記憶
レティシアと別れたあと、本日3度目となる温室を訪れる。警備員に聞くと、既に昼食は終わったようで中でお茶会を再開しているようだった。
(今の感じだとするとあと1時間で夕方かな。今行ったところで面倒になるだけだし、暇つぶしでもしよう。)
温室は庭園の中にある事もあって、休憩スペースがチラホラある。
先ほど座っていたような木陰に移動したあと、手の中で魔法をいじる。
今、俺の使える魔法は遠距離に弱い。雷魔法も闇魔法も、中距離程度の範囲しかない。
魔法という性質上、自分の視野の中なら制限がない。
風魔法はとくに厄介で、不可視であるがゆえに使用者を見つけにくい。見つけたとしても遠方にいる事が多く、そもそもの解決にならない。
それなら俺からも長距離攻撃が可能なら脅威の抑制にもなるかもしれない。
そしてその魔法のきっかけは既に俺の中にある。
磁力を使って物体を撃ち出す方法だ。威力は実証済み、方法も簡単だ。
今までは材料の調達が問題だったけど、ここで住むようになってからそれが解決した。
護衛になったとはいえ、基本的には魔法中心なので見た目で威嚇する事ができない。そういう事もあってか、騎士団から鉄の剣が支給された。
俺のような新参者にも鉄の剣が行き渡るのだから、ここには余っているのだろう。
細工を施したナイフや細かい鉄塊も、ルイスの権力を笠に着て作成してもらったので、当面は困る事は無くなった。
重さも魔法を補助にすれば無視できるので、後は実践だけ。
(こんな兵器みたいなもの、使えるタイミングが来て欲しくないけどね。)
服のポケットから3cmほどの鉄のカケラを取り出す。
手袋の下には、刃を潰して刀身に溝を掘ったナイフを入れていて、鍔の部分が鉄で雷魔法を流すことで電磁石になる。
手を前方にかざしてナイフの溝に鉄のカケラを置いて、鍔を挟んで反対側にも鉄塊を置く。
人に向けるのは危ないので、庭園の木に向けて雷魔法を発動する。
鍔の部分が電磁石になって、鉄塊が勢いよく鍔に引き寄せられる。
ガチンッと金属を打ち合わせる音が聞こえたかと思うと、前方の木の幹に風穴を開けて衝撃でひしゃげた鉄のカケラが地面にめり込んでいた。
人間の柔らかい皮膚などひとたまりもないような威力に、使わない時が来ない事を祈って穴の空いた木に回復魔法をかけた。
◆
しばらく時間をつぶした後、ルイスを迎えに行く事にした。外に待機していた他の護衛もソワソワとしているので、先に迎えにいかさせてもらおう。
レティシアと話したおかげか、最初に温室へ入った時より気分が軽い。今なら聖女とも普通に話せそうだと足並み軽やかに進んでいく。
温室の中央部へ足を踏み入れると、シータイトとセレスティアルは既におらず、何故か聖女とルイスだけが残っていた。
そんな2人の間に割って入るようにして話しかける。
「ルイス殿下、お迎えにあがりました。・・・それと聖女様、先ほどは失礼をしまして申し訳ありませんでした。」
「来たか、コーダ。お前を待っていたのだ。この女の言うことが本当かどうか俺様も知りたくなってな。」
あの小さい騒動で機嫌を損ねたかと思っていたけど、割と普通でよかった。
聖女の方を見ても、顔を伏せていて分からないけど、強引な感じは見られない。
「別に構いませんよ。痛いのは嫌ですけどね。」
「あっ、いえ。さ、さっきはごめんなさい!ずっと探していた人なんじゃないかって舞いあがっちゃって。」
「それで、どうやってコーダがお前の言う転生者かを見極めるんだ?」
ルイスがそう聖女に尋ねると何故か嬉々とした表情で、テーブルに身を乗り出すようにしてこう言った。
「鑑定魔法を使います!」
聞き馴染みのない魔法に俺とルイスは首を傾げてポカンとしてしまった。
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