殺人集団
一悶着あった夕食を終えた後は、風呂と就寝だけのようだった。一緒に風呂に入るわけにも行かないので、扉越しに待機している。
(しかし、食べ物に毒とは。今日だけって事でもないだろうし、機会があったらルイスの体を調べてみるか。)
ルイスの敵は本当に周囲の人間だった。それは嘘偽りなく、全てがルイスを排除する動きだ。
ルイスだって惨たらしく殺されるために生まれた訳じゃないだろう。弟を筆頭にした殺人集団は、自らの行いを正当化しそれが正義なのだと疑いを持っていない。
これは俺が生まれた国の中枢で行われている事だというのが異常だ。
この異常性に気付けないのだから、〈ヴォーガ〉のような掃き溜めが生まれるのも当然かもしれない。
ルイスが風呂から上がり、私室のベッドで目を閉じようとしている時、俺はルイスの体を探っていた。
簡単な回復魔法だからと言って全身に魔力を浸透させる。
体全体に薄く広げてみる感じで探っていくと、内臓あたりが傷ついているように感じた。
ただの傷ではない事は分かるが、どう治すかが分からない。
とりあえず炎症を抑えるために患部に回復魔法をかけてから、ルイスには寝てもらった。
暗殺、そんなことが起きるということは考えにくいが、出入り口に静電気ほどの威力の罠を仕掛けて回る。
寝室にトイレがあるようなので、ルイスには出来るだけ影響がないように配置するのが難しい。
一応、ルイスの寝室を出る前に隠蔽魔法を自分にかけて寝室を出ていく。リビングにも罠を仕掛けてから部屋の外へ出て、この屋敷の探検へ繰り出した。
◆
夜といっても、まだ20時くらいかな。外灯は〈ジュマード〉のような宿場町よりも少ないので、夜が早いのだろうか。
王族の住居だと聞いているので、バタバタとうるさい音が聞こえないのが余計に不気味さを醸し出している。
目的の場所は2階にはなかったので階下に降りて、いくつか角を曲がっていくと俺が目指していた目的地が見えてきた。
明かりが漏れているそこは、従者用の食堂だった。
中を覗いてみると、何十人もの従者らしき者達が椅子に腰掛けて食事をしているのが見える。そしてその中には、ルイスに配膳をしていた執事の顔も確認出来た。
体を滑り込ませて近くまで忍び寄り、物陰から話を聞くことにした。
「そんであの王子に入れたんだろ?アレ。」
「ああ。今日はいつもと違って子供を連れていてな。毒見係にでもしていたんだろうけど、そいつにバレた。」
「ぅおい!マジか!」
結構な声量で話しているところから見て、この会話の内容は日常なのだろうな。
「でもあの子供は俺に警告してきたくらいで、特に何かした訳じゃない。意外とこちら側なのかもしれんな。」
「はぁ〜。そんで、どういう子供なんだ?」
「・・・普通だな。目の色が金色っぽいくらいでそれ以外は普通だ。」
それからは違う話になっていたので、抜け出せる時を見計らって退散した。
あと気になるのは弟のシータイトくらいか。王族の住居なんだからシータイトもここにいるんだろう。
玄関を基準にルイスの部屋とは反対側を目指して、適当な部屋を覗きながら歩いてみる。
歩き進めるにつれて、こっち側はルイスの部屋の周辺と静寂の少し違うように感じた。
ルイスの周りには人っ子ひとりいないような寒さすら感じる。でもここは人が息を殺して、出来るだけ静かにしているような温かい気遣いが感じられる。
どちらが世間から愛されているのかが、肌を通してヒシヒシと伝わってくるのが気持ち悪い。
この差別のような状況が嫌になって踵を返そうとすると、廊下の先から誰かが歩いて来ているのが分かった。
壁際に置いてある花台に体を寄せて、息を殺して通るのを眺める。
「やっぱりシータイト様はすごいわね。聖女様を婚約者にするみたいよ。」
「おめでたいわぁ!本当ならこの国がもっともっと発展するわね!」
聖女とシータイト、か。俺もお似合いだと思う。
気に食わない奴同士がくっつくなら、これ以上はないな。
目の前の女達をやり過ごしてから、出来るだけ音を立てないように帰路についた。
◆
ルイスが用意してくれた部屋は物置きだったはずだが、中に入ってみると意外にも広かった。
本が山のように積まれていて物置きではあるけど、〈ジュマード〉で泊まっていた部屋くらいの広さがある。
金持ちの感覚は分からないなと、先ほど持ち込まれたベッドにアルヴィを寝かせた。
(今日は一日大変だった。今までで一番忙しい日だったろう。)
朝に研究所を出た時は、まさか第一王子に気に入られて、王族の住居に住まわせてもらえるなんて思わなかった。
この国の底辺であるスラムで生まれた人間が、王都に住んでいる事自体が稀だろう。
柔らかいアルヴィの体を自分の顔に抱き寄せて横になる。この体に包まれている時は平和にいられる。
俺は今日の忙しさなど忘れて、幸せな気分のまま眠りについた。
次回から第二章に入ります。
また、三日ほど更新停止します。(書き溜めが追いついていないので。申し訳ありません。)
もし気に入っていただけましたら、感想・評価・ブクマよろしくお願いします!




