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EX 被験体C-218

このお話で第一部エピローグとなります。


これは主人公が収監された研究所の研究員視点です。


──王国暦768年 2月15日



 研究所にある一報が届いた。私ことクライズ魔法師団研究所副所長は、若い研究員からその報告を聞いて椅子から飛び上がった。


「詠唱も魔法名の発声もなしに魔法を使い、魔力封じで拘束してもなお魔法発動した、と。」

「・・・はい。そのようです。」

「信じられん・・・。」


 私は日々の研究生活によって刻まれた眉間のシワを、更に深くしながら椅子にずり落ちる。

 古来より魔法が確認されたその瞬間から、魔法とは魔力を代償にして発現されてきた。



 それが世界の当たり前だった。そこは絶対不変のものと信じて、研究を続けてきた。

 だが今、世界の常識が根本からひっくり返された。魔力が絶対的な力の象徴であることさえも危うくなっている。


「この情報は簡単に世界を揺るがす。絶対に漏らしてはいけない。せめて理論が証明されるまでは最重要機密だ!」

「わ、分かりました。ですがこの研究所内にはもう広まっていて・・・。」

「いかん!とりあえず今は私名義で緘口令を敷く!すぐに通達せよ!」


 そう言うと若い研究員は、跳ねるようにして慌てて私の部屋から出て行った。

 先ほどの報告によれば、その者は犯罪者で奉仕人として教育されるために、街の刑務所に収監されるそうだ。


 すぐに調べ上げて、手元に置かねば。

 とりあえず研究所の地下にある魔物用倉庫にでも入れるか。



──王国暦768年 2月21日



 ちょうど正午を回ったころ、なんとか根回しをして、被験体C-218を城内にある一番堅牢で人目につきにくい実験棟の地下牢へ確保した。


 見た目はどこにでもいる浮浪児で、特別なにか目を見張る部分はない。

 あの報告が虚偽だったのかと疑ってしまうほど、普通の子供だ。


(いやむしろそっちの方が良い。このまま何事もなく普通の子供でいて欲しいものだ。)



 そもそも魔力封じの制約から逃れられるのであれば、とっくに行動に移している筈だ。

 経過観察は若い研究員達に任せておいて、もし万が一なにか特異なことが起きた場合の口実でも作っておこう。



 その日の夕方、私は被験体C-218を観察している研究員から疑わしい話を聞いた。

 その話では、やはり普通の子供ではないということを大いに察せられた。


「副所長、信じて頂けないかもしれませんが、あの被験体はアルヴィ(・・・・)と呼ばれる何かを持っています。我々には目視出来ませんが、大事そうに扱っているようです。」

「・・・ふむ。あまり刺激するものでもないか。とりあえずは友好的に接しよう。何かがあるのかもしれん。」


 大事な物を奪って暴れさせては元も子もない。ここは王都、実験の犠牲にするのではあまりにも代償が大きい。



──王国暦768年 2月28日



 被験体を観察し始めてから1週間が経っていた。

 特に大きな事件もなく、友好的な関係も築けていると思う。今日も今日とて平和な時間が流れるのだろう。


 そう思っていると、急に部屋がズガンと強く揺れた。爆発などで強い衝撃を与えたようなそんな揺れだった。

 衝撃と同時に下のほうから大きな音も聞こえ、一大事だと思いドアへ急ぐ。

 すぐに廊下に出て、周りにいた研究員に状況を聞く。


「なにがあった!?」

「そ、それがよく分からないんです。ですが、大きな音が階下から聞こえたような。」


 そう聞いたあと、私はすぐに駆け出した。建物内で爆発するものなんて置いていない。

 ここは城内で侵入者だと言うのも考え辛い。


 ならば答えは一つ。あの被験体が何かをしたに違いない。



 階段を駆け降りるにつれ、野次馬が増えていっている。

 そしてその人混みは地下へ続く階段に多く固まっていることが分かった。


 人混みをなんとか押し退け、地下牢へと急ぐ。

 地下へ降りてみると、被験体が収監されている鉄格子はひしゃげ、反対側の壁へ突き刺さっている。



 そのつぶれた鉄格子のそばには、被験体の観察を命じたはずの研究員がおり、壁に背をつけ怯えたような顔をしている。


 その研究員のそばへ寄って、何があったか聞くことにした。

 

「ふ、副所長!すみません、私が 配慮の無いことをしなければこんな事には。」

「そうか、具体的にはどうしたんだ?」

「・・・実は、あの子供の大事そうにしている何かが気になってしまって。鎖で繋がれているのをいいことに、・・・近づいてしまったんです。」


 私はそう聞いたと同時に、もう意味をなしていない牢の中を見る。

 そこには、こちらなど意に介さないように、何か(・・)に寄り添っている。



 私は、関係の修復をしなくてはいけない。被験体、いや少年との間に軋轢が無いようにしなければ研究員としてのプライドが許さない。


 その少年から目を離さないようにして、にじり寄る。

 出来るだけ刺激しないようにして、ゆっくりと歩んでいく。


 少年との距離が2mほど近づいた時、ヒヤリとするような悪寒が体中を走った。

 これ以上進んではいけないと、自分の本能で察しているのだ。



 気づけば息切れをおこし汗が滝のように流れている。私はその場に動けないまま生唾を飲み込み、少年に話しかけた。


「・・・先ほどは部下が失礼をした。・・・申し訳ない。」

「・・・へぇ。あなた偉そうなのにちゃんと謝るんですね。俺も気にしていませんよ、これもただの警告ですから。ですが、あまり無礼がすぎるとあの鉄格子のようになりますよ。」

「・・・善処しよう。」


 意外にも理性的な言葉を放った少年に底知れぬ畏怖を覚える。

 この状況は、少年にとっては造作もない事なのだ。


 従来の魔法よりも強大な力を、前触れも予備動作もなく発動出来るのだ。


「君のその力、我々に教えてくれないか・・・?その力は未知だ。今までの魔法とは訳が違う。」

「構いませんよ。その代わり部屋を変えてくれません?ベッドもないのでは、休むことも出来ません。」


 なんだ、そんなことか。意外にも普通の取り引きで拍子抜けしてしまった。

 すぐに頷いて近くにいた研究員を走らせて、部屋を用意させる。



 とりあえずは平穏な日々を送れそうだと安堵しながらも、この少年の得体の知れない力を調べられる段階まで来た事に、私は如何(いかん)ともしがたい喜びに満ちていた。

もし気に入っていただけましたら、感想・評価・ブクマよろしくお願いします!


次回は登場人物紹介を挟んで、第二部になります。

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