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得体の知れない力


 マクシームを感電死させたあと地面に降りて周囲を睨む。

 状況を察した騎士や捕縛された者達は、俺を見て怯えを見せていた。

 

 騎士は俺から距離を取り、捕縛された者は腰を抜かして動けないでいた。



 俺はアルヴィの方へ戻るために、歩みを進めようとすると足に力が入らなくて膝をついて倒れ込んでしまう。


(この感覚は、魔力切れだ!こんな、時に・・・。くっそ、目を閉じるな、目を閉じたら・・・アルヴィは騎士に回収されて、・・・もう一生会えなくなってしまう!)


 魔力はとうに底をついたものの、なんとか意識を繋げようと唇を噛む。

 周りの騎士達は動かなくなった俺を訝しみながら、ジワジワと俺に近づいているのが分かった。

 

(早く起き上がらなければ!これだけじゃ刺激が足りない。・・・そうだあれなら・・・。)


 自分の右手で頭を掴んで、先程より出力を下げた雷魔法を放つ。

 ビクビクと体が脈打つように跳ねる。魔力消費の代わりなのか、ひどく体が怠いような感覚に襲われた。


 そこへ全身に治療魔法をかけて怠さや傷を治すようにイメージする。

 綺麗さっぱりという程に、今まで経験したことのないくらい劇的に回復した。


(この力はなんだ?俺は魔力の代わりに、何を代償にしたんだ。・・・そんなことより今はアルヴィの元へ。)



 倒れたそのままに、いつもよりすんなりと、磁力反発でアルヴィの所へ飛ぶ。

 取り囲んでいた騎士を跳ね飛ばす勢いで加速した俺は、慌てて闇魔法でブレーキをかけて止まる。


(一体どうしたっていうんだ。この異常なほどの力はなんなんだ。)



 アルヴィの側にいるクインシーを押しのけて、アルヴィを抱き起こす。

 

「君は・・・、危険な力を持っているな・・・。いくら守るためとはいえ、人を殺すのはやりすぎだ。」

「・・・あの男は生きていてもらっては困る。あとはロンバード子爵とかいうクズだ。あいつはアルヴィに消えない傷を与えた。」


(でもアルヴィはもうそんな苦しみも感じない。ある意味では救われたのかな。)



 俺のそんな言葉に目の前の騎士達はたじろいだ。

 腐っても貴族への殺害意思があることが分かったんだ。俺を無視することは出来ないらしい。


「君は、いや君達はあのロンバード子爵領の孤児院の被害者か・・・。あの男はもう罪人となって投獄されていると聞いた。だから君の復讐は終わっているんだ。」


(こいつ今なんて言った?俺の復讐は終わってるだと?)



 クインシーの言葉で頭に血が昇る。視界が黒く染まっていくような感覚を覚える。

 俺は火照る頭で反射的に返答する。


「終わっちゃいない!俺とアルヴィの日常を奪ったのはアイツらだ!あのクズを殺したあとは、関わった人間を全て殺し尽くす!・・・今すぐ退かないならお前ら全員殺す!」


 その言葉を言ったあと、アルヴィを聖魔法で包んで隠蔽する。

 聖魔法は包んでいるだけで効果がある。アルヴィには快適な環境で休んで欲しい。



 アルヴィが消えたことを合図として、周りにいた騎士が飛びかかってくる。


 雷魔法は効果無しだと分かっているので、先程つかっていた闇魔法をぶつける。

 黒い塊が騎士に当たった部分から、砂のような細かい粒子に分解されていく。


(まぁ予想通りだな。消え去ることを願ったんだ。今のこの力は好都合でしかない。)


