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護衛任務

最後の方で視点変更があります。


 馬車に乗り込んだ後、向かい合わせの座席に座るとルイスがこっちを見ていた。

 毅然とした表情に強い目、そんな誰も寄せ付けないルイスには、なぜか柔らかいような不思議な雰囲気を感じた。


「立っていると危ないからな。そっちの席にでも座っておけ。だが気は抜くなよ、いつでも守れるようにしておけ。」

「はい、仰せのままに。」


 ルイスの言う通りに向かい合わせの席に腰をかける。慣れないフカフカの椅子に落ち着かないけど、俺が座るのに見計らって馬車のドアが閉められる。

 

「ふう。大人相手は疲れる。お前がいて僥倖であった。」

「それは恐悦至極にございます。」


「くくくっ、2人の時は敬語はいらん。昨日はそうではなかっただろ?」


 まさか敬語がいらないと言われるとは思いもよらなかった。慌てて取り繕って、出来るだけ失礼のないように、崩した言葉を選んで喋る。


「あ、ああ。こ、これでいいかな?」

「構わん。そもそもお前には助けられたのだ。ふんぞり返ってもいいくらいだ。」


 この王子はどういう人間なんだろう。評判は最悪だけど、話してみると普通っぽいんだけどな。


「そういうのはないよ。でもどうしてあの時あんなケガを?護衛がいるはずでしょ?」


 俺がそう言うとルイスは押し黙ってしまった。地雷を踏んでしまったかと思い、内心焦っていると馬車が動き出すのが分かった。

 それを合図にしてなのか、ルイスは口を開いた。


「・・・最近、弟に命を狙われているのだ。」


 全く予想もしていなかった言葉が、ルイスの口から飛び出した。



 ルイスが言うには、つい数カ月前、自分の婚約者が公爵家の長女に決まった辺りから異変を感じたらしい。


 最初は、壁が剥がれ落ちたり昨日まで無かった穴に落ちかけたりと、不運が重なる程度だったらしい。

 護衛を増やして事なきを得ていたようだが、訓練や勉学などの、近くを護衛で固められない時を狙われるようになったとか。


「それだけじゃ弟がやったって言えないんじゃないの?」

「まぁ、確かにそうだが。昔からシータイトとは、目が合えばムカついて暴力も暴言も当たり前だったからな。仕返しされてるんだと思ってたんだがな。」


 なんだ、いじめっ子が仕返しされてる構図だったのか。今のルイスの性格も傲慢さが滲み出てるし、小さい頃は苛烈だったろうな。


 そう思ってルイスの顔を見てみると、眉間にシワを寄せているようだった。


「最近のシータイトの顔は、何だか怖い。姉達に見せているような、あどけなさなんて微塵にも感じさせないほどだ。

 オレはいつかあいつに殺されてしまうんだと、夜など安心して寝付けんのだ。」


 いくら傲慢で傍若無人だとしてもこの人も人間か。自業自得と言ってもいいけど、少し可哀想になってきた。


 それはそんな悲しそうにアルヴィと同じ色の目を歪ませているから、俺の心が反応してしまったのかもしれない。


「分かった。君を守るよ。俺達は君の護衛だし、君はこの国で失ってはいけない存在だもんね。」

「そうか・・・。ではお手並み拝見ということでいいのだな?」


「任せて、今度は絶対に失敗しない。」

「今度?・・・まあいいが、普通の護衛では来られないような所も来てもらうぞ。」


 俺はルイスの言葉に頷いた。もう誰も死なせない。死んだら言葉をかけてもらう事も、抱きしめてもらうこともなくなる。

 俺は不思議そうに見つめるルイス王子を見返しながら、胸に抱くアルヴィの頭を撫でていた。



 王城に着いたあと、俺とルイスはともに城内へ入った。

 ハンク達も後方から付いてきているが、1、2mほど遠くにいるようだ。


 俺はルイスの1歩斜め後ろにいることを許されているが、本来は近づくことさえ無礼とされている。

 最初、俺がおかしな位置にいる事を咎めようとしたデュアルが、ルイスに警告を受けていた。


(今は俺が余計なことをして、ルイスを怒らせないか危惧しているのかな。)

 


 護衛達には悪いが、俺は雷魔法を薄く広げて簡易な結界を作っている。

 研究所にいたころに、部屋の外の状況を把握するのに考え出した方法だ。


 目に見えない電磁波を辿って、侵入した存在を探知するものだ。

 人間や動物にはもちろんのこと、魔法も空間に干渉する以上、避けては通れない。俺はそれをソナーのように使って、事前に脅威を察知できるようになった。


 今日は、勉学の講義を受けたあと王族専用の屋内訓練場で魔法の訓練をするらしい。何かをやるとすれば、そこだ。


 案の定、講義中は侵入者はいなかった。ルイスに聞いても、ケガをしている様子もなく次の訓練へ向かうようだ。



 外を見れるように、大きく間隔の空いた柱が並ぶ廊下を歩いていた時のこと。

 外に面している方から、ザワザワと木々の葉が擦れ合うような強い風が吹いている。


 ちょうど庭に差し掛かったころ、それは起きた。


 廊下から見える外には緑が生い茂っていて自然の防壁で区切られているものの、すぐ横には屋外訓練場になっている。

 そこの訓練場で騎士達が剣戟を繰り返しているときに、何故かこっちに刃の破片が飛んできた。


 激しい剣戟を打ち合わせているのだから、破片くらい飛ぶのは分かる。

 だがその破片は、まるで指向性を持ったかのように、一直線にこっちへ向かってきていた。


 感覚的にそう感じ取った俺は、電磁波によって場所を割り出し、高威力の雷魔法をぶつける。


 バチチィッと音がしたのを聞いて、護衛達が駆け寄ってくる。なるほど、これは厄介だ。


「何があった!殿下ご無事で!?」


 襲撃から数瞬あとに駆け寄ってきていた護衛達を見て、あの日ルイスがケガだらけでいたのが何故か理解するのに時間はかからなかった。


「少しゴミが飛んできていましたので、撃ち落としただけです。行きましょう殿下。」


 俺は、いまだ状況が掴めなさそうなルイスを手で誘導して、この場を去る事にする。

 護衛達は訳が分からないといった表情ではあったが、ルイスから離れる訳にはいかないのか首を傾げながらついてきていた。



 屋外訓練場を階下に臨むテラスに、ひとり椅子に腰掛けて、紅茶をたしなむ薄銀色の髪をした少年がいた。

 その少年は、自分がしたイタズラが初めて失敗したことに笑みをこぼしていた。


「ふうん、けっこう腕の立つ護衛を捕まえたじゃないか。今度はあの顔に傷を作ってやろうと思ったのに。」


 そばにいる侍女が不思議そうな顔をするも、何でもないと手を振って誤魔化す。

 紅茶を飲み干した後、組んでいた足を戻して立ち上がった。


「じゃあ僕も次の授業に行こうかな。次は魔法の訓練だったよね?楽しみだなあ。」


 周囲の人には好意的にとられる仕草は、得てして本人が狙ってやっている事なのだ。

 少年は嬉々とした表情を浮かべて、意気揚々といったように歩みを進めた。

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