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この国の第一王子


 クリスとともに馬から降りて、堅牢な門から建物の敷地内に入る。屋敷の壁は白く装飾も煌びやかで、とても気の休まるような場所ではない。

 今まで見たどの建物よりも大きく広い場所に、自分がひどく場違いに思ってしまう。


 外からは壁に見えた砦の中の厩舎に馬を預けて、クリスに玄関前へ案内される。

 昨日、ルイスのそばにいた護衛もいて、俺達が最後のようだった。


「本当に来たのか・・・。殿下のワガママにも困ったもんだ。」

「まあまあ。聞かれたら酷いことになるぞ、ハンク。」


 ハンクと呼ばれた人は両手をヒラヒラと掲げて、おどけてみせる。

 クリスは俺の肩を叩いて、俺に自己紹介を促した。


「俺はコーダって言います。魔法が使えるんでルイス殿下の治療をしたことがあります。これからよろしくお願いします。」

「おう!よろしくな、コーダ。俺はハンクだ。そこのヒョロ長いのがアントニー、ゴツいのがデュアル、一番チビがゴーガンだ。」


 ハンクがそれぞれに指差して紹介してくれる。ゴーガンが一番小さいという割に、170cmくらいあるから基準が分からない。

 一番大きいデュアルは2m超えているんじゃないかと思うほどに大きい。

 俺の記憶では、ガスティマ並みに恰幅も良いし、さぞ力自慢なんだろう。


「おいハンク、一番チビは今日から俺じゃなくなるぞ。コーダじゃ当分抜かれないだろうから安心だ。」

「そういやそうだな。・・・コーダ、辛いこともあるかも知れんが、気にすんなよ。なんとかフォローしてやっから。」


「はい、ありがとうございます。でも俺は大丈夫なので無理しないでください。」


 ハンクは騎士だけあって気遣いができる人みたいだ。しかしそこまで心配されるほどの人物なのか、ルイスって。


「では俺は騎士舎に戻るからな。コーダ、元気でやれよ。」

「はい、ここまでありがとうございました。クリスさん。」

 

 クリスはそう言うと馬を預けた厩舎へ戻っていった。残された俺はハンク達がいる場所へ混ざる。

 これからどうするんだろ。


「えーっと、ハンクさん。今ってどういう状況ですか?」

「今は待機ってやつだな。俺らはルイス殿下が外出する時の護衛だ。この住居の中では別の従者にお世話されてるぜ。伝令が来るまではここに整列しとくって決まりだ。」


 ハンクに聞いてみて正解だった。でもそうならヒマすぎるな。


 ハンクに礼を言った後、手すさびに手の中で魔法をいじくっていると、隣にいたアントニーが声をかけてきていた。


「コーダ、君はどういう魔法を使うんだ?さっきそんな事を言ってたよな?」

「俺が使えるのは、雷と闇と聖です。研究所にいた時は、闇魔法ばっかり使ってましたけど。」


「3属性か!そりゃあすごいな!」


 右手の中に、小さな雷と闇と聖属性の球を並べてアントニーに見せる。

 するとアントニーは目を見開いて驚きの表情を作っていた。 


 当然、研究所でも多くて2種類ってことを言われた事があるから、普通の人には珍しいだろうな。


 この3属性の同時使用も研究所にいた時に習得したものだ。

 あそこは魔法研究に力を入れていて、この王都の魔法使いの戦力の底上げに重きを置いているらしい。


(俺の魔法の性質も破壊向きだし、崩壊魔法の実用化に躍起になっていたけど、結果はどうなったんだろう。)



 そんなことを考えていると、アントニーさんが他の3人を指差して話しかけてきた。


「ちなみに俺の使えるのは火属性だな。ハンクは土で、ゴーガンは水だ。デュアルは平民上がりだから魔法は使えないが、馬鹿力だよ。」

「へぇ、魔法使える人って珍しいと思ってました。」


 どこかで聞いた話では、魔法は貴族の証とかなんとか。意外と魔法使い人口って多いんだ。


「貴族ならみんな使えるからな。子沢山になる貴族も多いんで、家督を継げない奴は冒険者や騎士になるんだ。王都にいる騎士の大半は貴族になるな。」

「騎士に?・・・貴族やめちゃったんですか?」

 

「いや、下っ端の騎士は家名があるだけの人が多いな。だが騎士舎で暮らしているし、扱いは平民と大して変わんないだろうな。ちゃんとした貴族やってんのは団長くらいの地位の人だけかな。」


 意外なことに、平民と貴族が同じ屋根の下で暮らしているらしい。

 王都だから騎士の質が高いのだろうけど、貴族が従者みたいなことするんだな。


 その後もアントニーや他の3人とも会話をしてヒマな時間を潰した。

 その会話の中で分かった事がある。この護衛というのは仲間意識が強いらしい。

 強大な権力者の気紛れで、人生が左右されるのだから当然かもしれない。



 あれから1時間ほど外で待機していると、屋敷の中から20代くらいの若い女が歩いてきた。

 ハンク達とは顔馴染みのようで、軽い挨拶を交わして何かを話している。


 俺はその輪に交わらず遠目から眺めているだけだったが、時折、こっちを気にする素振りを見せていたので紹介はされていたのだろう。

 数十秒の事だったが、要件を伝え終えたのか再び屋敷に戻っていった。


 ハンク達が玄関前へ整列し始めたので、それに(なら)いながら傍にいたアントニーに質問をした。


「ルイス殿下が出掛けるんですか?」

「そうみたいだな。城までの短い距離だがね。」


 周りではバタバタと人間が走り回っている。周りを囲む砦から馬車も出てきている。


(出掛けるだけで一大事すぎるだろう。なんかすごい人すぎて訳が分かんないな。)


 玄関から赤い絨毯のようなものを馬車の乗降口まで敷いて、その周囲を囲うように護衛が並ぶ。

 あらかた準備が整ったのか、従者や護衛達が最敬礼をして頭を下げるので、俺も同じようにして待つ。



 その後、玄関のドアが開かれ、静寂の中ルイスの靴が絨毯の上を歩く景色だけを眺める。

 ルイスが馬車の乗降口に足をかけた時に、こっちを向くのがなんとなく分かった。


 周りの従者達も、その普通ではなさそうな状況に生唾を飲む者までいるようだった。


「被験体、今日はお前が俺様とともに乗れ。大人に囲まれているといい加減うざったい。」

「・・・はい。承知いたしました。」


 俺が頭を下げながら答えたあと、ルイスはカツカツと靴音を鳴らして馬車へ入っていくのを黙って見送る。

 完全にルイスがいなくなったころを見計らって、バッと顔を上げて周囲の人間の反応を探ってみる。


 誰を見ても頷くばかりで、従うしかないのだと直感的に悟る。

 俺を見る人間達に軽く会釈をした後、足早に馬車の乗降口へ急いだ。

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