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引き継ぎ


 第一王子ルイスとの謁見のあと、自室に戻る前に所長室に案内された。

 当然、さっきの件だろう。応接室に勝るとも劣らない扉を開けて、中に入ると無人の静かな部屋があるだけだった。


 後から入ってきた偉い人がソファに座ったのを見て、ウィルが俺を座らせた。

 偉い人って所長だったのか。道理で偉そうに見えた訳だ。


「初めましてと言うわけではないが、私はこの研究所の副所長のクライズだ。今は所長代理だがね。」


 クライズは副所長だったか、ややこしい。

 そう言った目の前のクライズは頭を抱えて項垂れた。


「まさか君とルイス殿下が知り合いだったとはね・・・。いつからかね?」

「つい1週間ほど前ですね。ケガしてたから治療しました。」

「治療って、君は部屋から出られないはず・・・。まさか遠隔で回復魔法が使えるのか?」


 回復魔法と言われたが、治療したのは確かなので頷く。俺のは回復魔法だったのか。


「はぁ、何という人材か。君を失うのは惜しい、非常に惜しいが元気でやって欲しい。ただ第一王子は危険でね、気をつけてくれよ。」

「少し横暴な感じはしましたけど、そこまででしょ?」


 項垂れていたクライズは、なぜか周囲を確認して口に手を添え小さな声で話してきた。


「横暴なんてものじゃない。気に障ればすぐの追放するし、魔法を覚えた頃なんか、そこら中を壊し放題だったんだ。人がいるかどうか構わずね。・・・第一王子を知っている人からすれば、あの人に王位は継いで欲しくないよ。」

「副所長!言い過ぎですっ。」


 ウィルに止められているが、そこまでか。話を聞くだけでは随分と怖い人間みたいだな。

 俺はそんな2人を見て、姿勢を崩さずに返答をする。


「でも俺はどうせ行くアテもありません。追放されたらそれでなんとかしますよ。」

 

 そう言うとクライズはため息をついた後、俺を自室に帰らせた。

 道中、ウィルにも心配をされたものの、行ってみないと分からないので適当に相槌を打っておいた。


 自室の前、ウィルにドアを開けてもらう寸前のことだった。まだ何かあるのだろうか、とウィルの言葉を待つ。


「さっきからそのブレスレットを触っているようだけど、何かあったかい?」

「え?俺がですか?」


 無意識のうちに手首に嵌めているブレスレットを触っていたようだ。

 一応なにかあるかも知れないと、アルヴィには部屋に1人でいてもらっているから寂しくなったのかも知れない。


 意識してしまうと余計にアルヴィを感じていたいと思ってしまう。

 ウィルとの話を適当に切り上げてから足早に自室のベッドへ急ぐ。


「ごめんね、遅くなったよ。すぐ帰るつもりだったんだけど。・・・もう、そんなに拗ねないで。」


 アルヴィにすり寄って全身を使って抱きしめる。

 柔らかな肌をさすりながら、独り言を重ねていく。


「ねぇ、アルヴィ。俺は君といるだけで幸せなんだ。だけど、・・・最近何だか、寂しいんだ。」


 どことなく感じている喪失感を口に出した。胸の奥に針で穴を開けたような、小さな違和感を感じている。

 何の反応も返さないアルヴィを抱きしめながら、なぜか俺は涙を流していた。



 翌朝、俺は初めて1人で研究所の外に出ていた。玄関には見送りなのか、ウィルとクライズがいる。

 2人とも黙ったまま、俺とも目も合わせずどこか上の空だ。


 こう並んでみると身長差が歴然だ。精神的には、ウィルと同じくらいなんだけど。

 さすがに7歳じゃ大人の半分くらいしかない。



 そうこうしていると、昨日ルイスに直接クビにされた護衛が近づいてくるのが見えた。

 昨日のように鎧姿ではないが、馬に乗っているようだ。

 目の前で止まったあと、馬上から声をかけてきた。


「おはよう。新しい犠牲者くん。とりあえず乗りたまえ。君の身柄は騎士団で預かることになった。ほら、手を。」

「はい、分かりました。ではクライズさん、ウィル、今までお世話になりました。」

「ふむ、意外にも礼儀知らずではないのだな。」


 俺はそう答えて元護衛の伸ばしている手を取って引き上げてもらう。

 たかが子供の体くらい、なんて事もないように軽く鞍にに乗せられる。

 

「ではこの子は今日から、ルイス殿下の護衛となるために連れてゆくぞ。」

「あ、ああ、達者でな。決して無礼のないように、でないと君の首が飛ぶかも知れないからね。」


 元護衛の言葉にクライズだけが言葉を返す。ウィルは難しい顔をこっちに向けて、うんうんと頷いている。

 それを聞いた元護衛は、馬の向きを翻して今来た道を戻ろうとする。


 チラリと見えた目の端には、ウィルがぎこちなく手を挙げていた。俺はそれに後ろ手で手を振り返しながら、馬が駆け出す衝撃に耐えていた。



 駆ける馬に乗って尻の痛みを聖魔法で和らげながら、元護衛が話しかけてくれるのを聞いていた。

 独り言というよりは独白と言った印象を受けた。


「ルイス殿下は昔から自らの力を過信しておられる。下手に弟君が優秀なのがいけないのだろう、何人もルイス殿下に更迭された。私の同僚も何人も・・・、それに今度はついに私か。」

「・・・そんなに危険なんですか?」


「ああ、君も気をつけてくれ。我らのような大人なら、護衛の任がなくても暮らしてゆける。君のような子供には酷な事になるやもしれん。」


 この人は優しいな。昨日会っただけの俺を心配してくれている。

 でもまあ、仕事も日々の暮らしもままならなくなっても、俺には行けるところがある。最低を知っているからこそ、心の余裕がある。


「大丈夫ですよ。その時は故郷に帰ればいいんです。」

「・・・そうか。君、名前は?」


「俺の名前はコーダって言います。」

「コーダか。私の名前はクリス。この王城の騎士団に所属している者だ。護衛の任は下ろされても、騎士は続けられるようだからな。」


 お互いの自己紹介が終わる頃には、目の前に建物が見えてきていた。

 城とは別で、裏手にある壁に囲われた建物だ。


 重要な建物なのだろうか、クリスさんのような服の人達が多く配備されている。


「ここは、王族の住居だ。ルイス殿下もこちらで過ごしておられる。城にもお部屋はあるが、こっちは本邸のような扱いだな。」


 近くまで来て建物を見上げながらクリスの話を聞く。


 壁は堅牢で、ところどころ穴が空いていて壁の中から監視されているみたいだ。

 馬の駆け足がゆっくりになっていっても、その建物が放つ威圧感と荘厳さに目を奪われていた。

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