不自由な箱庭で生きていくよりは断然良い。


 柔らかい絨毯を踏みしめて、ひとつ溜め息をついて歩き出した。

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