 闇魔法を受けた騎士は、悲鳴を上げながら転げ回る。

 当たった場所は右太もものようだったが、放射状に効果があるのか股関節あたりで両断されている。


「うわっ、うわああああ!」

「なんという・・・!コーダ君!君はもう危険すぎる!魔力封じの矢を使え!」


 いまだ分解が止まらない騎士を後ろに下げて、何人かで俺に向かって矢を射てくる。

 嫌な感覚を感じる矢だったけど、手を振って闇魔法を使い撃ち落とす。


「何故・・・、あれは魔法を打ち消すはずだ!君は一体なにを使っているんだ・・・!」


 クインシーは俺の魔法を見て驚いた顔をしていた。あれは気持ち悪い印象を受けた。魔力を持っている者には十分に脅威だな。

 そう考えていると、急に頭が割れるような痛みが走った。


(ぐっ・・・頭が痛い・・・。何かが頭の奥から消え去っていくような、そんな痛みだ!)


 俺は頭を押さえて膝から崩れ落ちた。そもそも魔力が枯渇しているんだ。

 なにか得体の知れないものを代償にしている予感はあった。

 

「くそっ・・・、俺はこんなところでっ、終わる訳には・・・!アイツを殺してしまわないと、アルヴィは、アルヴィは・・・!」

「・・・君の気持ちは分かるよ。でもね君は危険すぎる。もう普通の生活は送れないだろう。」


 クインシーが俺を見下げながら、なにか呟いている。俺は痛みに耐えきれず、意識が落ちてしまった。

 ただ、アルヴィだけは無事でいて欲しいと願いをこめて、新たに聖魔法を使ってから目を閉じた。

 



 俺はガタガタという音を全身に感じているところで意識を取り戻した。


「ここは・・・。」


 ここはどこだ。顔を起こして周りを見ると、荷物や檻などが積み重なっていて倉庫のような印象だった。

 俺はその中の1つの檻のようなところに詰められていて、まるで猛獣を囲っているかのようだった。

 でも振動を感じるし荷馬車みたいな所なのか。


(俺は意識を失って、それで・・・移送でもされているのか?)


 気づけば手枷と足枷をつけられて満足に動けないようだ。

 手首はアルヴィに貰ったブレスレットの上に、革製の拘束具がつけられていた。


(アルヴィのブレスレットが見えないじゃないか。邪魔だ。)


 いつものように闇魔法で剥がそうとするも、何故か発動できない。


(これはあの騎士が言っていた魔力封じとか言うやつか。ああ面倒だ。・・・そうだそれよりもアルヴィだ。)


 ジャラジャラと鎖を動かして、俺の胸の中で目を閉じているアルヴィを確認する。

 何故かいまだに隠蔽魔法が有効で、手探りで確認する事ができた。


「良かった。無事だったんだね。」


 アルヴィが無事だったことに安堵感を覚え、髪を撫でて顔を綻ばせる。でも服が血だらけなのがもったいない。あとで吸っておこう。


 やっぱりアルヴィは良い。もうこれからは人目を気にしなくても良いんだと喜びすらも感じている。

 最初からこうしておけば良かった。大事な物は自分のすぐそばに隠しておけばいいんだ。

 

 アルヴィを愛でていると、横から声がかかった。


「おいおい、今度のやつは痴呆かい?勘弁してくれよなー。」

「うるさいな。・・・ごめんねアルヴィ、すぐ黙らせるから。」


 鎖を鳴らしながら立ちあがろうとするも、上手く立てない。絶妙に鎖が立ち上がれない長さになっているのだろう。

 たたらを踏んで倒れながら、檻の柵に大きな音を鳴らして両手をついた。


「わかったわかった。静かにするから暴れるな。」

「・・・ならいい。」

「その代わりお前もうるさくすんなよ。俺以外にもいるんだからよ。」


 そう言うと声の主は、それ以降何も喋らなくなった。最後に言われた言葉が気にかかって、再び周りに目を凝らす。

 俺の入っている檻が整然と並んでいる以外に変わったところはない。


(そうか。この一つ一つに俺みたいな奴がいるのか。人を殺したり、盗みを働くような奴が。)


 そう結論づけた俺は、アルヴィを抱きかかえるようにして横になって、ガタガタと揺れる床で目を閉じた。


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