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異常者


 訓練場に着いた後は、ルイスの2mほど後ろの壁際にハンク達と並んで立っている。


 ルイスとともに俺が訓練場に入った時、講師から怪訝な顔をされた事もあって、青い布を左腕に巻く事になった。


 ハンク達も紋章が入った青いタグを、見える所につけているみたいで、関係者の証みたいなものなのかな。

 正式な物はしばらくかかるそうで、とりあえずはこの辺りにあった布で代用するようだ。



 俺は闇魔法で抱えているアルヴィの頭を撫でながらルイスに注目していた。

 ここは闘技場のような場所で、ルイスの立っているところから10mほど先に鎧をまとったカカシが置いてある。

 そのカカシに向かって、教官の言う火柱が上がるような魔法を当てているようだ。

 

 ルイスは何か、呪文のようなものを唱えてから魔法を発動しているように見える。

 そう言えば以前にも魔法使いと戦った事があったっけ。そうだ・・・あれはアルヴィの。


(アルヴィを殺した。殺された。魔法で殺された。土の槍で・・・串刺しに。)


 あのシーンを思い出すと、ワナワナと怒りが込み上げてくる。あの時、出会った瞬間に殺しておけば、ああはならなかったのに。

 そう憤りを感じていると、不意に肩を叩かれて我に返った。


「おい、大丈夫かコーダ。多分お前の魔法だろ?周りがバチバチとしてて危ないぞ。」


 肩を叩いてきたのはゴーガンだった。そのゴーガンは、顔に汗をかいていて焦っているように見える。

 周りに張っていた電磁波を無意識に強くしていたのか。


 先ほどのように薄くするように意識してから周りを見ると、誰も彼も明らかに俺から距離をとっている。

 ゴーガンだけが俺のそばにいるが、怯えているような顔をしている。


 ルイスの方へは影響はなかったみたいだが、何かあったのかと怪訝な表情をしているように見えた。


「申し訳ありません。少し強度を上げようとしたら思いの外つよくなってしまって。」


 俺がそう言うと、ルイスは再び魔法の訓練に戻った。


 いけないいけない。確かにアルヴィを殺した奴は憎いけどもうこの世にはいないんだ。

 胸に抱くアルヴィのお腹辺りに顔を寄せて、深呼吸をする。・・・はぁ、癒される。


「・・・コーダ、急にどうしたんだ。ちょっとおかしいぞ。」

「別にいつもこんなものですよ?さっきのも少し暴発してしまっただけですから。」


 ゴーガンの質問にアルヴィのお腹を自分の頬でプニプニと感じながら返答をする。

 ゴーガンは俺の言葉を聞いたあと、眉間にシワを寄せながら、ハンク達がいるところまで戻っていった。


(アルヴィを知らない人間は可哀想だな。知らせてやるつもりも無いけど。)


 護衛達は何かをヒソヒソと話しているようだ。俺はそんなことは気にしない。

 俺はアルヴィを独占している様を見せつけるようにして、一応の仕事であるルイスを見守っていた。



 小さな静電気が起きた時のような感覚を右方向から感じ取った俺は、反射的にその方向へ首を振る。

 訓練場の入り口であるドアが、外側から開かれるのは目視した時と同時だった。


 メイド服の女性達数人を伴って入ってきたのは、薄銀色の髪の毛をした俺ほどの少年だった。

 その少年からは、ピリピリとした違和感を覚えてしまうものの、見た途端に自分の頭を誰かの手で抑えられ強引に座らされた。


 俺の頭を掴んで押さえつけているのは、護衛の中でも一番体の大きいデュアルだった。

 この雰囲気は覚えがある。ルイスが第一王子として研究所に来た時、ウィルが俺の服の裾を持っていた時の雰囲気だ。



 目の前の入り口付近に見える薄銀色の少年は、俺達に一瞥もくれずにルイスの方へ歩いてくる。

 一歩歩くごとに、電磁波で作った領域を押し広げてくる感覚からは、気持ち悪ささえ感じてしまっていた。


「おい、俺様の護衛ども。いくら王族とはいえ、いちいち(かしず)かんでいい。」

「おや、珍しく意見が合いますね。・・・僕も許可します。普通にしてください。」


 ルイスと少年の言葉を聞いて、体勢を戻し背筋を伸ばす。

 俺が普通の体勢になる頃には、目の前の2人の距離は互いに手の届く距離にまで近づいていた。


「何のようだ。シータイト。」

「いえ、僕も魔法の訓練に来ただけですよ?ともに励みましょう。」


 シータイトと呼ばれた薄銀色の少年は、握手のためか手を差し出してルイスに笑いかけている。


 ルイスはちらりとその手を見たかと思うと、無視して別のカカシの前に立ち魔法を使う準備をしていた。

 シータイトは肩をすくめた後、従者に上着を預けて魔法の訓練を始めていた。


(シータイト・・・。そう言えばルイスが言っていた、命を狙っている奴ってそんな名前だったよな。)


 そう気づいたあとにシータイトを観察してみても、特に変わった様子はない。

 ルイスの火魔法と違い、シータイトは風の刃をもって鎧ごとカカシを切り裂いている。 

 あの時の傷は、打撲のような打身ではなかったことからも風魔法を使うシータイトは疑ってしまう。



 そんな事を考えながらシータイトをジッと見ていると、隣に来ていたシータイトのお付きのメイド服の従者が寄ってきていた。


「あなた、見ない顔ね。どこの子供が紛れ込んだのかしら。」

「・・・今日付けでルイス殿下の護衛になりました、コーダです。以後お見知り置きを。」


「コーダ君ね?ルイス様も何を考えておられるのでしょう。こんな子供を護衛だなんて。」


 その後もその従者からは、何度も聞いたような、ルイスが横暴だとか暴虐だとか、正直言って聞き飽きたセリフを適当に聞き流す。

 十中八九シータイトのための探りだろうと、当たり障りのない言葉だけで対応していった。



 しかし、ここまで嫌われているのも異様だな。シータイトが余程優秀なのか知らないけど、この雰囲気に呑まれてしまうのは気持ち悪いと感じてしまう。


 後ろ姿しか見えないシータイトからは、見ないでも分かるような自信満々な表情をしているのだろう。

 一体何が愉快なのか知らないけど、ルイスの方がまだ人間味があるような気がする。

 俺は隣から質問される事に適当に答えながら、その少し退屈な時間を過ごしていた。

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