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不思議な少年

遅くなりました。


視点が変わって、シータイトの従者の女性視点です。


 最近、ルイス様が小さな怪我をしておられると担当の侍女から聞いた事がある。

 服を召す時や湯浴みをされる時などは、肌を見る機会がありそこで切り傷が目立つそう。

 

 それがある湯浴みの時、綺麗さっぱり無くなっていたそうだ。ルイス様も気付いておられなかったようで、侍女とともに大層驚かれていたとか。


 何故かルイス様は心当たりがあるらしく、そこで大きな声で笑われたらしい。そういう時は、何かよからぬ事を考えているに違いない。

 また何か大きな事件でも起きそうだと、本邸に勤める従者達は戦々恐々としてしまっていた。



 私の名前はヘレン。シータイト様がまだ満足にお歩きできない頃から御側付きを任されている。乳母のヒルデと私の同僚のノーラとともにシータイト様のお世話をさせて頂いている。


 最初、側室の子という境遇からあまり良い扱いは受けていなかったシータイト様は、言葉を発すると間もなく類い稀なる才能を周囲に見せつけていらっしゃった。


 私達のような専属の侍女でさえ、周りからの評価がガラリと変わった。


 ルイス様の態度が酷くなったのもそのあたり。

 第一王子と第二王子を取り巻く力関係が変わったのもそのあたりになる。



 今日はシータイト様のお世話を任されている。ルイス様が好き放題に振る舞われるようになってから、シータイト様のお世話係が異常に増えた。

 

 血統至上主義の人達は、従者の中には少ない。正室だとか側室だとかで差別するよりも、優秀かどうかで判断する方が自分達のためになるから。


 将来的に稀代の傑物になってしまいそうな方のお側を選ぶのは、普通の人なら当然だと思う。

 初期の頃から御側付きである私とヘレンの2人は、最近配属になった者達の上司という立場で、交代制でシータイト様のお世話をする事になっている。


 

 今日はいつものように勉学と魔法の授業があり、私は他の従者とともにそれに同行する予定となっている。


 朝、シータイト様のお世話をしてから、本邸から王城へ向かう。

 シータイト様は勉学など学ばなくても良さそうな方ではあるが、講師のお立場などを考えられ講義を受けているのだそうだ。


 品行方正なお方であるからこそ、このような崇高なお考えに至ってしまうのかしら。


 テラスでお昼を頂いてから人心地ついている時、物憂げな表情で階下の屋外訓練場を見ていらっしゃった。

 我が国の兵士が気になるのか、模擬戦を食い入るように見つめておられた。


 私からはよく聞こえなかったが何かを呟いたあと、軽やかにヒョイっと椅子から降りたあと、次の訓練に行くということらしい。


 シータイト様は、珍しく何かご機嫌な様子だったのが気にかかってしまった。



 王城とは言っても、国の重要施設が集中している場所という事もあって、人の出入りが割とある。

 植物園や魔法研究所、練兵場までもが同じ敷地内にあるものだから仕方ないことではある。


 王族の方々には、特別に施設が用意されており、特に訓練場などは外部から閉ざされた場所にある。

 当然、ここに入れるのは関係者のみで一般人が立ち入ることは許されない。

 その訓練場に入る直前、シータイト様から私にお願い事をされた。


「中にお兄様がいるはずだ。それはいいんだけど、護衛の中に新顔がいるはずなんだ。少し探っておいてくれないかい?」


 わざわざ私に直接かけて下さった言葉に一も二もなく頷く。


(このヘレン、必ずやシータイト様の命を遂行してみせます。)



 訓練場に入ると、シータイト様の予想通り先客がおられた。こちらを睨んでいるような目つきに軽く会釈をして新顔(・・)を探す。

 恭しくも傅いている集団の中に、明らかに異質な人間がいた。


 腕につけている青い布や護衛と同じ場所にいる事から、ここに立ち入れる人間であることは分かる。

 だがその背格好は小さく、まるで子供のようなあどけなさが残る、金色の目をした人間がいた。



 シータイト様が魔法の訓練をお始めになられたのを見計らって、目的の人間に近づいた。

 近くでみると、やはり小さい。子供のようというより子供だと断言出来る。


「あなた、見ない顔ね。どこの子供が紛れ込んだのかしら。」

「・・・今日付けでルイス殿下の護衛になりました、コーダです。以後お見知り置きを。」


 ルイス様もついにおかしくなられてしまったのか、そう思ってしまうような言葉を聞いて目の前の少年の情報を探る。

 見た目は悪くない。どこにでもいる普通の顔だが、その普通さが余計に金色の瞳を異質なものにしている。


 背丈は私の胸ほど、腕や脚は特別太いわけではない。服装は平民街の少年といった印象で、どこぞの街で攫ってきたのでは、と邪推してしまうほど瞳の色以外は普通の少年だ。


「ルイス様も物好きね。自分より弱い者がお好きだからって、子供を護衛にするなんて。」

「・・・そうですね。殿下はどういうお考えなのでしょうね。」


 まだ時間はあるかしら。もっと聞いてしまわないと。


「あなた、いくつなの?お母さんやお父さんと離れて寂しいのじゃない?私で良ければお話しましょうよ。」

「俺は7歳ですね、・・・多分。あと寂しいとかはないですよ。殿下は良くしてくれています。」


 不敬にもシータイト様と同年なのね。ルイス様が良くしてくれるっていうのも想像できないし何か隠しているわね。


「あら、シータイト様と同い年って事ね!良かったわね、友達に自慢出来るんじゃない?」

「・・・友達はいませんし、シータイト様もよく知らないので。」


 面白味のない子供、そんな印象を抱いてしまう。特別な少年と思えないし、まさかルイス様って男色なのかしら。


 でもさすがにルイス様と言えども、この推測は失礼ね。

 ルイス様には勿体ないほど綺麗な婚約者もいらっしゃるから。仲良しというわけではないけど。



 そんなことを言っていると、ルイス様が動き出すのが見えた。

 この少年もそれに気づいて他の護衛とともに周りを固めるのかと思いきや、ルイス様のすぐ傍に控えて小さい声で言葉を交わしていた。


「えっ?まさか、そういうことなの?」


 思いもよらない展開に声が出てしまって、慌てて口を押さえて取り繕う。ルイス様が目の前を歩いていくので、少し頭を下げて少年の様子を探る。


 明らかに扱いが違う。他の護衛達は距離をとっているけど、少年とルイス様の距離は手を伸ばせば触れ合えるほど。

 私は顔が強張ってしまって直視する事が出来ない。



 シータイト様からのお願いは、何とかなったかも知れないけど、でもこの疑惑は報告するのはよそう。


 とりあえずノーラにでも相談してしまわないと、私が抱える秘密にしては重荷すぎる。

 私のその葛藤は、シータイト様から声をかけられるまで続いてしまった。

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